英語力を身につけたい。その思いはあっても、学び方に迷い、途中で挫折してしまう人は多い。大切なのは、才能の有無よりも、自分に合った続け方を見つけられるかどうかである。本連載「英語スイッチ~続けられた人の学び方」では、試行錯誤を重ねながら英語を習得した人たちの歩みから、英語学習のヒントを探る。今回は、日本で生まれ育ち、留学を経験することなく英語を身につけた英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を運営しているトライズ株式会社 TORAIZ品川センター長の西巻理奈さんに、その歩みと実践を聞いた。(文=JapanStep編集部)
お話を聞いたのは…

トライズ株式会社
品川センター長 西巻理奈さん
東京都中野区生まれ、中野区育ち。留学・海外在住経験なしで英語を習得した。大学では英文科で学び、卒業後はIT企業に勤務。その後、2020年3月に英語コーチングスクール「TORAIZ」を展開するトライズ株式会社へ入社。現在は品川センター長としてセンター運営やコンサルタントのマネジメントを担うほか、自らも受講生に伴走するプレイングマネージャーとして現場に立つ。
現在、西巻理奈さんはトライズ品川センターでセンター長を務める。トライズは、「1年間で1,000時間学習して英語を話せるようになる」ことを掲げ、固定レッスンと継続支援を軸に、ビジネスパーソンの英語学習を支えている。今でこそ、英語を話すことができ、英語学習を支援する立場の西巻さんだが、自身の生い立ちを「本当に普通」と振り返る。
「東京の中野で生まれ育ちました。両親が英語を話せたわけでも、幼い頃から特別な英語教育を受けていたわけでもありません。ただ、両親ともに1970~80年代の洋楽が好きで、家の中ではクイーンやジャーニーなどの音楽がいつも流れていました。あんなふうに歌えたらかっこいいな、と英語そのものへの憧れが自然に生まれていったんです」(西巻さん)
その憧れが、具体的な行動に変わったのは小学校3年生の頃。ディズニー映画の英語の歌を歌いたくなり、まだ英語を読めなかった西巻さんは、母に歌詞をカタカナで書き起こしてほしいと頼んだという。自由帳いっぱいに書かれたカタカナの歌詞を見ながら、何度も歌った。
「英語が全く読めなかったので、カタカナで全部書いてもらったんです。それがすごくうれしくて、1日中それを見ながら歌っていました」(西巻さん)
中学に入ると、いよいよ学校で英語の授業が始まった。西巻さんは入学前の事前課題にも前向きに取り組み、授業そのものを心待ちにしていたという。西巻さんが通っていた学校では、文法だけでなく英語の歌をみんなで歌う時間もあり、英語への親しみは途切れなかったという。そうした気持ちは、そのまま大学選びにもつながっていく。
「幼い頃から、いつか英語を話せるようになりたいと思っていました。英文科を選んだのも、自然な流れでしたね」(西巻さん)
だが、その先に待っていたのは、想像以上に高い壁だった。大学の講義では、外国人教授が90分間ほぼ英語で話し続ける。字幕なしの映画を見て、英語でディスカッションし、さらに内容をプレゼンする。受験勉強はそれなりに積んできたはずなのに、実際の英語運用の場ではまったく歯が立たなかった。
「教授が何を言っているのか聞き取れませんでしたし、『What do you think?』と突然振られると、言葉が出ず、完全に固まってしまっていました」(西巻さん)
なんとかしようと、大学が提携する英会話スクールにも通い始めた。週5日、1回45分。環境としては決して悪くない。むしろ恵まれていたと言ってよいだろう。だが、そこで西巻さんを縛ったのは、英語力そのものよりも「恥ずかしさ」だった。中高女子校から共学の大学へ進んだばかりの緊張感も重なり、自分から話しかけることができない。レッスンを受けたらすぐ帰る。そんな受け身の1年を過ごした末に気づいたのは、「何も変わっていない自分」だった。
「授業の45分が終わると逃げるように教室を出る、そんな1年を過ごしてしまって。全然成長できていない自分に気がついたんです。このままでは終われないと思って、行動を変えていきました」(西巻さん)
西巻さんは学習法を大きく変えたのではなく、まず「受け方」を変えた。教室に入ったらホワイトボードを見て、その日のテーマや表現を頭に入れる。自分ならどう使うかをイメージする。人に振られるのを待つのではなく、自分から会話を広げる。終わった後には、使った表現が自然だったかを講師に確認する。つまり、与えられた場を受け身で消化するのではなく、自分から使い倒すようになったのである。
「この1年は、とにかく『恥ずかしい』を言い訳にせず、チャレンジしようと決めました。やるぞってなったら、授業の受け方が変わるんですよね。それまで人に振られたら返すだけだった私でしたが、自分から話さないと変わらないとわかってからは、とにかく会話を広げよう、何かしゃべろう、と頭を回転させていましたね」(西巻さん)
すぐに劇的な成果として現れたわけではない。3カ月もすると「今日はこれが言えた」という小さな進歩が見えるようになり、半年ほどで「言いたいことがまとまって口から出てくる」感覚が芽生えたという。
英文科に進んだ西巻さんの周囲には、留学を視野に入れる学生も少なくなかった。それでも西巻さんは、日本にいながら英語を身につける道を選んだ。その背景には、高校時代に出会った一人の英語教師の存在があった。
「留学経験も海外生活経験もなかった先生でしたが、ネイティブ教員と流暢な英語で会話するその姿が本当に格好よかったんです。その先生が留学せずに英語力を身につけたと知って、『私もそうなりたい』と思ったんです。正直、意地を張った部分もあります(笑)」(西巻さん)
では、日本にいながら、どのように英語学習のモチベーションを維持し続けたのか。西巻さんは、三つのポイントを挙げた。
「第一に、明確な目標を持つことです。好きな海外アーティストでも、英語が話せる先輩でもいい。『こんなふうに話してみたい』と思えるロールモデルがいると、踏ん張れるんですよね。第二に、逃げられない環境をつくることです。人はどうしても楽な方に流れるので、周りに宣言することも大事です。第三に、自分の変化を自分で確認することです。英語学習では、自分の成長を実感するのが案外難しい。だから、以前聞き取れなかった歌やインタビューをもう一度聞き返してみる。前はわからなかったところが少しでも取れるようになると、それが励みになるんです」(西巻さん)
勉強法として大きな効果を感じたのは、音声に重ねて読むシンクロリーディングや、後追いで復唱するシャドーイング、そして「モノマネ」だったという。中高時代には、英文を丸ごと覚えて発表するレシテーションの経験もあり、それが後の学習に生きたという。教科書のCDを流し、同じスピードで言えるまで繰り返す。大学時代には自分の好きなアーティストのインタビュー素材を使い、楽しみながら音を追いかけた。
「とにかくモノマネです。同じスピードでしゃべれるようになるまで口を回す。そうすると、その日聞き取れなかった文章が、次の日にはすごく聞き取れるようになるんですよ。これを続ければ聞けるようになると、自分で手応えを持てました」(西巻さん)
もう一つの実践が、「独り言英会話」だった。歩きながら、もしこの場面なら何と言うかを考える。インタビューや映画で耳にした表現を自分の生活に引き寄せて、ぶつぶつ口にしてみる。学んだ英語を自分の場面に移し替える作業である。これを繰り返していくうちに、ふとした瞬間に英語が頭に浮かぶようになったという。
「学んだ英語を、どう使うかをいつも妄想していました。歩きながらでも、次こういう話題になったらこう言おうかな、とか考えていました。なんだか怪しい人みたいですけど(笑)、それをずっとやっていましたね」(西巻さん)
ただし、西巻さんが何より大きかったと語るのは、英語学習への向き合い方そのものの変化だ。受験英語では、正しいか正しくないかが問われる。だが、実際の会話では、相手にどう伝わるかの方がはるかに重要である。この視点を持てるようになってから、対人場面でのマインドブロックが薄れていった。
「正しいかどうかより、伝わるかどうかの方が大事だと気づいたんです。ネイティブは、こちらが思うほど細かい文法を気にしていない。そこに気づいてから、コミュニケーションの取り方が変わりました」(西巻さん)
英語が話せるようになって変わったのは、語学力だけではない。相手を理解しようとする姿勢、「当たり前」を疑う視点、そして対話への意識が深まったという。そんな西巻さんは、現在、英語学習者の伴走者として、かつての自分と重なる受講生を支えている。卒業生が外資系企業へ転職してキャリアアップしたり、自信を持って海外研修に参加できるようになったり。そうした受講生の人生が変わる瞬間に立ち会えることが、大きなやりがいだと話す。
「日本にいながらでも、絶対に話せるようになります。ただ、そこにはさまざまな壁があります。私自身もその壁にぶつかり、くじけそうになったことがありました。だからこそ、何をしたらいいかわからない人の背中を押せる。この仕事は、私にとって天職かもしれないと思っています」(西巻さん)

「TORAIZ」品川センター1周年の際にメンバーと撮影した一枚(写真提供=トライズ品川センター)
最後に、英語学習に何度も挫折してきた読者へ向けてアドバイスを求めると、学習環境が整っているかどうか以上に、まず一歩を踏み出すかどうかが未来を分けるのだと語ってくれた。
「すべては自分次第で、きっとどうにかなります。一歩踏み出せば、そこから次が見えてくるはずです。『いつかやろう』ではなく、『今からやってみよう』でいい。1年後には、見え方も考え方もきっと変わっていると思います」(西巻さん)
英語学習のヒント
・「あんなふうに話したい」という憧れが、英語学習を続ける力になる。
・周囲への宣言や定期的な約束で逃げ道を減らし、続けざるを得ない環境を自分でつくる。
・モノマネ、独り言、聞き返しを通じて「伝わる英語」を使い、小さな成長を定点観測する。