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2026.07.22

断っていた依頼に、事業の種がある【連載】再生請負人 平良学が教える 中小企業のゼロイチ術(第3回)

皆さん、こんにちは。フォーバル GDXリサーチ研究所の平良学です。本連載では、中小企業が変化の時代に新たな一歩を踏み出すための考え方を、私自身の経験を交えながらお伝えしています。第2回では、新規事業を考える前に、まず「目隠し経営」から抜け出し、自社の状態を見えるようにすることが大切だとお話ししました。では、見える化によって生まれた余力を、どのように次の事業の種へと変えていけばよいのでしょうか。今回は、新規事業のヒントをどこに見つけ、どう育てていくのかを考えていきます。(解説=フォーバル GDXリサーチ研究所 平良学/文=JMPプロデューサー長谷川浩和)

教えてくれるのは…

フォーバル GDXリサーチ研究所 所長
平良 学さん

1992年、株式会社フォーバル入社。九州支店の責任者として赤字拠点の立て直しに取り組み、コンサルティング事業の立ち上げや事業部の統括、アライアンス事業などを担い、2020年に執行役員に就任。2022年より、GDX(Green × Digital Transformation)を軸に、中小企業のDX・ESG経営、自治体連携による地域企業支援、調査・研究・提言活動に取り組んでいる。

「ありがとう」の中に商機がある

新規事業というと、まったく新しいアイデアをゼロから考えなければならないと思われがちです。もちろん、世の中にないものを生み出す挑戦もあります。ただ、中小企業にとってのゼロイチは、遠くにある特別な発明から始まるとは限りません。

私がまず見てほしいのは、自分たちが誰から、どんな「ありがとう」をもらっているのかです。

ビジネスの本質は、お客様のお困りごとを解消し、「ありがとう」と言っていただくことにあります。どれだけ立派な事業計画をつくっても、そこにお客様の困りごとがなければ、事業は続きません。逆に、小さく見える困りごとであっても、そこに切実な需要があれば、事業として育つ可能性があります。

ただし、中小企業には大企業のような資本力や人材の余力があるわけではありません。広い市場に向けて何でも提供しようとすると、かえって自社の強みはぼやけてしまいます。だからこそ、「誰に向けて、何を提供するのか」を絞り込むことが大切です。

ここで必要になるのが、前回お話しした見える化です。自社は、どのお客様に選ばれているのか。どんな場面で感謝されているのか。競合ではなく、自社に頼まれる理由は何なのか。そこを丁寧に見ていくと、自分たちの「とんがりポイント」が見えてきます。

新規事業の種は、経営者の頭の中だけにあるのではありません。日々のお客様とのやり取りの中にもあります。納品後に言われた一言。いつも頼まれる小さな相談。追加でお願いされる、少し面倒な作業。そこに、自社がまだ気づいていない価値が眠っているかもしれません。

大事なのは、「これは仕事にならない」と最初から決めつけないことです。お客様がなぜそれを頼んできたのか。なぜ他社ではなく自社に声をかけたのか。そこに目を向けると、新しい事業の輪郭が見えてくることがあります。ゼロイチは、大きな発想だけでなく、小さな「ありがとう」の積み重ねから始まります。

なぜ選ばれているのかを掘り下げる

新規事業の種を見つけるうえで、もう一つ大切なのは、いま自社が「なぜ選ばれているのか」の解像度を上げることです。

どの会社にも、お客様から選ばれている理由があります。価格かもしれない。納期かもしれない。小回りの利く対応かもしれない。担当者の対応の丁寧さかもしれない。

ただ、その理由を経営者自身が十分に言語化できていないことは少なくありません。「昔からのお客様だから」「何となく頼んでくれているから」と受け止めてしまうこともあります。しかし、そこをもう一段深く見ていくと、次の事業につながるヒントが見えてきます。

たとえば、お客様が自社に依頼しているのは、本当に商品そのものが理由なのでしょうか。実は、細かい相談に乗ってくれることが価値になっているのかもしれません。急な変更に対応してくれることが評価されているのかもしれません。あるいは、業界の事情をよく分かっているから、安心して任せられているのかもしれません。

この「選ばれている理由」を深掘りすると、自社が伸ばすべき方向も見えてきます。単に商品を増やすのではなく、相談対応をサービスとして磨く。短納期への対応力を高める。特定の業界に特化する。これまで当たり前にやっていたことが、実は他社にはまねしにくい価値だったと気づくこともあります。

中小企業の強みは、大きな仕組みよりも、お客様との距離が近いことにあります。現場の声を直接聞ける。小さな変化に気づける。必要があれば、すぐに動ける。この機動力は、中小企業ならではの大きな武器です。

だからこそ、いま選ばれている理由を、あいまいなままにしないことです。お客様に直接聞いてみるのもよいでしょう。「なぜ当社に頼んでくださっているのですか」「どの部分を評価していただいていますか」「本当は、ほかに困っていることはありませんか」。こうした問いを重ねることで、見えていなかった価値が言葉になっていきます。

新規事業は、突然まったく別の領域へ飛び出すことだけではありません。いま選ばれている理由を深く掘り下げ、その延長線上にある価値を磨くことも、十分にゼロイチです。自社の足元にある強みを見つけ直すことが、次の挑戦の土台になるのです。

断っていた依頼に耳を澄ます

新規事業のヒントは、普段は断っている依頼の中に眠っていることがあります。

お客様から相談を受けたとき、「それはうちではできません」「営業時間外なので難しいです」「そこまでは対応していません」と、断ってきたことはないでしょうか。もちろん、すべての依頼に応える必要はありません。無理に引き受ければ、現場が疲弊し、既存のお客様に迷惑をかけてしまうこともあります。

ただ、断っている依頼の中には、まだ誰も十分に応えられていないニーズが潜んでいることがあります。大事なのは、断る前に一度立ち止まり、「なぜその依頼が来たのか」を考えることです。

たとえば、福岡で出会った歯科医院の例があります。通常の診療時間では通えない人たちの声に向き合い、深夜診療に特化しました。昼間の診療を広く取りに行くのではなく、あえて時間帯を絞り込む。これも一つのゼロイチです。

福岡・中洲の美容室の例もあります。昼間ではなく、夜の街で働く人たちに焦点を当てる。一般的な美容室の営業時間から見れば特殊に見えるかもしれません。ただ、その地域、そのお客様にとっては切実なニーズがあります。その切実さに合わせて提供価値を組み替えることで、新しい市場が生まれます。

畳屋さんの話も印象的です。居酒屋は営業中に畳を替えることができません。であれば、夜間に対応すればよい。普通なら「そんな時間にはできない」と断ってしまいそうな依頼です。しかし、そこに特化すれば、他社が入りにくい仕事になります。

こうした事例に共通しているのは、大きな市場を取りに行っているわけではないということです。むしろ、大手がやらない面倒なこと、時間や場所が限られること、細かな対応が必要なことに目を向けています。中小企業にとっては、そこにこそ勝ち筋があるのです。

お客様の依頼をただ「できる」「できない」で判断するのではなく、その背景にある困りごとを聞いてみる。なぜ、その時間でなければならないのか。なぜ、他社では対応できなかったのか。なぜ、自社に声がかかったのか。その問いを持つだけで、見える景色は変わります。

普段は断っている依頼に、事業の種がある。これは、決してきれいな言葉だけではありません。現場でお客様と向き合っている中小企業だからこそ、拾える声があります。その声に気づけるか、見過ごしてしまうか。その差が、次の一歩を生みます。

変化を分解すれば、商機が見える

新規事業の種は、お客様の声だけでなく、社会の大きな変化の中にもあります。その一つが、コロナ禍で大きく変わった飲食業界です。

従来の飲食店は、おいしい食材を仕入れ、料理人がレシピを考え、店舗で調理し、お客様に提供するというモデルが中心でした。ところが、コロナ禍によって店内飲食が難しくなり、多くの飲食店が従来のやり方を続けられなくなりました。

そのとき、苦しい状況に置かれながらも、自分たちのビジネスをもう一度分解して考えた経営者たちがいました。食材はECで販売できるのではないか。レシピはSNSで発信できるのではないか。巣ごもり需要があるなら、ミールキットとして届けられるのではないか。冷凍技術を使えば、商圏を店舗周辺から全国へ広げられるのではないか。

これまで一体で提供していた飲食店の価値を、仕入れ、レシピ、調理、接客、販売チャネルに分けて見直す。そこにデジタルや物流、冷凍技術を掛け合わせる。そうすることで、店舗だけに依存しない新しい事業の形が見えてきました。

もちろん、すべての会社が同じことをできるわけではありません。大切なのは、変化を前にしたときに、「もう無理だ」と立ち止まるだけで終わらせないことです。「自社の価値を別の形で届けられないか」と考えられるかどうかが、次の一手を分けます。変化は痛みを伴います。それでも、その痛みの中で、これまで見えていなかった可能性が表に出てくることがあります。

スポーツジムの世界でも、同じような変化がありました。対面での高額サービスが難しくなる中で、24時間365日使えるコンビニ型のジムが広がっていきました。これも、変化をどう捉え、お客様の行動にどう合わせるかという経営者の着眼点が問われた例です。

中小企業にとって、変化は脅威である一方、チャンスでもあります。大企業ほど大きな投資はできなくても、お客様の近くで、小さく試し、素早く変えることはできる。むしろ、その小回りこそが中小企業の強みなのです。

前回お話しした見える化によって、自社の強みや余力が見えてくる。そこに、お客様の困りごとや社会の変化を掛け合わせる。すると、次に試すべき小さな一手が見えてくる。ゼロイチとは、その小さな一手を見逃さず、まず動いてみることでもあるのです。

次回は、赤字事業をどう立て直していくのかについて考えていきます。苦しいときほど、経営者は「売上を上げなければ」と考えます。しかし、本当に見るべきなのは、売上の量だけではありません。どの売上を伸ばし、どの仕事を見直すべきなのか。再生の現場で最初に何を見るのかを、次回お話しします。次回もぜひお楽しみに。

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