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2026.07.15

「目隠し経営」をやめれば、次の一手が見える【連載】再生請負人 平良学が教える 中小企業のゼロイチ術(第2回)

皆さん、こんにちは、フォーバル GDXリサーチ研究所の平良学です。本連載では、中小企業が変化の時代に新たな一歩を踏み出すための考え方を、私自身の経験を交えながらお伝えしています。第1回では、私自身の原点を振り返りながら、ゼロイチの答えは机上ではなく、現場にあるということをお話ししました。では、いま中小企業には、なぜ「ゼロイチ力」が必要なのでしょうか。私はその出発点に、「自社の状態を見えるようにすること」があると考えています。新規事業を考える前に、まず「目隠し経営」から抜け出すこと。今回は、変化に向き合うために、中小企業がまず何を見るべきなのかをお話しします。(解説=フォーバル GDXリサーチ研究所 平良学/文=JMPプロデューサー長谷川浩和)

教えてくれるのは…

フォーバル GDXリサーチ研究所 所長
平良 学さん

1992年、株式会社フォーバル入社。九州支店の責任者として赤字拠点の立て直しに取り組み、コンサルティング事業の立ち上げや事業部の統括、アライアンス事業などを担い、2020年に執行役員に就任。2022年より、GDX(Green × Digital Transformation)を軸に、中小企業のDX・ESG経営、自治体連携による地域企業支援、調査・研究・提言活動に取り組んでいる。

変化に気づける会社が生き残る

私はよく、ビジネスは「変化対応業」だとお話ししています。どの時代も、変化に気づき、受け止め、自社の商売に置き換えて考えられる会社が次の成長をつかんできました。どれだけ優れた商品やサービスを持っていても、社会や顧客の変化から目を離してしまえば、事業は少しずつ厳しくなっていきます。これは大企業だけでなく、中小企業にとっても同じです。

私自身、情報通信の分野で長く仕事をしてきました。その中で、いくつもの大きな変化を見てきました。インターネットが広がり、リアルの商売に加えてECという新しい市場が生まれた時代。携帯電話やスマートフォンが普及し、いつでもどこでもつながることが当たり前になった時代。そして現在は、DX、GX、AI、働き方改革、人口減少など、複数の変化が同時に押し寄せています。

変化が起きるたびに、経営者の反応は大きく分かれます。「忙しくてそこまで手が回らない」「うちには関係ない」「いまのやり方で何とかなる」と距離を置く人もいます。一方で、「これは面白い」「少し試してみよう」「自社ならどう使えるだろう」と、変化を自分ごとにする人もいます。その差は、時間がたつほど大きくなっていきます。

たとえば、ECが出始めた頃、リアルの商売がうまくいっている会社ほど、ネット販売に本気で向き合えないことがありました。しかし、その間に新しいプレイヤーが市場をつくっていきました。スマートフォンの普及も同じでした。最初は「歩きながら電話をするなんて格好悪い」と言っていた人も、いまではスマートフォンなしに仕事をすることは難しくなっています。

変化は、最初から分かりやすい顔をしてやってくるとは限りません。むしろ、最初は面倒に見えたり、自社には関係ないように見えたりします。しかし、その小さな違和感の中に、次の事業の種が潜んでいることがあります。だからこそ経営者には、変化をただ恐れるのではなく、まず「何が起きているのか」を見に行く姿勢が欠かせません。

中小企業は、大企業に比べて資本力や人材の余力が限られています。だからこそ、変化を見誤ったときの影響も決して小さくありません。一方で、意思決定が速く、小回りが利くという強みもあります。変化を早くつかみ、自社に合う形で試してみることができれば、大企業にはできない、小回りの利く戦い方ができます。

ゼロイチ力とは、何もないところから突然、大きな新規事業を生み出す力のことだけではありません。変化に気づき、自社の商売に引き寄せ、小さく試してみる力でもあります。その意味で、変化に向き合う姿勢そのものが、中小企業にとってのゼロイチの第一歩なのです。

道具を入れる前に、目的を決める

近年、DXやGXという言葉を聞く機会が増え、企業にはさまざまな変革が求められるようになりました。DXの推進や働き方改革の流れもあり、人口減少や人手不足への対応も避けて通れなくなりました。さらにコロナ禍によって、オンライン会議、電子契約、リモートワークなど、デジタル化は一気に加速しました。

ただ、ここで見落としてはいけないことがあります。道具を入れただけでは、会社は変わらないということです。

これまで多くの中小企業に向けて、IT導入補助金などの支援策が用意されてきました。もちろん、それ自体は重要です。新しいシステムやツールを導入するための負担が軽くなれば、変化に踏み出すきっかけになります。道具を導入するだけでDXが進むのかといえば、そう簡単ではありません。

たとえば、会計ソフトを入れても、経営者が数字を見て意思決定に使わなければ、経営は変わりません。顧客管理システムを入れても、誰にどのような価値を届けるのかが曖昧なままでは、売上にはつながりません。AIを導入しても、どの業務をどう変えたいのかが見えていなければ、一過性の取り組みで終わってしまいます。

大事なのは、道具そのものではなく、道具を使って何を変えるのかです。会社のどこに課題があり、どこに時間がかかり、どの作業が利益につながっていないのか。それを見たうえで、必要な道具を選び、経営に生かしていく。そこまで考えて初めて、DXやGXは経営の力になります。

私は、多くの中小企業にとって本当に必要なのは、道具を一緒に経営へ結びつけてくれる伴走者だと感じています。もちろん、すべてを外部に任せればよいという意味ではありません。まず経営者自身が会社の状況を理解し、何を変えたいのかを考える。そのうえで、必要な情報や専門性を持つ人と一緒に進めていくことが大切です。

中小企業の経営者は、日々の資金繰り、採用、営業、現場対応など、多くの役割を一身に背負っています。その中で、新しい制度や技術をすべて自分だけで理解し、使いこなすのは簡単ではありません。だからこそ、社内外の力をうまく使いながら、変化を経営に結びつける視点が必要になります。

DXやGXは、目的ではなく手段です。流行の言葉に飛びつくのではなく、自社の経営をどう良くするのか。社員の働き方をどう変えるのか。顧客にどんな価値を届けるのか。その問いから始めてこそ、変革は一過性の取り組みではなく、経営を前に進める力になります。

目隠し経営をやめる

では、中小企業が変化に向き合うためには、まず何を見るべきなのでしょうか。私は、一丁目一番地は「目隠し経営から抜け出すこと」だと考えています。

目隠し経営とは、自社の状態が十分に見えていないまま、日々の経営を続けている状態です。経営リソースで言えば、人、物、金、時間、情報。このどれもが十分に可視化されていない会社は少なくありません。売上が厳しいと聞いて、「どれくらい厳しいのですか」と尋ねると、「すごく大変です」と返ってくることがあります。しかし、「すごく」だけでは、次の判断につながりません。

お金の流れが見えていない。社員の動きが見えていない。お客様の動きが見えていない。自社の商品やサービスが、競合と比べてどのような位置にあるのかが見えていない。時間あたりにどれだけ付加価値を生んでいるのかが見えていない。こうした状態では、どれだけ新しいことを始めようとしても、打ち手が定まりません。

経営は、勘や経験だけに頼って乗り切れる時代ではなくなっています。もちろん、経営者の直感は大切です。長年の経験からくる違和感や判断力は、数字だけでは測れない価値があります。だからこそ、その直感を生かすためにも、まず現状を見えるようにすることが必要です。

自社の中だけでなく、外部環境を見ることも欠かせません。法改正が自社にどう影響するのか。取引先である大企業が、サプライチェーン全体にどのような対応を求めているのか。社会の価値観はどう変わっているのか。コンプライアンス、人的資本、環境への配慮、セキュリティなど、以前は大企業のテーマだと思われていたことが、中小企業の取引条件にも関わり始めています。

さらに、テクノロジーの変化も見なければなりません。AIやデジタルツールは、単なる効率化の手段ではなく、人手不足を補い、付加価値を高め、新しい顧客接点をつくる可能性を持っています。しかし、それも自社のどこに課題があるのかが見えていなければ、使いどころを見極めることができません。

目隠し経営から抜け出すとは、難しい経営理論を導入することではありません。まず、自社の状態を言葉と数字で説明できるようにすることです。何に時間を使っているのか。どの仕事が利益を生んでいるのか。どの顧客に選ばれているのか。どこに無理や無駄があるのか。こうしたことを一つひとつ見えるようにする。その積み重ねが、変化に向き合う土台になります。

見えていないものは、変えようがありません。だからこそ、ゼロイチの第一歩は、自社の現在地を知ることから始まります。

見える化が、次の一手を生む

「ゼロイチ」と聞くと、多くの方は新規事業を立ち上げることを思い浮かべるかもしれません。もちろん、それも大切なゼロイチです。しかし、中小企業にとっては、いきなり新しい事業を立ち上げることだけがゼロイチではありません。まず、自社の経営を見えるようにすること。それ自体が、変革に向けた大きなゼロイチです。

なぜなら、新しい挑戦には時間とお金が必要だからです。人手も資金も潤沢にある会社であれば、既存事業とは別に新規事業のチームをつくることもできるでしょう。しかし、多くの中小企業ではそうはいきません。目の前の仕事を回しながら、新しいことにも挑戦しなければならない。だからこそ、まず既存事業の中から時間とお金を生み出す必要があります。

そのために必要なのが可視化です。自社の事業のうち、何を続け、何を見直し、どこに付加価値をつけるのか。どの仕事が利益を生み、どの仕事が社員を疲弊させているのか。どの顧客に選ばれていて、どの領域に伸ばす余地があるのか。これらが見えてくると、次に打つべき手が少しずつ見えてきます。

私はこれを、企業の健康診断のようなものだと考えています。人間の体も、血液や体温、血圧などの状態が見えなければ、適切な処置はできません。企業も同じです。売上や利益だけでなく、人、時間、情報、顧客、商品、外部環境といった経営のバイタルを見えるようにする。すると、変化の兆しにも早く気づけるようになります。

見えるようになれば、経営者は判断できます。どこを守るべきか。どこを変えるべきか。何を捨て、どこに投資すべきか。逆に言えば、見えていない状態で判断しようとすると、どうしても勘に頼る場面が増えてしまいます。それでは、変化の激しい時代に、打ち手が後手に回ってしまいます。

見える化によって生まれた時間やお金を、AIやデジタルツールの活用、新しい顧客接点づくり、社員の育成、商品やサービスの磨き込みに回していく。そうして少しずつ既存事業を変えながら、新しい挑戦の余地をつくっていく。この順番こそ、中小企業にとって現実的で、再現性のあるゼロイチだと私は考えています。

大切なのは、最初から大きく変えようとしすぎないことです。まず見えるようにする。次に、捨てるものと伸ばすものを決める。そして、小さく試しながら、次の一手につなげていく。これが、中小企業が変化の時代を生き抜くために、まず身につけたい基本動作です。

次回は、見える化によって生まれた余力を、どのように新しい事業の種へとつなげていくのかを考えていきます。新規事業のヒントは、遠くに探しに行かなくても見つかることがあります。普段は断っている依頼や、お客様の小さなお困りごとの中にこそ、次の一歩が眠っていることがあります。次回もぜひお楽しみに。

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