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2026.02.06

外部の「知」と現場の「技」を混ぜ合わせる。栃木県が仕掛ける中小企業DXの新しい方程式

日本のものづくりを支える地方の中小企業。その現場には世界に誇る技術がある一方で、デジタル化の波にどう乗るべきか、羅針盤を持たずに荒海へ漕ぎ出そうとしている企業も少なくない。「AI導入」「IoT化」といった言葉が躍るが、最新鋭の設備を導入する資金があったとしても、それを使いこなし、現場の実情に合わせて運用できる「人材」がいなければ、高価な機械もただの箱になってしまう。「良い道具」を買う金銭的な支援だけでは、もはや本質的な変革は起こせない時代だ。
そんな中、栃木県において、行政支援のあり方を一歩進めたユニークな取り組みが成果を上げようとしている。県がハブとなり、現場の職人と、東京などの都市部にいる外部プロフェッショナルを引き合わせる「伴走支援」だ。そこで起きているのは、単なる業務効率化を超えた、組織の血肉を変えるような「化学反応」の物語である。(文=JapanStep編集部)

お金ではなく「人」を送る。栃木県のスマートファクトリー伴走支援

(引用元:PR TIMES

2026年2月17日、栃木県宇都宮市において「AI等未来技術活用スマートファクトリー化推進事業」の成果発表会が開催される。これは、栃木県が株式会社ビザスクを連携パートナーとして迎え、県内ものづくり企業の生産性向上と高付加価値化を支援してきたプロジェクトの集大成となるイベントだ。

この事業の最大の特徴は、従来型の「補助金を配る」だけの支援とは一線を画す点にある。県は、グローバルなナレッジプラットフォームを運営するビザスクと組み、県内企業に対して、AIやIoT、ロボットといった先端技術に精通した「外部の専門家」をマッチングする。そして単発のアドバイスで終わらせるのではなく、数カ月にわたって現場に入り込む「伴走支援」を提供してきた。

発表会では、実際に支援を受けた企業の具体的な成果が報告される予定だ。例えば、明治鋼業株式会社による「革新的生成AIを活用したスマートファクトリーの実現」や、株式会社アイ・シイ・エスによる「熱処理工程の記録デジタル化完成とネットワーク構築による見える化」、株式会社竹中による「既設工作機械へのIoTコネクト」など、タイトルを見るだけでも現場の切実な課題に対して具体的なソリューションが実装されたことがうかがえる。

中小企業の現場において、生成AIやIoTといった最新技術の実装は、経営者や担当者の独学だけではどうしても限界がある。そこに、すでに他社での成功体験や高度な知見を持つプロフェッショナルが入り込み、二人三脚で課題解決に挑む。この「知見の移植」こそが、今回の事業の核心部分である。

行政が「ハブ」になり、地域企業の孤独な挑戦を支える

この取り組みが示唆するのは、地方創生や中小企業支援における「行政の役割」の変化だ。これまでの行政支援は、設備投資への助成金など「ハード面」のサポートが中心だった。しかし、人口減少が進む地方において、いま最も不足している経営資源は「お金」以上に「人(ソフト面)」である。

多くの地方中小企業にとって、DX担当の役員やAIエンジニアを正社員として雇用し続けることは、コストや採用難の観点から容易ではない。そこで現実的な選択肢として浮上するのが、プロジェクト単位で必要な期間だけ外部プロフェッショナルを招く「スポット活用」だ。

もっとも  、地元の経営者が独力で都市部の専門家を探し出し、契約を結ぶまでには心理的・実務的なハードルが依然として高い。こうした「出会いの壁」を解消するために、行政が仲介役となって信用の担保とマッチングの機会を提供する。このスキームは、人材不足に悩む地方企業にとって極めて有効な処方箋となるはずだ。

また、外部人材を受け入れること自体が、企業にとっては大きな「挑戦」である。職人気質が強く、独自のやり方に誇りを持つものづくりの現場にとって、外部の異分子を入れることは勇気がいる決断だ。しかし、今回成果を発表する企業たちは、その扉を開いた。「外の風」が入ることで凝り固まっていた業務フローが見直され、従業員の意識が変わり、結果として生産性が向上する。これこそが、単なる自動化を超えた真の意味での「スマートファクトリー化(組織のアップデート)」と言えるだろう。

変化を恐れず、工場の門戸を開放した経営者たちの決断と、それを黒子として支え続けた県とプラットフォーマーの連携。栃木県で生まれたこの「外部知見×現場技術」の方程式は、全国の中小企業が抱える閉塞感を打ち破るための一つの強力なモデルケースとなるはずだ。