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2026.02.10

「中立の地」から世界のインフラをつくる【連載】越境スピリット~世界で輝く日本人

海外で挑戦を続ける日本人に直接話を聞き、キャリアや価値観を深掘りしながら、世界で活躍するための実践知を探る本連載。今回お話を伺ったのは、スイスを拠点にクリプト領域で起業し、世界に向けたブロックチェーンインフラを構築するINTMAX Co-Founderの藤本真衣さんだ。

日本のクリプト黎明期を「ミスビットコイン」として支え、国内で確かな存在感を築いてきた彼女は、なぜそのポジションを手放し、異国の地へと越境したのか。「自分がコントロールできるお金という選択肢を、世界中の人に届けたい」。その言葉の裏には、東日本大震災を起点に芽生えた問題意識と、インフラを「使う側」ではなく「つくる側」として世界と向き合う覚悟がある。永世中立国スイスで磨かれた視点を通じて、日本人がグローバルで戦うための本質に迫る。(文=JMPプロデューサー 長谷川 浩和)

INTMAX Co-Founder
藤本 真衣さん

兵庫県神戸市出身。ビットコイン/ブロックチェーン分野の起業家・エバンジェリストとして、「Miss Bitcoin(ミスビットコイン)」の愛称で知られる。大学在学中より家庭教師派遣の営業として活動し、トップクラスの実績を残す。その後、役者活動やコンテンツ制作、IT企業勤務など多様な経験を経て、2011年にビットコインと出会い、暗号資産・ブロックチェーンの普及活動を開始。2014年に株式会社グラコネを設立し、日本初の暗号資産寄付サイト「KIZUNA」やクリプト人材支援事業などを手がける。現在はスイスを拠点に、Layer2プロジェクトINTMAXのCo-Founderとして、次世代ブロックチェーンインフラの構築に挑んでいる。

「違和感」から始まった越境の原点──震災が導いたクリプトとの出会い

神戸に生まれ育った藤本真衣さんは、幼少期から舞台やテレビに立つ経験を重ね、周囲から見れば華やかな環境に身を置いていた一方、本人の内面には言葉にしがたい息苦しさがあったという。
「両親は、私のことをいつも大切に思ってくれていました。ただ、海外に関心があり1人でニューヨークに行きたい!と話したときは、あまりの心配から涙を流しながら引き止められたこともあります。私はもともと、興味を持ったことはどうしても挑戦してみたくなる性格だったので、 若い頃は、その愛情深さを少し息苦しく感じてしまうこともありました」(藤本さん)

その反動のように、「自分で決めたい」「外の世界を自分の目で見たい」という衝動が、ますます芽生えていった。

大学進学も、強い意思による選択というより、周囲の期待に導かれた進路だった。教育学科に進学したものの、講義に没頭することはできなかったという。代わりに心を掴まれたのが、家庭教師会社でのアルバイトだった。勉強が苦手な子や不登校の子ども、その家族と向き合い、事情を丁寧に聞きながら選択肢を提示する日々。
「営業というより、『人生相談』に近かったですね。何がこの子にとって一番いいのかを、一緒に考える仕事で、とてもやりがいを感じていました」(藤本さん)

ここで身についたのは、相手の立場に立って価値を翻訳する力だった。言葉の選び方ひとつで人の表情が変わる。その手応えを、身体感覚として覚えていったという。こうした現場での経験は約10年に及んだ。

28歳のとき、転機が訪れる。東京で立ち並ぶビルがきっかけだった。颯爽と行き交うビジネスパーソンの姿に、自身の現在地を突きつけられた気がしたという。
「スーツを着て、名刺交換をしている姿が、ただただかっこよく見えたんです。BtoCではなく、BtoBの世界で勝負してみたいと思いました」(藤本さん)

2011年、起業を決意した直後に東日本大震災が発生する。海外からの寄付を集める活動に関わる中で直面したのは、国境を越える銀行送金の高い手数料と時間のロスだった。
「善意のお金が、途中でどんどん削られていく。その構造がどうしても納得できなかった」(藤本さん)

その違和感の先に出会ったのが、ビットコインだった。当時はほとんど理解されず、「怪しい」「詐欺ではないか」と言われることも多かったが、その中立性に強く惹かれた。
「発行主体がいない。どこの国にも属さない。それって、すごくフェアな仕組みだと思ったんです」(藤本さん)

啓発活動を続けるうちに「ミスビットコイン」と呼ばれるようになり、日本のクリプトコミュニティ形成に深く関わる存在となった。しかし、その立場に安住することはなかった。
「ずっと『応援する側』だったんですよね。でも、いつかは自分が世界を代表するプロジェクトをつくりたい、という気持ちが消えなかった」(藤本さん)

その想いが、次なる越境への起点となっていった。

クリプトフレンドリーな永世中立国スイス

なぜ拠点としてスイスを選んだのか。その問いに対し、藤本さんは「中立性が、何より重要でした」と熱を込めた。
「ブロックチェーンは、特定の国家や企業に依存しないインフラであるべきだという思想があります。だからこそ、プロジェクトの拠点そのものがメッセージを持つと考えたんです。永世中立国スイスは、その思想を体現する場所でした」(藤本さん)


スイス・ルツェルン(Lucerne)中心部に。
バーンホフ通り(Bahnhofstrasse)は観光客が必ず通るエリアで、湖や旧市街にもすぐアクセスできる立地だ

特にツーク州は「クリプトバレー」と呼ばれ、クリプトに対して早期から明確でフレンドリーな規制と税制を整えてきた。
「スタートアップにとって一番怖いのは、ルールが突然変わることです。昨日まで合法だったものが、ある日いきなり禁止される――それが一番のリスクだと思います。その点、スイスは『何がOKで、何がダメか』が最初から明確で、しかもそれが急に覆ることがほとんどありません。事業を長期で考えるうえで、この予測可能性はとても大きいです」(藤本さん)

こうした文化は、「自分のお金を自分で守る」というINTMAXの思想と深く共鳴していた。スイスはEUに加盟せず、周囲を大国に囲まれながらも独立性を保ってきた国である。

「小さい国なのに、交渉が本当にうまい。中立って、ただ真ん中にいることじゃなくて、戦略が必要なんだと思いました」(藤本さん)


スイス南部・ルガーノ(Lugano)の湖畔公園「パルコ・チャーニ(Parco Ciani)」での一枚

ルガーノ湖で運行されている観光用のオープンデッキ船での一枚

金融・医薬・精密機器といった分野で世界的な競争力を維持してきた背景には、この「中立を使いこなす力」があると藤本さんは感じたという。藤本さんが共同創業者として推進するINTMAXは、Ethereumが抱えるスケーラビリティとプライバシーという根源的課題に挑むLayer2プロジェクトだ。

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