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  3. 「作れる」だけでは勝てない。元自衛官弁理士とAIが挑むスタートアップの「知財武装化」戦略

2026.02.09

「作れる」だけでは勝てない。元自衛官弁理士とAIが挑むスタートアップの「知財武装化」戦略

生成AIの普及により、サービス開発のスピードは劇的に上がった。しかし、それは同時に「誰でも簡単に模倣できる」という恐怖と表裏一体だ。資金力のないスタートアップにとって、自らのアイデアを守るための特許出願は、重要だと分かっていても後回しにされがちな「贅沢品」だった。丸腰のまま戦場へ出るようなこの危険な現状を、テクノロジーと法務の力で根底から覆そうとする動きがある。
2026年1月15日、株式会社AIDAOが発表した新体制と「AI知財ラボ」の創設は、日本のベンチャーシーンにおける防衛ラインを再構築するものだ。目指すのは、AIの力で「安く・早く・強い」特許を生み出し、すべての挑戦者に最強の盾を配ること。それは、日本の知財戦略における静かなる革命の始まりかもしれない。(文=JapanStep編集部)

「費用ゼロで特許出願」を当たり前に。AI×専門知で挑む構造改革

AIDAOが新たに設立した「AI知財ラボ」は、単なるAIツールの開発拠点ではない。その核心は、同社取締役に就任した弁理士・中辻 史郎 氏の存在にある。防衛大学校出身で元陸上自衛隊幹部、さらには暗号理論やAIの研究者という異色の経歴を持つ中辻氏は、「勝てる特許」の論理構成を知り尽くしたプロフェッショナルだ。

(引用元:PR TIMES

今回のプロジェクトが画期的なのは、一般的な大規模言語モデル(LLM)に、中辻氏が持つ高度な「特許実務の暗黙知」を学習させ、融合させた点にある。これまでのAIによる特許作成は、形式を整えることはできても、権利範囲を戦略的に広げたり、他社の回避を防いだりといった「強さ」の面で人間の専門家に劣る部分があった。AIDAOは、独自のクローズドナレッジをAIと連携させる特許技術を用いてこの壁を突破し、「高品質な特許出願書類 」を「圧倒的な低コストとスピード」で生成するAIエンジンの開発に乗り出した。

さらに注目すべきは、スタートアップ側の金銭的負担を極限まで下げるスキームの構築だ。日本弁理士会が提供するスタートアップ向け支援制度を組み合わせることで、実質的な負担を「ゼロ」にする特許出願モデルの確立を目指している。

これまで、資金調達前のシード期のスタートアップにとって、数十万円かかる特許出願は高いハードルだった。しかし、この「AIによるコスト圧縮」と「公的支援制度」の掛け合わせにより、「事業開始前の特許出願」が当たり前の選択肢となる。アイデアと思いつきだけで起業するのではなく、最初から「権利」という武器を持って市場に出る。そんな新しいスタンダードを作ろうとしているのだ。

「知財敗戦」を防げ。“技術はあるのに、負ける日本”からの脱却

今回の取り組みが示唆するのは、日本の産業界が長年抱えてきた「知財力の弱さ」へのカウンターアクションだ。

日本のスタートアップや中小企業は、世界的に見ても高い技術力やユニークなアイデアを持っていることが多い。しかし、それを権利として守る知財戦略が弱いために、グローバル企業に模倣されたり、安く買い叩かれたりするケースが後を絶たない。いわゆる「技術で勝って、事業で負ける」というパターンだ。

特にAI時代においては、プロダクトのコピーはかつてないほど容易になっている。コードもデザインもAIが生成できる今、最後に残る参入障壁は「知的財産権(特許)」しかないと言っても過言ではない。それにも関わらず、日本のベンチャーの特許活用率は諸外国に比べて極めて低いのが現状だ。

元自衛官であり、戦略的思考を持つ中辻氏をCIPO(最高知財責任者)に据えたことは、AIDAOの覚悟の表れだろう。知財を単なる法務手続きではなく、「生存競争を勝ち抜くための防衛装備」と捉え直しているからだ。数学的理論やブロックチェーンなど、難解な先端技術に精通した弁理士のノウハウがAIによって民主化されれば、資金力のない小さなチームでも、大企業と対等に渡り合える「知財ポートフォリオ」を構築できる。

模倣困難な独自技術を権利化し、国際競争力を底上げする。これは単なる一企業のサービスリリースを超え、日本のスタートアップ・エコシステム全体を強靭化するためのインフラ整備と言える。挑戦者が、その挑戦の果実を誰にも奪われることなく、正当に評価される世界へ。「AI知財ラボ」の試みは、日本のイノベーションを守るための重要な防波堤となるだろう。