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  3. 「速さ」だけが正義ではない。日本通運が提示した、空の便を「CO₂」で選ぶという新しい物流戦略

2026.02.20

「速さ」だけが正義ではない。日本通運が提示した、空の便を「CO₂」で選ぶという新しい物流戦略

これまで、国際物流におけるフライト選びの基準は極めてシンプルだった。「いかに速く、安く届けるか」。この二軸こそが、グローバルサプライチェーンを支える絶対的な正義であり、フォワーダー(貨物利用運送事業者)に求められる最大の価値だった。しかし、その常識がいま書き換わろうとしている。
2026年2月、NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社(以下、NXグループ)のグループ会社、日本通運株式会社が開始した新たなサービスは、航空輸送の選択肢に「CO₂排出量」という第三のモノサシを持ち込んだ。貨物が空を飛ぶ際に排出されるCO₂量を可視化し、荷主が自らの戦略に合わせて最適なフライトを主体的に選べるようにする。これは単なる環境配慮のポーズではない。迫りくる脱炭素の開示義務を前に、これまで「コスト」でしかなかった物流を、企業のブランドを守る「戦略的資産」へと変えるための挑戦である。(文=JapanStep編集部)

見えなかった負荷を数値化する。データが拓く「選べる」物流の形

2026年2月2日より提供が開始された、環境配慮型フォワーディングサービス「NX-GREEN FORWARDING ~AIR~」の核心は、ブラックボックスになりがちだった「航空輸送時のCO₂排出量」を、誰の目にも明らかな「選択可能なデータ」へと変貌させた点にある。

航空輸送は、船舶や鉄道に比べてリードタイムが短い一方で、重量あたりのCO₂排出量は格段に多い。環境負荷を低減したい企業にとって、空輸の利用は常にジレンマを伴うものだった。日本通運はこの課題に対し、独自の計算ツール「NX-GREEN Calculator」を活用。世界物流排出量評議会(GLEC)が定めた国際的な枠組みに準拠し、フライトごとの排出量を精緻に算定する体制を整えた。


(引用元:PR TIMES

具体的なサービス内容は、成田空港を出発し、アムステルダム、フランクフルト、パリといった欧州の主要都市へ向かう輸送を対象としている。見積もりの段階で、CO₂排出量の異なる「Eco-Lite」「Eco」「Standard」の3つのプランが提示されるのが特徴だ。経由便の選定や使用機材の効率的な組み合わせにより、排出量を最大で月間約40%削減できるという。

ここで重要なのは、単に「環境に良い便を割り当てる」のではなく、顧客に「選ぶ権利」を委ねている点だ。「今回はスピードを最優先するが、次回の定期便では排出量を40%削るプランを選ぶ」といった、ビジネスの状況に応じた柔軟な意思決定が可能になる。これまで物流会社にお任せだった輸送プロセスを、データによって荷主が自らコントロール下に置く。このプロセスの進化こそが、物流の近代化における大きな一歩と言えるだろう。

Scope3対応を「攻め」の武器へ

航空輸送における排出量の可視化が、なぜ今これほどまでに重要視されているのか。そこには、2027年3月期からスタートする、プライム市場上場企業の一部を対象とした「有価証券報告書での排出量開示義務化」という差し迫った問題がある。

これからの企業経営において、自社の活動(Scope1, 2)だけでなく、原材料の調達や製品の輸送、廃棄に至るまでのサプライチェーン全体(Scope3)の排出量を把握・削減することは、避けては通れない社会的責務となる。対応が遅れれば、投資家からの評価を損なうだけでなく、グローバル市場での取引から排除されるリスクすらはらんで いる。

しかし、この状況を逆手に取れば、物流の脱炭素化は強力な「攻め」の武器に変わる。今回のようなサービスを通じて選択された低炭素な輸送実績は、そのまま荷主企業のScope3削減実績として算定可能だ。製品そのものの品質だけでなく、「どう運ばれてきたか」というプロセスにまで環境性能をもたせることは、日本の製造業がグローバル競争において高い付加価値を主張するための、これ以上にないエビデンスとなるだろう。

かつて、輸送に伴うCO₂は「避けることのできない負の副産物」だった。しかし、可視化技術の向上と、NXグループのような物流事業者の挑戦によって、それは今、経営者が自ら管理し、改善できる「変数」へと変わった。

2026年、日本の物流は「運ぶ」だけのフェーズを終え、データを通じて持続可能な社会の形を「設計する」フェーズへと突入した。空の便を炭素で選ぶという新しい習慣が定着したとき、日本のビジネスは環境と成長を両立させる、真に強靭なステージへと引き上げられるはずだ。