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2026.02.18

AIに「正解」を問うな。SHIBUYA QWSで80名の経営者が向き合った2026年の生存戦略

「答え」の価値が、静かに暴落している。生成AIに問いを投げれば、過去のデータをもとにした最適解が、数秒で返ってくる。かつてビジネスパーソンが必死に磨いてきた情報処理能力や知識の蓄積は、技術の進化によって一気に“誰もが使えるもの”になった。では、人間にしかできないことは何か。それは、まだ存在しない未来に向けて「問い」を立てること。そして、その問いに他者を巻き込み、共に進もうとする“熱”を生み出すことではないだろうか。

2026年1月20日、東京・渋谷の共創施設「SHIBUYA QWS」で、株式会社イマジナと山梨県が仕掛けた熱気溢れる勉強会が開催された。この場に集まったのは 、AI時代の荒波を前に、新たな羅針盤を求める80名の経営者たちだった。(文=JapanStep編集部)

「認知」から「共感」へ。脳科学が暴く“選ばれるブランド”の正体

「渋谷QWS特別勉強会:自社ブランドを明確にし唯一無二の選ばれる企業へ」と題された本イベント。登壇したのは、ブランドコンサルティングを手掛ける株式会社イマジナの代表、関野 吉記 氏だ。関野氏は、AI技術が成熟した2026年現在において、企業が生き残るための条件を「仮説構築力」と「人間力(EQ)」の2点に集約して語った。
 (引用元:PR TIMES

講演で特に印象的だったのは、最新の脳科学と行動経済学をもとに再定義された「ブランド論」だ。人間の知覚の90%は、目の前の事実ではなく、過去の記憶や文脈によるトップダウン処理によって形成されているという。つまり、消費者は商品のスペック(事実)を見ているようで、実際には脳内に作られた「ブランドのイメージ(記憶)」を見ているに過ぎない。AIは事実を並べることは得意だが、人の記憶に残り、感情を動かすような「文脈」を紡ぎ出すことは苦手だ。だからこそ、経営者はデータには表れにくい「人の感情の機微(サイコグラフィック)」を捉え、共感を呼ぶストーリーを構築する力が求められる。

また、組織論においても「人間力」の重要性が強調された。関野氏は、組織の事故や不祥事を防ぐための「ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)」を引用しつつ、その根底にあるのは従業員エンゲージメントの欠如だと指摘した。上辺だけの満足度調査でガス抜きをするのではなく、共通の理念(言語)を持ち、健全に意見を戦わせられる「心理的安全性」を築けるかどうか。それを左右するのはリーダーのEQであり、若手社員に「あるべき姿(To Be)」を描かせる教育投資だという。AIに代替されない組織を作るためには、逆説的だが、最もアナログな「人と人との関係性」を磨くしかないのだ。

地方と都市が「問い」でつながる。山梨県が示す本気のエコシステム

この勉強会がユニークだったのは、単なる企業のセミナーではなく、山梨県という自治体が共催として深く関わっていた点だ。会場となったSHIBUYA QWSは「問い」をテーマにした共創施設であり、そこに地方自治体が乗り込んでくる構図自体が、新しい時代の地域共創を象徴している。
 (引用元:PR TIMES

イベントでは、山梨県立スタートアップ支援センター「CINOVA YAMANASHI」を核としたエコシステムについても語られた。最大200万円の支援金や、研究開発に対する最大2,000万円の補助といった資金面の支援もさることながら、特筆すべきはソフト面、すなわち「人」への投資だ。世界的起業家ネットワーク「EO(Entrepreneurs' Organization)」のメソッドを活用したメンタリングプログラムを導入するなど、起業家のマインドセットや経営スキルそのものを底上げしようとする本気度が見て取れる。

AI時代において、地方と都市の距離はもはやハンデではない。重要なのは、どこにいるかではなく「どんな問いを持っているか」だ。山梨県は、地域課題という「問いの宝庫」をフィールドに、世界と戦えるスタートアップを生み出そうとしている。その熱量に呼応するように、渋谷の会場に集まった80名の経営者たちからも、次々と質問や意見が飛び交った。

AIは「正解」を出す優秀なツールだ。だが、「何を解くべきか」を定めるのは人間の役割である。そして、その問いに共感し、共に動いてくれる仲間を集めるのもまた、人間にしかできない。今回の勉強会は、経営者が自らのOSを「処理」から「創造」へとアップデートするための重要な通過点だったと言えるだろう。