新たな挑戦に踏み出すとき、英語は可能性を広げる大きな武器になる。一方で、学び始めても続かない、何度も挫折してしまうという人も少なくない。本連載では、英語を使って活躍する人たちに、続けられた理由や具体的な学び方を聞く。今回お話を伺ったのは、スリランカを拠点に観光・視察・研修事業と日本語メディア『Spice Up』を展開するSpice Up Travels (PVT) Ltd 代表の神谷政志さんだ。もともと英語が得意ではなく、越境してビジネスをすることは全く考えていなかった神谷さん。30代から本格的に英語学習に取り組み、どのように壁を越えたのかを聞いた。(文=JapanStep編集部)
お話を聞いたのは…

Spice Up Travels(PVT)Ltd
代表 神谷政志さん
法政大学社会学部卒業後、新卒採用支援会社で採用事業部長などを歴任。国内長期インターンや学生向け海外研修事業の立ち上げを経て、2017年にスリランカで起業。現在はSpice Up Travels (PVT) Ltd を率い、観光・視察・研修事業と、スリランカ唯一の日本語情報メディア『Spice Up』を展開。発行人・編集長として、現地の魅力を日本に伝えている。
今でこそ、スリランカの地で英語を使いながら生活し、日本語メディア『Spice Up』をはじめ複数の事業を手がけるSpice Up Travels (PVT) Ltd 代表の神谷政志さんだが、最初から英語に強かったわけではない。中学・高校時代にはNHKラジオを聞き、英語を話せたら格好いいという憧れもあった。だが、実際に話せるようにはならず、社会人になってからも英語とは縁の薄い日々が続いたという。
転機は、30歳を過ぎて海外の仕事に関わり始めたことだった。必要性は感じながらも、すぐに学習が軌道に乗ったわけではない。知人に勧められた英語塾にも通ったが、自分には合わなかった。「伸びる」と言われた方法でも、本人に合わなければ続かない。その現実を、神谷さん自身が何度も経験した。実際、複数の塾に通っては挫折し、「お金をドブに捨てた」と振り返るほど、遠回りもした。
それでも学習をやめなかったのは、32歳のときに強い危機感を抱いたからだ。「このままだと一生英語ができない人生で終わりそう」。その感覚が、趣味や気まぐれではない、本気の学びへと自分を押し出した。神谷さんはそこで、薄く長く続けるのではなく、一定期間を英語に振り切る「一点突破」の発想を選ぶ。
大きな転機になったのが、フィリピン留学だった。セブ島を訪れた際、友人が勧める学校で1時間だけ体験授業を受けたところ、それまで受けていた8時間の授業よりも、その1時間のほうがはるかに頭を使い、疲れたという。「これだ」と思えたのは、学習が受け身ではなく、自分の頭と口を総動員するものだったからだ。
その学校で採用されていたのが、「サイクルラーニングメソッド」だった。例文をもとに、立場や時制を変えながら対話を繰り返し、インプット、アウトプット、修正を循環させていく。少しでも語尾が違えばやり直し。意味が通じればよし、では終わらせない厳しさが、神谷さんには合っていた。英語学習では「通じたから大丈夫」で流されがちだが、神谷さんはむしろ細かな誤りをその場で正してもらえることに価値を感じたという。
加えて、環境そのものも強烈だった。学校では日本語が禁止され、2回話せば退学。飛行機に乗った瞬間から日本到着まで、日本語でのLINEも含めて断つという徹底ぶりだった。極端に聞こえるかもしれないが、神谷さんはこの「逃げ道のなさ」が良かったと語る。英語を使うしかない状況に身を置くことで、覚悟が日常に変わっていったからだ。
留学中は1日8時間の授業に加え、宿題もある。結果として、1日10〜12時間を英語に費やす生活になった。だが神谷さんは、それを苦行とは捉えていない。
「習い事って、ある意味楽なんですよ。先生が用意してくれるので、自分で考えなくても宿題をやっていればいい。ビジネスの現場では自分で決め、自分で動かなければならないですよね。学習の場では“学生モード”に戻り、与えられた課題に集中すればよい。そう前向きに捉えました」(神谷さん)
重要なのは、その熱量が留学で終わらなかった点である。帰国後も神谷さんは、フィリピンでの環境を日本で再現しようとした。朝7時に起き、1日のスケジュールを組み、同じように英語だけに向き合う生活を1カ月続けた。やればやるほど伸びる感覚がつかめると、学習は義務から面白さへ変わる。神谷さんにとっての「英語スイッチ」は、才能ではなく、危機感と環境設計、そして短期集中の先に入った瞬間だったのだ。
その後、神谷さんが学習の軸に据えたのも、フィリピンで出会った「サイクルラーニングメソッド」の考え方だった。ただ闇雲に勉強時間を積み上げるのではなく、自分の弱点を見極め、それぞれに合った方法で4技能(聞く・話す・読む・書く)を補強する。
具体的には、会話はオンライン英会話、ライティングは添削サービス、リスニングはディクテーションアプリと、技能ごとに使うサービスを分けた。留学中の経験を通じて、自分は何が弱いのか、どこでつまずくのかが見えていたからである。特にリスニングは、当初かなり苦戦したという。
「映画のセリフや英語の歌詞を聞き取る授業では、最初はほとんど歯が立ちませんでした。何を言っているのか全く分からなかった。それでも毎日続けると、10日ほどで少しずつ聞こえる単語が増えていったんです。英語は才能よりも積み上げで変わるものだと実感した瞬間でしたね」(神谷さん)
ライティングでは、英語日記を書き、添削を受ける習慣を続けた。話す力と書く力は別物であり、頭の中にある曖昧な理解を言語として整えるには、書いて直されるプロセスが必要だった。
「私の場合は、単に独学で済ませるのではなく、費用をかけて『レビューを受ける体制』を意識的に整えました。払った以上はやる、見てもらう相手がいる以上は手を抜かない、という状態を自分の外側につくりました」(神谷さん)
英語が使えるようになってからの変化について、神谷さんは「英語ができなかった時代を忘れてしまうくらい視野が広がった」と語る。日本語と日本人だけの世界で意思決定していた頃には見えなかった選択肢が、英語を通じて一気に現実味を持つようになったのだ。「スリランカは世界史の視点でとても面白い国。自分が手掛けるメディアで記事を作る際に、過去の歴史や社会を調べる際にも、英語の文献に自然に当たれるようになりました。以前なら『自分には無理だ』と最初から諦めていたことに、いまは抵抗なく手を伸ばせています」(神谷さん)
では、今まさに英語学習で苦しんでいる人は、何から始めればよいのか。神谷さんの答えは明快だった。まずは「集中してやること」。薄く長く続ける学び方が合う人もいるだろうが、自分には一点突破のほうが合っていたと神谷さんは言う。
「日本人が英語を話せるようになるのは、数千時間かかるといわれています。逆に言うとそれくらい学べば英語は話せるようになる。であれば、英語ができる時期を早く手に入れ、その時間をなるべく長く生きたほうが、人生は豊かになると思うんです」(神谷さん)
同時に、神谷さんは「自分に合う英語学習法を探すための試行錯誤」は必要なプロセスだと語る。合わない塾に通ったことも、無駄ではなかった。うまくいかなかった経験があったからこそ、フィリピンで出会った方法に手応えを持てたからである。誰かに効いた学習法が、自分にも効くとは限らない。だからこそ、合わなければ変える。その見切りの早さも、継続の一部なのだろう。
最後に印象的だったのは、継続に対する神谷さんの柔らかな捉え方だ。
「英語学習は1日5分だったとしても積み重なっています。1週間さぼってしまっても、またやればいいんです。私もその苦しい気持ち、すごくよく分かりますから。いつか話せるようになることを信じて、読者の皆さんも頑張ってくださいね」(神谷さん)
英語学習のヒント
・少しずつ続けるだけでなく、どこかで短期集中の時間を確保する
・意志の強さに頼らず、学ばざるを得ない環境を先に設計する
・人に合う方法は違う。試行錯誤しながら自分なりの型を見つける