2026.05.12

広がる、新たな電子決済~ステーブルコイン時代の航海術(前編)

2026年現在、急速に普及が進む電子決済手段「ステーブルコイン」。法整備も後押しし、私たちのビジネスに変革をもたらすと期待されています。しかし、その技術に精通していない人にとって、そのメリットは一見理解しにくいもの。そこで今回は業界の有識者にお話を伺い「ステーブルコインをどのように使えるか」を基礎から解説いただきました。

監修・ご寄稿をいただいたのは、JMP(JapanStep Media Project)のパートナー企業でもあり、ブロックチェーンやステーブルコインを活用した事業づくりを支援する株式会社Pacific Metaで、執行役員/ブロックチェーン研究所長を務める松本頌平さん。
初心者にもわかりやすく、ステーブルコインの基礎から業界動向までつかめるよう解説いただきます。松本さん、よろしくお願いします!(リード文=JapanStep編集部、本文=Pacific Meta 松本さん)

株式会社Pacific Meta
執行役員/ブロックチェーン研究所長
松本 頌平さん

大学在学中より暗号資産・ブロックチェーン領域に携わり、株式会社ドットメディアにて暗号資産投資メディア『かそ部』のディレクター業務を担当。その後、Skyland Venturesにてキャピタリストとして海外ブロックチェーンプロジェクトへの投資を実施し、海外Top Tier VCとの共同投資も経験。2023年にはブロックチェーン技術のR&Dを手掛ける株式会社Chip Mateを創業。AmazonやOpenAI出身のエンジニア、米国の研究者とともにグローバルプロジェクトの技術開発をリード。2024年より Pacific Meta に参画し、執行役員兼ブロックチェーン研究所 所長として新規事業開発・トークンファイナンス支援・技術研究を推進。

着々と整備が進む、新決済「ステーブルコイン」とは

ステーブルコインとは、円やドルといった「普段使っているお金」=法定通貨と価格が同じになるように設計されたデジタル通貨です。たとえば「1コイン=1円」のように、価格が大きく変わらないように作られています。イメージとしては、電子マネーのように、円やドルをデジタル上のデータに置き換えて、決済に利用できるようにしたものといえます。

中でもJPYCは、日本円と1:1の比率で価値が連動する、日本発のステーブルコインです。法的には「電子決済手段」として扱われ、発行している会社は、発行したコインの枚数と同じだけの日本円に相当する資産(預金や国債など)を保有しているため、1JPYC=1円として交換できる仕組みになっています。

ステーブルコインは「ブロックチェーン」という技術を使って動いています。難しく感じるかもしれませんが、ポイントは「インターネット上で直接お金をやり取りできる」ことです。銀行を介さずに送金できるため、手数料が安く、スピーディーにやり取りできる点が注目されています。

日本国内では、2023年に施行された改正資金決済法によって「電子決済手段」として明確に定義されました。これにより、法的に暗号資産とは異なるものとして位置づけられています。つまり、安全性やルールが整備され、安心して使える環境が整いつつあります。

2025年8月18日付でJPYC株式会社が、この法律に基づく「資金移動業者」として登録を完了し、日本円に連動するステーブルコインの発行を開始しました。現在、日本で利用できる円建て※ステーブルコインはJPYCが代表的な存在ですが、これはあくまで一つのサービス名です。

※金融商品を日本円で決済することを「円建て」、米ドルで決済することを「ドル建て」という

(引用:JPYC公式)日本円 ↔ ステーブルコインの交換を行う JPYC公式サービス「EXJPYC」

今後、別の企業による発行が可能になれば、別の名称の円建てステーブルコインが誕生するでしょう。そして、「別の企業」による動きはすでに始まっています。

2025年11月には三菱UFJ銀行・みずほ銀行・三井住友銀行の3メガバンクが、三菱UFJ信託銀行を受託者とする「信託型」の円建てステーブルコインを共同で発行する取り組みを正式発表しています。

さらに、別の企業グループによる日本円ステーブルコインの開発も進んでおり、用途に応じて複数の種類が使い分けられる時代になりつつあります。たとえば、個人向けの少額送金、企業同士の大口決済、海外との取引など、それぞれのニーズに合わせた役割分担が進んでいくと考えられます。

こうした動きから、日本のステーブルコイン市場は急速に広がりつつあります。JPYCのようなサービスが登場したことで実用化が進み、企業や個人が実際に使う場面も増えていくでしょう。

また、海外でも同様の動きが活発化しており、特にアメリカでは制度整備と企業の導入が急速に進んでいます。こうした背景から、2025年は「ステーブルコイン元年」とも呼ばれています。

ビットコインといった暗号資産との違いは?

ブロックチェーン技術を利用した通貨や資産と言うと、ビットコインなどの仮想通貨や暗号資産を思い浮かべる方も多いかと思いますが、ステーブルコインは性質が大きく異なります。

ビットコインやイーサリアムに代表される暗号資産は「市場における需給に従って価格が変動」します。

株式と同じように、発行会社の業績や将来性などに基づいて値段が上下するため、投資家の期待や社会情勢などの変化を受け、価格が不安定になりがちです。

一方、ステーブルコインは、特定の法定通貨に対して価値を安定させるよう設計がなされています。特に多くのステーブルコインは、発行した分と同じだけの現金や国債などを裏付けとして保有することで、「いつでも同じ価値で交換できる」仕組みを作っています。(法定通貨担保型)

例えば、米ドルと1:1で連動するステーブルコイン「USDC」の場合は、発行会社がいつでも1USDCを1USDと交換してくれることになっているために、価格が安定するのです。結果として、決済手段としての実用性が高まります。


価格変動のあるビットコインに比べ、ステーブルコインの安定さがうかがえます

日本円ステーブルと米国ドルステーブル

ここで、グローバルと日本国内での動きの違いも押さえておきたいと思います。

グローバル市場では米ドル建てステーブルコインが主流で、市場シェアの大部分を占めており、そのシェアは2024年度末で99%に達しました。利用者が多いため利便性が高く、国際的なデジタル決済や送金、分散型金融(DeFi)などの分野で広く活用されています。

一方、日本国内では前述の通り法律の整備が進んだことで、円に連動したステーブルコインの開発が本格化しています。発行できる事業者も限定されており、銀行や信託会社などが中心となって、安全性を重視した仕組みが採用されています。

これにより、電子決済手段等取引業の登録を受けた業者のみが発行・流通できるようになりました。日本のステーブルコインの発行主体は、海外同様に、主に信託スキームや資金移動業者が担っています。現時点では中央銀行による直接発行は行われていませんが、今後の動向には注目です。

今後は、個人向けの少額決済、企業間の大口決済、そして海外との取引といった用途ごとに、複数のステーブルコインが使い分けられていくでしょう。

従来、仮想通貨は価格変動の大きさから投資対象として見られることが多くありましたが、ステーブルコインは「実際に使うお金」としての役割が強いのが特徴です。この点を理解すると、企業や社会でどのように活用されていくのかがイメージしやすくなります。

しかし、企業はわざわざステーブルコインを使わなくても、従来通りの決済方法で良いのではないでしょうか。そこで後編では「ステーブルコインを利用するメリット」を解説します。(後編につづく)

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