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2026.01.22

防災の未来を創るメタバース 「無関心」を「関心」に変える挑戦

阪神・淡路大震災から30年、南海トラフ巨大地震が懸念される中、防災大国 日本にはいまだ「63%の人が防災訓練を受けたことがない」という現実が横たわる。そんな危機感のもと、2025年5月に大阪・関西万博で「防災万博」を主催したのが株式会社Meta Heroesだ。代表取締役の松石和俊さんは「無関心を関心に変える」ため、メタバースを活用した防災教育に挑む。未来の防災と社会実装を描く同社の最前線を追った。(文=MetaStep編集部)

※本記事は『MetaStep Magazine』に掲載した記事を再掲載したものです。その他の記事は冊子でお読み頂けます。

株式会社Meta Heroes
代表取締役
松石 和俊さん

熊本出身。幼少期の経験から社会変革を志し、60社以上を創業した連続起業家。2021 年にMeta Heroes を設立し、メタバースやAI、防災、地方創生分野で事業を展開。Hero Egg 開設や大阪・関西万博での大型イベント主催など精力的に活動。「100 人のヒーロー創出」を掲げ、テクノロジーで社会課題解決に挑み続ける。

大阪・関西万博が問う防災の未来

「万博は終わってからが勝負なんです」松石さんはそう切り出す。2025年5 月、大阪・関西万博の公式プログラムとして開催された「防災万博」は、単なるイベントではなかった。そこには、防災を「自分ごと」に変える強い意図が込められていた。

「日本の国土は世界の0.25%しかありませんが、マグニチュード6以上の地震の22%が日本で起きています。災害大国でありながら、東京消防庁の調べでは63%の人が一度も防災訓練を受けたことがない。この現状を変えたいんです」(松石さん)。

防災の専門家は豊富にいるものの、その知識が市民に届かない。「社会実装されていない」という課題だ。「専門家の知識を子どもや地域社会につなぐ場がないんです。だから、子どもたちが当たり前に遊ぶ場所に防災を組み込もうと思いました」(松石さん)。

その答えが「防災×メタバース」だ。RobloxやFortniteなど、世界で15億人以上のユーザーが集うプラットフォーム上で、防災について学べるコンテンツを制作。松石さんは「大人の作った箱庭に子どもを入れるのではなく、子どもの当たり前の中に防災を入れるべきです」と力を込める。

大阪・関西万博は、その取り組みを大きく後押しした。「防災万博」には国内外から1万4,622人が来場。単なる展示や発表の場にとどまらず、テクノロジーと社会課題の融合、教育と体験、そして多様な主体の共創による新しい防災のあり方が提案された。

「すごいイベントだったね、で終わらせたくない。万博は次に何を生むかが重要なんです」(松石さん)。

子どもが創る防災

「防災教育を『教えられるもの』から『自分で考え、発信するもの』に変えたい」。松石さんが掲げる防災メタバースの理念はここに集約される。大阪・関西万博で実施した「こども防災万博」では、小学生から大学生までの若者がステージに立ち、未来の防災や地域づくりを自分たちの言葉で語った。香川県の小学生は「家族でできる避難訓練の工夫」をプレゼンテーション。インドネシアの子どもたちはビデオレターで現地の災害体験を共有した。

「子どもたちの発想は大人の想定を超えるんです。地域ごとの課題や文化を踏まえたアイデアが出てくる。本当に感動しました」(松石さん)。

阪神・淡路大震災から30年という節目にあたる今年、Meta Heroes は防災を「自分ごと」にするための新たなコンテンツを展開している。参加する子どもたちは、実際にメタバース空間で地震を疑似体験し、防災対策を自分自身でシミュレーションする仕組みだ。

「例えば、神戸の震災を知らない若い世代も、ゲーム内で過去にタイムスリップして、震災の瞬間に立ち会い、クイズなどを通じて防災について考える。学びをゲームに変えることで、防災は子どもたちにとって特別なことではなくなるんです」(松石さん)。

防災メタバースは単なる仮想空間の遊びではない。無関心層にどうアプローチするかを真剣に考えた結果だ。

「防災に関心がある人に知識を与えるのは簡単かもしれません。でも、本当に大切なのは、防災に無関心な人を関心層に変えることです。僕たちはそこを変えていきたい」(松石さん)。

「こども防災万博」では子ども・若者による多層的ピッチプログラムが実現した(素材提供:Meta Heroes)

社会課題を解くメタバース

「メタバースやWeb3は必ず来ます。ただ、いまは投資フェーズです」。松石さんは、メタバースの将来について極めて現実的だ。近年、メタバースへの熱狂の裏で「幻滅期」とも言われる冷ややかな視線が投げかけられることが多い。しかしし松石さんは揺るがない。

「2030年にメタバース関連市場は5兆ドル規模になるとも言われていますし、間違いなくそうなると考えています」(松石さん)。

ただ、こうも語る。

「現段階で『何万人の集客ができた』『いくら物が売れた』という短期的な成果を追いかける段階ではないと考えています。メタバースはむしろ、社会課題解決やCSR、SDGsの文脈で活用すべきものだと思っています」(松石さん)。

「防災×メタバース」はその象徴だ。松石さんはメタバースを「社会課題解決の手段」と位置づける。単なる仮想空間の演出ではない。「30年前のIT黎明期と一緒です。当時も多くの人が苦労し、失敗し、それが今の基盤を作りました。今メタバース業界で戦っている方々はみんなリスペクトしています。血を流している彼らの努力が未来を支えるんです」(松石さん)。

Meta Heroesの強みは、創業初年度から黒字を達成したビジネスモデルにある。収益の源泉は広告や物販ではなく、社会課題解決を通じた価値創出だ。

「社会課題解決こそが未来のビジネスになる。防災はその最たるものです」。松石さんは続ける。

「防災×メタバースが広まれば、世界のどこでも子どもたちが当たり前に防災を学ぶようになる。そのとき初めて、メタバースが社会に実装されたと言えるんじゃないでしょうか」(松石さん)。

防災の知を世界へ

「日本は防災の専門家が世界一だと自負しています。でも、その知識が社会に届いていない。そこを変えたい」。松石さんは、防災を「特別なこと」ではなく、誰もが自然に身につけるべき日常のスキルだと考えている。その思いの結晶が、「防災×メタバース」だ。

Meta Heroesが手がける防災メタバースは、国内での展開に留まらず、今やグローバルな広がりを見せている。「先日は兵庫大学と連携して、5カ国以上から参加した外国人の方々に、防災メタバースを英語で体験してもらいました。災害リスクが身近でない国の方も多く、防災は彼らにとって未知の世界です。でもメタバースを通じて仮想体験をすることで、彼ら自身の問題として防災を理解してくれるんです」(松石さん)。

従来、防災教育は言語や文化の壁によって限られてきた。しかし、仮想空間を活用することで、視覚的かつ体験的に学べるため、国籍を問わず伝わる力がある。松石さんは続ける。

「防災は人種や国境を超えるテーマです。日本が持つ防災の知識を、メタバースを活用して世界に届ける。それが僕たちの大きな目標のひとつです」。松石さんが目指すのは、単なるイベントの成功ではない。テクノロジーを通じて地域や世代、そして国を超えて防災の意識を育み、持続可能な社会を築くことだ。

「30年の遅れを取り戻すために、子どもも大人も、そして世界中の人々とも一緒に学ばなければいけない。僕たちMeta Heroesは、そのために挑戦を続けています」松石さんの言葉には、防災を通じて日本を再興する強い信念が込められている。

「防災万博」のトークセッションでは専門家たちが防災の未来を多角的に語った(素材提供:Meta Heroes)