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2026.02.16

会議室から「マイクラ」へ。熊谷市が若者に託した未来都市デザイン

行政の計画に若者の声を反映させる。口で言うのは簡単だが、実現するのは難しい。堅苦しい会議室に集められ、難解な都市計画図を見せられても、自由な発想など出てこないからだ。しかし、その議論の舞台が、彼らにとって慣れ親しんだゲーム「Minecraft(マインクラフト) 」の中だとしたらどうだろう。2026年1月17日、埼玉県熊谷市でユニークな実験が始まった。日本有数の「暑い街」として知られるこの都市が、デジタルの力で若者たちの熱量を街づくりへと変換しようとしている。(文=JapanStep編集部)

「仮想・熊谷」をキャンバスに。ゲームで挑む参加型街づくり

埼玉県熊谷市と、京都の地方創生スタートアップ・株式会社想結びが開催しているのが、「熊谷未来デジタルワークショップ」だ。1月17日の初回を皮切りに、3月まで全3回にわたって実施されるこのプロジェクトは、単なるプログラミング教室でもゲーム大会でもない。デジタル技術を駆使した、本気の「参加型街づくりプログラム」である。

特筆すべきは、その舞台装置の精巧さだ。ワークショップでは、実際の測量データなどに基づいて、Minecraft上に「熊谷駅周辺の街並み」が再現されている。参加する学生たちは、この「仮想・熊谷」をキャンバスにして、自分たちが思い描く理想のスマートシティを自由に建築することができる。

(引用元:PR TIMES

これまでの市民参加型イベントといえば、付箋にアイデアを書いて貼るワークショップ形式が一般的だった。しかし、言葉や文字だけでは「未来の街」のイメージを共有することは難しい。このプロジェクトでは、Minecraftという直感的なツールを使うことで、プログラミングの専門知識がない学生でも、「ここに涼める場所が欲しい」「駅前にこんな施設があれば人が集まる」といったアイデアを、即座に3Dモデルとして具現化できる。
(引用元:PR TIMES

また、単なる遊びで終わらせないための仕掛けも施されている。参加者は地域のリアルな課題や、スマートシティの先進事例を学んだ上で制作に取り組む。さらに、全3回のプログラムを修了した学生には、熊谷市から公式に「タウンマネジメント活動証明書」が発行される。これは、彼らの活動が単なるゲームプレイではなく、主体的な社会参画のキャリアとして行政に認められることを意味している。

「遊び」を社会実装する世代へ。デジタルネイティブの才能発掘

「ゲームだから」と見過ごされてきた熱量を、どうやって街の未来に繋げるか。ここには、デジタルネイティブの感性を社会課題というフィールドへ解放する、新しい回路が通い始めている。

今の学生たちにとって、デジタル空間で物を創り、コミュニケーションを取ることは身近で自然な行為。しかし、従来の社会システムには、その能力を活かせる場所が少なかった。「ゲームばかりしていないで勉強しなさい」と言われてきたスキルが、ここでは「未来の都市をデザインする力」として称賛される。これは、これまで行政のイベントには足を運ばなかった層、例えば「人前で話すのは苦手だが、デジタルなら誰よりも雄弁に表現できる」といった隠れた才能を発掘する大きなチャンスとなる。

また、都市計画のプロセスにおける「共通言語」の変化も見逃せない。専門的な図面は読めなくても、マイクラの画面を見れば、子どもから大人まで誰でも「未来の街」の姿を直感的に理解できる。デジタルツイン(現実空間のデジタル再現)を用いた合意形成は、これからのまちづくりのスタンダードになっていくだろう。

熊谷市で始まったこの実験は、行政と若者の対話を「デジタル」という翻訳機を通して再構築する試みだ。ゲームの中で積み上げられたブロックの一つひとつが、やがて現実の街を変えるアイデアの種になる。遊びを学びに、そして社会実装へ。「熊谷モデル」とも呼べるこの新しい参画の形は、全国の自治体が抱える「若者の地域離れ」や「アイデア枯渇」という課題を解決する一つの突破口になるかもしれない。