2026.04.01

針1本まで計上。脱炭素にコミットした「再生」の取り組み

瀬戸内の穏やかな空気が流れる、岡山県総社市の製造現場。使い込まれたトラックの部品が運び込まれ、熟練の手によって再び命を吹き込まれていく。こうした「リビルト」と呼ばれる再生産業は、長らく日本の物流を陰で支えてきたが、常に一つの問いに突き当たってきた。「再生部品は、本当に新品より環境に良いのか」というものだ。
これまでは「再利用だからエコなはずだ」という、作り手の美徳や使い手の実感に頼るしかなかった。しかし、脱炭素経営が企業の格付けを左右する2026年において、曖昧な言葉はもはや意味をなさない。岡山発のスタートアップ・次の灯(つぎのひ)株式会社が挑んだのは、水一滴、梱包用の針一本の重みまでをも数値化する、冷徹なまでの可視化である。地方の現場から放たれた精緻なデータが、日本のグリーントランスフォーメーション(GX)を根底から揺さぶろうとしている。(文=JapanStep編集部)

新品比60%減の衝撃。針1本、水1滴まで逃さない徹底的な可視化

2026年2月、次の灯は、自社が提供するリビルト製品のライフサイクルにおける温室効果ガス(GHG)排出量の算定を完了した。対象となったのは、トラックの排気ガス浄化装置(DPF)だ。今回の算定において特筆すべきは、アスエネ株式会社のコンサルティングを導入し、LCA(ライフサイクルアセスメント=製品の原料調達からリサイクルまでの全過程で環境負荷を定量的に評価する手法)の考え方に基づいた極めて厳格な測定プロセスを構築した点にある。

(引用元:PR TIMES

その精緻さは、従来の「概算」の域を遥かに超えている。再生の核となるコア部品の回収距離はもちろん、洗浄工程で消費される電力や水の量、さらには梱包材を止めるステープル(針)1本の重量に至るまでを算定範囲に含めた。環境省の最新データベースと照合し、リビルトDPF1機あたりの排出量を「165.7kg分のCO2」と特定。これにより、新品を使用する場合と比較して約60%、重量にして約240kgものCO2削減に寄与することが科学的に立証された。


(引用元:PR TIMES

この削減量は、杉の木約17本が1年間に吸収する量に匹敵する。次の灯の年間出荷実績に基づけば、すでに一般家庭約7,000世帯の1カ月分に相当する排出量を削減している計算になる。地方の小さな製造拠点が、大手メーカーでも容易ではない「部品一点単位のカーボンフットプリント(CFP※)」を明確に示した事実は、リビルト産業全体の信頼性を一段上のステージへと引き上げた。 

(※)製品・サービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通した温室効果ガス排出量を、CO2排出量として換算した値

「実感」を「データ」へ。地方から拓く脱炭素の標準形

この算定結果が突きつけたのは、環境価値の「実感」を「確実なデータ」へと転換できた組織だけが、大手企業の戦略的パートナーとして生き残れるという厳しい現実だ。

2026年現在、プライム上場企業を中心に、自社のみならずサプライチェーン全体の排出量(Scope 3)を把握・削減することは、避けて通れない経営課題となっている。環境意識の高い大手物流企業や建設会社にとって、これまでリビルト製品の採用は「なんとなく良いこと」でしかなかった。しかし、次の灯が提供する精緻な数値データがあれば、顧客はリビルト品を採用するだけで、自らのScope 3削減実績を定量的に証明し、株主や市場へ報告することが可能になる。地方の部品メーカーが「使うだけで削減を証明できる」インフラを提供することは、もはや単なる環境配慮ではなく、競合を圧倒する最強の営業戦略となるのだ。

また、この試みは「岡山モデル」としての全国的な広がりをも予感させる。素材の制約やエネルギーコストの高騰に悩む地方の製造業にとって、「捨てるより再生する方が経済的かつ環境的である」という事実を、世界に通じる共通言語(データ)で語り始めた意義は大きい。古びた産業と見なされがちだった再生産業が、デジタルの力を借りて最先端のサーキュラーエコノミー(循環型経済)の旗手へと再起動した瞬間といえるだろう。

2026年、日本の脱炭素を牽引するのは、都心の洗練されたオフィスではなく、泥臭い現場の数値を愚直に積み上げる地方企業かもしれない。「次の灯」が灯した光は、データの壁に立ちすくむ全国の現場に対し、新たな挑戦の作法を提示している。地方の製造現場が手に入れた「データの武器」は、日本のものづくりが再びグローバルな競争力を取り戻し、持続可能な社会を構築するための不可欠な原動力となるに違いない。