変化の時代において、ブランドとは何を守り、何を更新していくものなのか。本連載「Branding Shift」では、ブランディングを意匠や販促の手法としてではなく、経営思想、事業の意思、社会との関係性を映し出すものとして捉え直し、第一線の実務家たちの判断と挑戦に迫っていく。第1回に登場するのは、ファミリーマート。「あなたと、コンビに」という普遍の理念を軸に据えながら、同社は「コンビニエンスウェア」や「ファミフェス」、リアルとデジタルを融合させる新たな戦略を通じて、コンビニという業態の境界を押し広げている。変えてはならない本質を守りながら、いかに新しい価値を生み出すのか。ファミリーマートの挑戦から、次代のブランド戦略を考える。(文=JapanStep編集部)
お話を伺ったのは …

株式会社ファミリーマート 管理本部 広報部
副部長 兼 コーポレートブランドグループ マネジャー 高岡 夏さん(写真左)
同社 管理本部 広報部 コーポレートブランドグループ 稲葉 蘭さん(写真中央)
同社 管理本部 広報部 コーポレートブランドグループ 山田 恵理子さん(写真右)
1973年に国内第1号店を開店して以来、ファミリーマートは私たちの日常に深く根づき、現在では国内外で約2万5,000店(2025年12月時点)を展開するまでに成長した。2026年9月には創立45周年を迎える。単なる小売店舗ではなく、食、決済、各種サービス、地域の接点を担う社会インフラとして、その存在感は年々大きくなっている。

そのアイデンティティを象徴する言葉が、「あなたと、コンビに、ファミリーマート」である。生活者にとって耳なじみのあるこのフレーズは、1989年、日本を代表する作曲家・小林亜星さんにより、テレビCMのキャッチコピーとして生み出された温かみのあるメロディとともに広く世の中に浸透していった。現在もサウンドロゴとして使われ続け、世代を超えてファミリーマートを思い起こさせる大切な存在となっている。長い時間をかけて生活者との接点を重ねるなかで、現在では企業理念の中核を担うメッセージとして位置付けられている。
今回、同社のブランディング戦略の裏側に迫るべく、管理本部 広報部 副部長 兼 コーポレートブランドグループ マネジャーの高岡夏さん、同グループの稲葉蘭さん、山田恵理子さんに話を聞いた。
コーポレートブランドグループが向き合うのは、顧客、加盟店、社員という3つのステークホルダーだ。ホームページなどを通じた顧客向けの発信、加盟店へのインナーコミュニケーション、そして社員への理念浸透を横断的に担っている。全国に広がるチェーンにおいて、ブランドはどこに宿るのか。その答えは、実にシンプルだ。
「私たちにとってブランドとは、お客様が一つひとつの店舗で触れるお店そのものです。陳列されている商品、スタッフの接客、店舗での体験を生み出すすべての活動が、ブランドを構成していると考えています」(高岡さん)

いま、生活者の買い物における選択肢は大きく広がっている。競争相手は、もはや同業の大手チェーンだけではない。ドラッグストアやスーパー、ECの台頭により、リテール業界の競争のあり方も変わりつつある。そのなかでファミリーマートが選ばれ続けるために重視しているのが、「地域に家族のように接する店づくり」である。
「加盟店のオーナー様に『数あるフランチャイズのなかで、なぜファミリーマートを選んでくださったのですか』とお聞きすると、『ファミリー』という名前に温かみを感じたと話してくださる方が多いのです。この名称そのものが、私たちの強みになっています」(山田さん)

企業理念を日々の活動に落とし込むため、同社は「あなたと、コンビに」とともに、お客さまへの提供価値として、5つのキーワードを掲げている。「もっと美味しく」「たのしいおトク」「『あなた』のうれしい」「食の安全・安心、地球にもやさしい」「わくわく働けるお店」である。店舗スタッフの発案による商品化、フードドライブを通じた食品ロス削減、日々の買い物を楽しくする施策など、その取り組みは多岐にわたる。見逃せないのは、それらが単発の企画ではなく、「あなたと、コンビに」という理念を日々の店舗や商品に落とし込む取り組みとして積み上げられている点である。
では、時代や環境が変わるなかで、ファミリーマートは何を変え、何を変えないのか。
「コンビニの店舗数が増え、ネットショッピングやドラッグストアなど選択肢も広がるなかで、お客様にファミリーマートを選んでいただかなければならないという危機感があります。単に買い物をする場ではなく、新たな体験を提供していく必要があります」(稲葉さん)

一方で、変化のなかにあっても、決して動かしてはならない軸がある。
「時代や環境が変わっても、『あなたと、コンビに、ファミリーマート』という本質だけは変わりません。このブレない軸があるからこそ、お客様や地域にどう寄り添っていくかを考え続けることができるのです」(高岡さん)
理念を組織に根づかせるうえで、トップの姿勢も大きな意味を持つ。同社の経営陣は「あなたと、コンビに」という言葉を繰り返し発信し、その意味を日々の行動で示してきた。たとえば、前社長がプロ野球の始球式で、ファミマカラーのアフロヘアのカツラをかぶるなどトップ自らが「わくわく働く」姿勢を見せることで、理念は単なるスローガンにとどまらず、現場の実感として少しずつ浸透していく。
近年のファミリーマートの挑戦を象徴する取り組みの一つが、2021年に開始したオリジナルアパレルブランド「コンビニエンスウェア」である。世界的ファッションデザイナーの落合宏理さんと共同開発し、「いい素材、いい技術、いいデザイン。」をコンセプトに展開。従来のコンビニ衣料に対する見方を変え、ファミリーマートへ足を運ぶ理由の一つをつくり出した。
従来のコンビニ衣料は、雨の日や出張時に急きょ必要になったときに買う、いわば緊急需要の商品として見られがちだった。しかし、コンビニエンスウェアは、品質とデザイン性を高めることで、「急ぎで必要だから買う」ものを、「わざわざファミリーマートで買いたい」ものへと変えていった。これは、単なる商品開発にとどまらない。生活者の認識を変え、新しい購買文化をつくろうとするブランディングの実践でもある。

「ただの緊急需要ではなく、品質の高い商品を提供したことで、『コンビニで衣料品を買う』という新しい文化をつくることができました。結果として、店舗への来店者数の増加にも寄与しています」(高岡さん)
なかでも、ファミリーマートのブランドカラーである青と緑のラインをあしらったラインソックスは、コンビニエンスウェアを象徴する存在となった。ソックス類の累計販売数は3,300万足を超え、現在では外国人観光客が日本ならではのお土産として購入するケースも増えている。さらに、人気音楽フェス「FUJI ROCK FESTIVAL(フジロック)」やキャラクターとのコラボレーションも展開。定番があるからこそ、色やデザインの変化が楽しめる。コンビニエンスウェアは、ファミリーマートが変化を続けるブランドであることを象徴する、新たな存在になりつつある。

「定番の商品がしっかり浸透したからこそ、コラボレーションによる色替えなどがバリエーションとして生きています。コンビニエンスウェアは、ファミリーマートの新たな顔になっていると感じます」(稲葉さん)
コンビニエンスウェアが商品を通じてコンビニの可能性を広げた取り組みだとすれば、その世界観をリアルな体験へと拡張したのが「ファミフェス(FamilyMart FEST.)」である。コンビニ業界初となるファッションショーを中心に据えたリアルイベントであり、代々木体育館などを舞台に開催された。コンビニがファッションショーを仕掛ける。その意外性は、ファミリーマートが目指す新しいコンビニ像を、生活者に直感的に伝える機会にもなった。
「コンビニがファッションショーを開催するというのは初めての試みだったため、準備段階では苦労も少なくありませんでした。しかし、『日本を元気にしたい』という思いから生まれた企画でもあり、コンビニエンスウェアの新たな着こなしを提案するとともに、さまざまな企業様とのコラボレーションのきっかけを生み出す場にもなりました」(山田さん)
「実際に開催してみると、社内外から驚きとともに前向きな評価を多くいただき、大きな手応えを感じました。関わった社員も多く、やり遂げたことで、自分たち自身がブランドに対してより本気になれたという一体感も生まれました」(稲葉さん)
もっとも、斬新な挑戦ほど、勢いだけでは成立しない。その裏側には、ブランディングチームならではの葛藤がある。それは、「チャレンジすること」と「ブランドを毀損しないこと」を、いかに両立させるかという難しさだ。企画現場からは「面白いからやってみたい」という声が上がる。一方で、ブランディングチームは、SNSで拡散されたときにどう受け止められるか、長い目で見てブランドにどう影響するかを見極めなければならない。挑戦を止めれば、新しい価値は生まれない。しかし、何でも許容すれば、ブランドは傷つく可能性がある。その境界線を見極めることも、ブランディングの重要な仕事である。
「現場の『やりたい』という思いと、本社として『守るべきイメージ』の間には、認識のズレが生まれやすいのです。SNSで拡散されたときのリスクなども考慮しながら、『どこまでなら許容できるか』『どこからがNGか』という落としどころを決めるのが、私たちの重要な役割です」(山田さん)
たとえばロゴマークの扱い一つをとっても、規定通りの比率を厳密に守るべきか、アパレルとしての遊び心をどこまで許容するべきか、日々議論が交わされている。
「遊びを持たせるにも、元となるデザイン規定やブランドの基準がしっかりしていなければ成り立ちません。イメージが悪化するのを未然に防ぎ、『守り』を固めながらも、新たな価値に向けて『攻める』というバランスを日々意識しています」(高岡さん)
守るべき基準があるからこそ、どこまで遊べるのかを判断できる。攻めるためには、守るべき基準が必要になる。ファミリーマートの挑戦は、この攻守のせめぎ合いの上に成り立っている。
どれほど優れたブランド戦略を掲げ、魅力的な商品やサービスを生み出しても、それが現場に浸透し、お客様の体験につながらなければ、ブランドは力を持たない。ファミリーマートのブランディングチームが重視しているのは、理念を社内にどう浸透させ、現場の行動へとつなげるかである。全国で働く約20万人の店舗スタッフや社員一人ひとりがブランドの体現者となる。そのために同社が重視しているのは、一方的に「伝える」ことではなく、相手が自分ごととして受け止められる形で「伝わる」ことだ。
「私たちは基本的に『伝わっていないもの』という前提に立っています。だからこそ、より伝わるために、多様なタッチポイントを通じて継続的に発信し続けることを重視しています」(山田さん)
そのために同社が大切にしているのが、誰もが肩肘張らずに参加できる場づくりである。代表的な施策の一つが、年に1回、全社員を対象に行われるグループワークだ。
「普段の業務に追われていると、基本理念に立ち返る機会はなかなかありません。そのため、年に1回、自分なりに理念をどう解釈するかを語り合う場を設けています。今年は45周年という節目に合わせて内容をカスタマイズし、全社的に実施しています」(稲葉さん)
もう一つの象徴的な取り組みが、毎月オンラインで開催している社内イベント「ファミトーク」である。各部署の担当者が登壇し、仕事の内容だけでなく、新たな取り組みの背景やそこに込めた思いを全社に共有する場だ。
「お昼休みにランチを食べながら気軽に参加できるオンラインイベントです。担当者が直接思いを語ることで、聞いている社員の共感が生まれます。そうした『伝わる』コミュニケーションを大事にしています」(高岡さん)

こうしたインナーコミュニケーションの成果は、思わぬ形でも表れている。コンビニエンスウェアの展開以降、社員自身が自社のウェアを日常的に身につけるようになったのだ。
「社員が日常的にコンビニエンスウェアを着るようになり、自然と青や緑のブランドカラーのアイテムを身につける機会が増えました。自ら商品を身につけることで愛着が湧き、自社への誇りが深まっていくのを感じます」(山田さん)
さらに、顧客から寄せられた心温まるエピソードを社内で共有することにも力を入れている。たとえば、「ファミリーマートのイートインスペースで出会ったことがきっかけで結婚しました」といった素敵な顧客の声は、社内報などを通じて共有される。
自分たちの仕事が、顧客の日常や人生の節目に触れている。その実感は、現場で働くスタッフや社員の誇りにつながっていく。この「伝わる」設計は、社内にとどまらない。顧客との接点づくりも、いま大きく変わろうとしている。
近年、同社が力を入れているのが、リアル店舗とデジタル上の接点をつなぐ「メディアコマース戦略」である。店舗のレジ上に設置されたデジタルサイネージ「ファミマTV」、決済アプリ「ファミペイ」、ECプラットフォーム「ファミマオンライン」などを連動させ、店舗とデジタルの接点を行き来できる新たな購買体験を生み出そうとしている。
こうした「攻め」と「守り」、そして全社を巻き込んだ地道な取り組みが評価され、ファミリーマートはインターブランドジャパン主催の「Japan Branding Awards 2025(JBA2025)」において「GOLD」を受賞した。
(引用元:ファミリーマートホームページ)
「まさかGOLDという高い評価をいただけるとは思っていなかったので、驚きました。社員や加盟店の皆さんと積み上げてきた日々の活動が認められたことは、私たちにとって大きな励みになります」(稲葉さん)

では、ファミリーマートは次に何を目指すのか。最後に、ブランディングに関わる担当者として大事にしていることと、今後の展望を聞いた。
「ブランディングには、これが正解だと言い切れるものがありません。時代の変化やお客様の気持ちを見ながら、ファミリーマートをもっと好きになっていただくために何ができるのかを考え続ける。その積み重ねの中で、ブランドが少しずつ育っていく手応えを感じられることに、この仕事のやりがいがあります」(稲葉さん)
「今年のスローガンは『いちばんチャレンジ』です。45周年は、あくまで通過点です。次世代への継承を意識したブランドづくりを進め、50周年に向けた礎を築く重要な年として位置づけています」(高岡さん)
「私たち自身がいちばんチャレンジする一年であり、お客様にとっての『いちばん』をたくさんつくり出していく。これからの未来に向けても、進化を続けながら挑戦していきたいと考えています」(山田さん)
「あなたと、コンビに」という理念は、変化を拒むための言葉ではない。時代に合わせて新しい価値を生み出し続けるための、ファミリーマートの拠り所である。守るべき軸を持つからこそ、変化に踏み出せる。その姿勢に、これからのブランド経営に求められる本質がある。