1. AI Base TOP
  2. 記事一覧
  3. 注目すべき、アジアのIP市場【連載】アジアIPビジネスの可能性(第1回)

2026.06.29

注目すべき、アジアのIP市場【連載】アジアIPビジネスの可能性(第1回)

キャラクターやアート、タレントなどを軸にしたIPビジネスは、いま企業の成長戦略を考えるうえで欠かせないテーマとなっている。その中でも、中国をはじめとしたアジア圏のIPビジネスは、日本とは異なる発展を遂げている。一方でその市場動向や成功の背景は、日本国内ではまだ十分に知られていない。

そこで中国・アジアのIPビジネスに長年携わってきた有識者から、現地で見てきた事例や実体験をもとに、その潮流やビジネスの本質を解説いただくことに。日本にいながら海外市場の変化を捉え、これからのIP戦略を考えるヒントをお届けする。(リード文:JapanStep編集部、本文:ミニチュアファクトリー 恒川琢朗さん)

ご寄稿いただいたのは

 

株式会社ミニチュアファクトリー代表取締役
恒川琢朗さん

2003年の創業時からミニチュアグッズのOEM制作に携わり、2013年頃からキャラクター事業を展開。2017年からは成長著しい中国のキャラクターIP企業との戦略提携により、ネット時代の新しいキャラクター展開を実践しつつ、インバウンドプロモーションを実施。中国のスピードと日本の丁寧さを掛け合わせ、企業やアーティストの企画を製造・ライセンス・流通まで一貫して推進。日本と中国、版権元とライセンシー、クリエイターと工場。それぞれの立場や論理を直接知っているからこそ、異なる価値観のあいだに立って、プロジェクトを実際に動かしている。

「人は知らないものを買わない」――中国IP展開で得た最初の学び

最近、「IP」という言葉をしきりに聞くようになった。以前は一般的にはあまり馴染みのない言葉だったと思う。Intellectual Property(知的財産)という意味のとおり、特許権など比較的ハードルの高い領域で使われていた印象がある。しかし現在では、キャラクターやタレント、アートなど、より広い対象を指す言葉として使われるようになってきている。

数年前から、中国では「IP」という言葉が頻繁に使われていた。一方で当時の日本では、その概念はまだ一般的ではなかったように思う。

私が中国のキャラクターの日本展開に関わったのは、2016年に遡る。中国の人気メッセージアプリ「WeChat」等でのスタンプダウンロードが10億回を超え、数々の有名企業へのライセンス実績のあるキャラクター「長草くん(中国名:長草顔団子)」の日本市場での独占代理店として運営を始めることとなったのだ。私はその頃から頻繁に現地を訪れているが、当時の中国市場の熱量は非常に高く、不動産バブルが一段落した後の投資先としてIPビジネスが注目されている、という話も耳にした。とにかく客層が若く、元気な印象だった。

2019年、国内で行われた長草くんのイベントにて

中国は圧倒的な市場規模を持つ一方で、日本はブランド力のある市場として認識されていた。コンテンツ大国であり、キャラクターの競争は激しく、ユーザーの目も肥えている。その市場で受け入れられること自体が、一種の“証明”になるという考え方だ。実際、日本でヒットしたIPが中国でもさらに人気を伸ばす、というケースは少なくなかった。

そうした環境の中で仕事をする中で、日本人として少し歯がゆさを感じる場面もあった。日本はメイン市場ではない、という前提に寂しさを覚えたからだ。しかしながら、日本市場にも十分な可能性を感じていた私は、日本企業への展開を積極的に進めていった。

4日で2個から始まった日本展開 ヒットの鍵は“接点”にあった

ちょうどその頃、日本ではインバウンド需要が拡大していた。最初に取り組んだのは、ヨドバシカメラでの販売である。中国人観光客をターゲットに、レジ横にグッズを並べる形で、数ヶ月間にわたりひとつの棚をまるごと用意いただき展開した。


ヨドバシカメラ秋葉原店のレジ横に設置された専用棚

しかし、最初の予想は見事に外れることとなった。4日間でたったの2個しか売れなかったと報告を受け、現場のメンバーと対策を検討することになった。

何かフックになるものはないか。そう考え、中国での事例を探る中で気づいたのが、長草くんが日本で人気のあるゲームと中国でコラボレーションしていたという事実だった。その情報を担当者がX(当時のTwitter)に投稿したところ、翌朝には2000件ほどリツイートされてバズっていた。

その日は20個以上が売れた。ゲーム内の“推しキャラクター”が長草くんを抱えているビジュアルをきっかけに、コスプレ用途でわざわざ買いに来てくれる女性客が増えたためである。SNSでも多くの人に投稿され、話題になった。その後数ヶ月にわたり、彼女たちの支持によって販売は安定的に伸びていった。結果的に購入者の多くは、当初想定していなかった層だった。

この経験から強く感じたのは、たとえ多くの人の目にふれる場所であっても、「人は知らないものは買わない」ということ。そして、「愛着を感じるものであれば、わざわざ出向いてでも買う」という事実である。また、キャラクターIPをアピールする際には何らかの“フック”が存在し、それを見つけられれば可能性は開ける、ということであった。

IPの価値はコンテンツだけではない

ここで、IP企画において重要だと感じているポイントを整理しておきたい。

1.「認知のきっかけ」をどのように設計するか
どれほど魅力的なキャラクターであっても、知られなければ存在しないのと同じである。

2.「どの文脈で受け取られるか」
今回の事例では、ゲームやコスプレという文脈に乗ったことで、一気に受け入れられ方が変わった。

3.「どのように使われるか」
単なるグッズとしてではなく、自己表現の一部として使われたことが、購入動機につながった。

IP企画においては、キャラクターそのものの魅力を磨くことと同時に、こうした“接点”をどのように設計するかが重要になると考えている。

また、私自身の経験として、中国・アジアのキャラクターIPに関わった後、2019年頃からはアート領域におけるIPの波にも触れることになった。キャラクターからアートへと対象は広がったが、振り返ってみると、本質的な構造は大きく変わっていないと感じている。


当時、中国でのクレーンゲーム店にて

この10年の経験を通じて見えてきたのは、IPは単なるコンテンツではなく、「どのように人と接点を持ち、関係性を築くか」という設計そのものである、ということだ。今後の連載では、こうした実体験をもとに、IP企画の考え方や具体的なポイントについて、共有していきたいと考えている。

時を同じくして、中国ではオリジナルIPを主軸としたフィギュアショップ「POP MART」のブームが押し寄せていた。今でこそ「ラブブ」を筆頭に日本でも広く知られる存在だが、当時はまだ「中国のフィギュアショップ」という印象が強かった。ただ、現地の店舗で絶え間なく続く来店の波を目にしたとき、単なる一過性の流行ではない何かを感じていた。当時はまだ明確に言語化できなかったが、今振り返ると、そこにも“接点設計”のヒントがあったように思う。(つづく)

関連リンク