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2026.08.05

変化の時代に、社長は何を決めるのか【連載】再生請負人 平良学が教える 中小企業のゼロイチ術(最終回)

皆さん、こんにちは。フォーバル GDXリサーチ研究所の平良学です。早いもので、本連載も今回が最終回となりました。これまで、ゼロイチの原点は現場にあること、「目隠し経営」から抜け出すこと、事業の種は、お客様の声や断っていた依頼の中にもあること、そして赤字事業の再生では売上の量だけでなく質を見ることをお話ししてきました。では、これからの中小企業には、どのような経営観が必要なのでしょうか。最終回では、変化の時代に経営者がどのような旗を立て、何を守り、何を変えていくべきなのかを考えます。(解説=フォーバル GDXリサーチ研究所 平良学/文=JMP総合プロデューサー 長谷川浩和)

教えてくれるのは…

フォーバル GDXリサーチ研究所 所長
平良 学さん

1992年、株式会社フォーバル入社。九州支店の責任者として赤字拠点の立て直しに取り組み、コンサルティング事業の立ち上げや事業部の統括、アライアンス事業などを担い、2020年に執行役員に就任。2022年より、GDX(Green × Digital Transformation)を軸に、中小企業のDX・ESG経営、自治体連携による地域企業支援、調査・研究・提言活動に取り組んでいる。

経営者の仕事は、決断すること

これまでの連載で、私は何度も「見えるようにすること」、可視化することの大切さをお話ししてきました。現場を見る。数字を見る。お客様の声を見る。案件ごとの利益を見る。そうして自社の状態が見えてくると、次に問われるのは判断です。

中小企業において、経営者の影響力はとても大きい。どの方向へ進むのか。どの仕事を伸ばすのか。何を見直すのか。誰と組むのか。どこに時間とお金を使うのか。最後に決めるのは、経営者自身です。

私は、経営者の仕事は「決断すること」だと考えています。

もちろん、中小企業の経営者は本当に忙しい。営業も見る。資金繰りも見る。採用も見る。現場の相談にも乗る。場合によっては、自分自身が一番のプレイヤーとして現場に立っていることもあります。私も多くの経営者と向き合ってきましたが、その大変さは、よく分かります。

ただ、経営者が日々の作業に追われすぎてしまうと、会社の未来を考える時間が削られてしまいます。昨日と同じ仕事を今日もこなし、今日と同じ仕事を明日もこなす。その繰り返しだけでは、変化の時代に会社を前へ進めることはできません。

だからこそ、経営者は、自分に問い続けなければなりません。この会社はどこへ向かうのか。何のために存在しているのか。誰に、どんな価値を届けるのか。そして、そのために何をやめ、何を始めるのか。

経営判断は、必ずしも派手なものばかりではありません。利益の薄い案件の条件を見直す。これまで断っていた依頼を一度検討してみる。社員に会社の数字を共有する。外部の人に相談する。そうした一つひとつの判断が、会社の未来を少しずつ変えていきます。

ゼロイチとは、突然大きな事業を立ち上げることだけではありません。これまで見えていなかったものを可視化し、次の一手を決めること。その積み重ねも、ゼロイチの一つです。経営者が決めるから、会社は動き出します。まず旗を立てる。その旗に向かって、社員や取引先、地域の人たちと一緒に進んでいく。これからの中小企業には、経営者の意思がますます問われていきます。

変えない軸が、変える力になる

変化の時代には、「変わること」ばかりが強調されます。DX、GX、AI、働き方改革、人口減少、サプライチェーンの変化。中小企業を取り巻く環境は、これまで以上の速さで変わっています。

しかし、変化に向き合うために本当に大切なのは、すべてを変えることではありません。むしろ、変えない軸を持つことです。

自社は何を大切にしてきたのか。お客様にどんな価値を届けてきたのか。地域や取引先、社員とどのような関係を築いてきたのか。そこを見失ったまま流行の言葉に飛びついても、会社はかえって迷ってしまいます。

私は、長く続く会社には共通点があると感じています。それは、守るべきものを守りながら、変えるべきものは大胆に変えていることです。経営理念や大切にしてきた価値観は簡単に変えない。一方で、商品、売り方、働き方、技術の使い方は、時代に合わせて変えていく。この両方があるから、会社は続いていくのだと思います。

中小企業の経営者には、ぜひ自社の「変えないもの」を言葉にしてほしいと思います。それは、立派な額に入った経営理念でなくても構いません。「お客様の困りごとに最後まで向き合う」「地域に必要とされる会社であり続ける」「社員が誇りを持てる仕事をする」。そうした自分たちらしい言葉で十分です。

その軸があると、判断がぶれにくくなります。新しい事業に取り組むべきか。価格を見直すべきか。取引条件を変えるべきか。外部のパートナーと組むべきか。迷ったときに立ち返る場所がある会社は、変化の中でも前に進めます。

逆に、軸がないまま変化に振り回されると、「儲かりそうだから」「周りがやっているから」「補助金があるから」という理由だけで動いてしまいます。それでは、取り組みは長続きしません。社員にも伝わらず、お客様にも響きません。

変えない軸があるから、変えるべきものを決められる。これは、中小企業にとって非常に大切な経営観です。ゼロイチに必要なのは、奇抜なアイデアだけではありません。自社の存在意義を見つめ直し、その軸から次の挑戦を考えること。そこに、これからの中小企業の強さがあると考えています。

社員と共有してこそ、挑戦は動き出す

経営者がどれだけ強い思いを持っていても、それが社員に伝わっていなければ、会社はなかなか前に進みません。中小企業では、経営者と社員の距離が近い一方で、情報量には大きな差が生まれがちです。

経営者は、売上、利益、資金繰り、取引先の動き、将来のリスクを見ています。一方で、社員には目の前の仕事しか見えていないこともあります。その状態で「もっと頑張ろう」「新しいことに挑戦しよう」と言われても、なぜ必要なのかが分からなければ、納得して動くことはできません。

私は、うまくいっている会社ほど、会社の状況をできるだけ分かりやすく共有していると感じます。今、会社はどのような状態なのか。何が課題なのか。どこにチャンスがあるのか。自分たちが頑張ることで、会社や自分たちの未来がどう変わるのか。そこが見えると、社員は前を向けるようになります。

もちろん、すべての情報をそのまま出せばよいという話ではありません。大切なのは、社員が自分ごととして受け止められる形にすることです。たとえば、売上や利益の数字だけを共有するのではなく、「この仕事の利益が上がれば、設備に投資できる」「この無駄を減らせれば、残業を減らせる」「この領域を伸ばせれば、賃上げの原資がつくれる」と伝える。数字と現場の実感をつなぐことが大切です。

若い世代は特に、自分の頑張りがどこにつながっているのかを重視します。何をすれば評価されるのか。どの仕事が会社の成長につながっているのか。自分はこの会社でどんな力を伸ばせるのか。そこが見える会社には、前向きな空気が生まれます。

逆に、見えない会社では不満が生まれやすくなります。「自分は頑張っているのに、なぜ評価されないのか」「なぜこの仕事を続けなければならないのか」「会社は本当に大丈夫なのか」。そうした不安や不満は、情報が見えていないところから生まれます。

だからこそ、経営者は会社の旗を立てるだけでなく、その旗を社員と共有する必要があります。どこへ向かうのかを示す。なぜそこへ向かうのかを伝える。社員が自分の仕事と会社の未来をつなげられるようにする。挑戦が生まれる組織は、経営者一人の熱量だけでできるものではありません。情報を共有し、納得をつくり、同じ方向を向く。そこまでできて初めて、会社は動き出します。

外の知恵が、挑戦の芽を育てる

これからの中小企業にとって、もう一つ大切なのは、自社だけで抱え込まないことだと考えています。

経営者は、孤独です。資金繰りの悩みも、採用の悩みも、事業承継の悩みも、新規事業の不安も、最後は自分で受け止めなければならない。だからこそ、すべてを一人で抱え込もうとしてしまう経営者も少なくありません。

しかし、変化のスピードが速い今の時代に、すべての情報や専門性を自社だけで持つことは難しくなっています。法改正、DX、GX、AI、採用、セキュリティ、サプライチェーン。どのテーマも経営に直結し、専門性が高く、変化も速いものばかりです。だからこそ、外部の知恵をどう取り入れるかが重要になります。

私たちフォーバル GDXリサーチ研究所では、中小企業の実態や経営課題を把握するために、「BLUE REPORT」という調査レポートも発行しています。全国の中小企業経営者の声や現場の課題を整理し、人的資本、賃上げ、次世代経営、GDX・ESGなど、いま経営者が向き合うべきテーマを可視化する取り組みです。自社の中だけを見るのではなく、社会や市場で何が起きているのかを知ることも、経営判断の大切な材料になります。


BLUE REPORT「激動の時代を生き抜くための中小企業戦略」(2026年6月発行)

私は、これからの中小企業には「かかりつけ医」のような存在が必要だと考えています。体の調子が悪くなったとき、いきなり大きな手術をするのではなく、まず状態を見てもらい、必要な処置を考える。企業も同じです。自社の状態を見えるようにし、課題を整理し、必要な専門家や支援策につなぐ伴走者がいれば、経営者は次の一手を打ちやすくなります。

外とつながることは、決して弱さではありません。むしろ、変化の時代に前へ進むための強さになります。地域の金融機関、自治体、大学、専門家、大企業、メディア、同じ志を持つ経営者。そうした人たちとつながることで、自社だけでは見えなかった可能性が見えてくるのです。

地方の中小企業には、まだまだ大きな可能性があると感じています。若い人たちが地元企業に関わることで、新しい技術の使い方が見えてくることもあります。地域の企業同士が連携することで、大企業にはできない価値を生み出せることもあります。経営者が外に出て未来の情報を取りに行くことで、会社の中に新しい風が入ってきます。

私は、中小企業は可能性にあふれていると本気で思っています。変化は厳しいものです。それでも、現場を見て、経営を見える化し、お客様の声に耳を傾け、売上の質を見直し、自社の旗を立てることができれば、まだまだ打つ手はあります。

今回の対談の冒頭で、JMP(JapanStep Media Project)の長谷川プロデューサーから「日本から挑戦を生む」というビジョンを伺い、私は強く共感しました。中小企業の現場には、挑戦の種がたくさんあります。その種を見つけ、育て、社会へ届けていくことは、私たちフォーバル GDXリサーチ研究所が取り組んできたこととも深く重なります。これからも、一社でも多くの中小企業が自信を持って次の一歩を踏み出せるよう、私自身も発信と実践を続けていきます。そして、JMP(JapanStep Media Project)とも連携を深めながら、日本の中小企業から新しい挑戦を生み出していきたいと考えています。これまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

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