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2026.08.12

マイナンバー業務もAIへ。奈良市が拓く行政DX

30年後、この街の生産年齢人口は4割減り、20歳の若者は6割減少する。奈良市が公表したこの推計値は、地方自治体がこれまでの延長線上では公共サービスを維持できないという避けられない未来を予告している。職員の手作業に依存した行政のあり方は、組織の存続を脅かすリスクとなりつつある。自治体におけるDXは単なる効率化の手段ではなく、市民の暮らしを最低限守り抜くための「生存戦略」へと、そのフェーズを変えたのだ。
2026年4月、奈良市が発表した「セキュアAI基盤」の構築は、行政のデジタル化において長く放置されてきた最後の空白地帯に光を当てる試みだ。住民情報や税などの高度な機密情報を扱う領域に、いかにして安全に生成AIを導入するか。国が認定したガバメントクラウドを足場に、情報の隔離と最新知能の活用を両立させたこの取り組みは、日本の行政システムを次なるステージへと押し上げる一石となるだろう。(文=JapanStep編集部)

「空白地帯」への進出。ガバメントクラウドによる安全なAI基盤


(引用元:PR TIMES

奈良市が打ち出した施策は、少子高齢化に伴う深刻な働き手不足を背景とした抜本的な業務改革である。奈良市は株式会社日立システムズおよびアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社と連携し、自治体専用の閉域ネットワーク上で生成AIを活用できる環境を整備した。

自治体のネットワーク環境は通常、セキュリティの観点から三層に分離されている。これまで生成AIの活用が進んできたのは、主に外部と接続された「インターネット系」の業務であった。

(引用元:PR TIMES

一方で、住民の個人情報やマイナンバーを直接扱う「個人番号利用事務系」は、高度な秘匿性が求められるがゆえに、AI活用が困難な領域として全国的に取り残されてきた。奈良市はこの領域に接続される約1,000台のPCにおいて、安全な生成AI利用環境を全国に先駆けて構築した格好だ。

技術的な基盤として採用されたのは、デジタル庁が管理する「ガバメントクラウド」である。国が認定した高水準のセキュリティ基準を満たすこのクラウド環境を活用することで、市民の個人情報や機微データがインターネットへ流出するリスクを遮断しつつ、AIの力を最大限に引き出すことが可能となった。


(引用元:PR TIMES

従来の自治体で見られた、個別のPCにAIを構築するローカル環境の手法と比較して、接続数の制限がなく全庁的な拡張性を確保できる点が本基盤の大きな特徴といえる。

公共サービスを維持。人口減少を前提とした「守り」のDX

奈良市による今回の取り組みが示唆するのは、地方行政におけるテクノロジーの役割が「事務の補助」から「行政機能の維持」という基幹的なインフラに昇華した事実だ。

これまでの自治体AI活用は、メールのドラフト作成や議事録の要約といった周辺業務の効率化にとどまっていた。しかし、住民福祉や税務に直結する基幹業務にAIが導入されることで、複雑な制度の照会や事務処理の判断支援が可能となる。これは、限られた人的リソースを定型的な事務作業から解放し、対面での相談や生活支援といった「人間にしかできない直接的な市民サービス」へと回帰させるための必然的なステップといえるだろう。

また、本プロジェクトがガバメントクラウドという共通基盤の上で構築された意義も大きい。地方自治体が個別にシステムを開発・維持する負担は、財政を圧迫する要因となってきた。今後、奈良市が構築したセキュアAI基盤の知見が全国の自治体へと共有されれば、それは日本全体の行政システムを底上げする「標準OS」として機能する可能性がある。特定の地域の成功事例が、国全体のレジリエンスを強化する材料となるのだ。

地方創生の成否は、人口減少という変えられない事実を直視した上での新たな行政運営モデルの確立にかかっている。奈良市が提示したセキュアなAIの実装は、最新の知能を行政の核心部へと統合し、公共サービスの質を次世代へと繋ぐための有力な解決策となるだろう。