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2026.09.25

事業の成長に、ブランドを追いつかせる。Hacobuが挑んだブランド変革【連載】Branding Shift ~変わる時代に、ブランドの本質を問う

プロダクトの認知が先行する一方、企業としての思想や目指す姿が、事業の成長に比して十分に伝わらなくなる。成長の過程では、事業の実態と企業ブランドとの間に、そうしたずれが生じることがある。物流DXを手掛けるHacobuも、その課題に向き合った一社だ。2023年に実施したリブランディングは、半年ほどで終えるはずが約1年を要し、一時はプロジェクトそのものを見直すところまで議論が及んだ。議論を前へ進めたのは、目の前のロゴや言葉ではなく、「2035年にどんな会社でありたいか」という未来から考え直すことだった。変えるべきものと、守るべきものをどう見極めるのか。そして、ブランドをいかに事業の成長へ接続していくのか。変革を主導した執行役員CMOの森山美帆さんに、そのプロセスと現在地を聞いた。(文=JMP総合プロデューサー 長谷川浩和)

【連載一覧】Branding Shift ~変わる時代に、ブランドの本質を問う

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お話を伺ったのは …

株式会社Hacobu
執行役員CMOマーケティング・コミュニケーション本部 本部長

森山 美帆さん

学習院大学文学部英米文学科卒業後、出版社に入社。マーケティング、広告営業、経営企画、新規事業企画、コンサルティングなど幅広い業務を経験。2022年6月にHacobuへ参画し、PR担当として2023年のコーポレート・アイデンティティ刷新を含むリブランディングを推進。その後、マーケティング・広報の責任者などを経て、2026年6月より現職。現在はCMOとしてマーケティングとコミュニケーション領域を統括し、事業成長と企業ブランドの両面から、物流が抱える社会課題の解決に取り組む。

MOVOの成長が浮かび上がらせた、企業ブランドの課題

株式会社Hacobuは2015年創業。「運ぶを最適化する」をミッションに掲げ、企業間物流のDXに取り組んでいる。

事業の中核を担うのが、クラウド物流管理ソリューション「MOVO(ムーボ)」シリーズだ。トラック予約受付サービス「MOVO Berth」をはじめ、輸配送や車両、物流資材など、物流現場の生産性向上を支える複数のサービスを展開している。現在はSaaSに加え、コンサルティングやシステムインテグレーションも手掛けている。

Hacobuが向き合うのは、日本の物流に残る構造的な非効率だ。たとえば、ドライバーが物流拠点に到着してから荷役作業に入るまでの「荷待ち」。2022年当時は平均1時間34分で、その後改善は進んだものの、現在も約1時間の荷待ち時間が生じている。加えて、トラックの平均積載率は4割程度。深刻な人手不足に直面しながら、人や車両を十分に生かし切れていないという構造がある。

「ドライバーさんは荷物を積み込み・下ろすために長時間待っている一方で、トラックには空きが多い。限られた人員や車両をどう有効に使うかは、物流を持続可能なものにしていくうえで大きな課題です」(森山さん)

2026年4月には物流効率化法が全面施行され、一定規模以上の「特定荷主」には、中長期計画の作成・提出や物流統括管理者(CLO)の選任などが義務付けられた。物流は、現場だけの課題ではなく、経営が向き合うテーマへと位置づけを変えつつある。

Hacobuもまた、SaaSによる現場改善を起点に、物流戦略の策定やAI駆動型のシステムインテグレーションまで、支援領域を広げてきた。一方、森山さんが入社した2022年当時、その事業の広がりと企業ブランドの見え方は必ずしも一致していなかった。創業者で代表取締役社長CEOを務める佐々木太郎さんも、企業ブランドのあり方に課題意識を持っていたという。

「象徴的だったのが、会社名ではなく『MOVOさん』と呼ばれていたことです。プロダクトとしてのMOVOは認知され始めていた一方で、その背景にあるHacobuという会社や、私たちが目指していることまでは十分に伝わっていませんでした」(森山さん)

MOVOの認知が先行する一方、そのプロダクトを生み出したHacobuが、なぜ物流の社会課題に向き合い、どんな社会を実現しようとしているのかは見えにくかった。森山さんも入社前から、そこにコミュニケーション上の大きな課題と可能性を感じていたという。

「入社前の面接で佐々木から聞いたのは、企業間物流が抱える課題と、データを蓄積しながら新しい物流プラットフォームをつくり、社会課題の解決につなげていくという構想でした。その思いには強く共感した一方で、当時のホームページからは十分に伝わってこなかった。これだけ明確な大義があるのに、マーケティング・コミュニケーションに生かし切れていないことを、非常にもったいないと感じました」(森山さん)

事業の根底にある問題意識や大義は、すでに社内に存在していた。課題は、それを企業としての一貫したメッセージへ落とし込み、社外に伝わる形にすることだった。2022年に参画した森山さんは、その再設計を担うことになる。

ブランドの議論を動かした、2035年の「ありたい姿」

リブランディングの経緯を尋ねると、森山さんは、まずプロジェクトが停滞した過程から振り返った。当初は半年程度で完了する計画だったが、実際にはキックオフから約1年を要した。論点は、HacobuとMOVOの関係性から、企業として打ち出す革新性、物流現場で築いてきた親しみやすさ、さらにはロゴや言葉にまで及んだ。難しかったのは、どの論点にも数字だけで判断できる明快な正解がなかったことだ。

「デザインやコピーには唯一の正解がありません。合理性だけでなく、感性も含めて意思決定しなければならない。そこに最も時間をかけました」(森山さん)

議論を重ねるほど論点は複雑になり、プロジェクトは次第に停滞していった。一時は、リブランディングそのものを続けるべきか、改めて問い直すところまで至ったという。状況を変えたのは、経営陣が一度ブランドの議論から離れ、会社の未来そのものを考えるために設けた1日の合宿だった。

合宿には、現在Hacobuの社外取締役を務めるアスクル創業者の岩田彰一郎さんも参加した。

「岩田さんから『Hacobuは2035年にどんな会社になっていたいのか』と問われました。ロゴやコピーの細部を詰めていた私たちにとって、それは一度立ち止まるための問いでした」(森山さん)

議論の起点は、ロゴやデザインから経営の未来へと置き直された。2035年の「ありたい姿」を起点に、2030年、2025年へと時間軸を戻しながら、事業とブランドのあるべき姿を整理していった。

それまでの議論では、Hacobuという一つのブランドに、業界を変えていく「革新性」と、物流現場に寄り添う「現場感」の双方を盛り込もうとしていた。しかし、あらゆる価値を一つに集約しようとするほど、Hacobuらしさの焦点は定まりにくくなっていった。

「Hacobuには業界を変えていく革新性を持たせたい。一方で、MOVOが培ってきた現場への近さや顧客第一の姿勢も失いたくない。当初はそれを一つのブランドで表現しようとして、議論が複雑になっていました。2035年のありたい姿から事業を捉え直したことで、それぞれが担うべき役割が明確になりました」(森山さん)

合宿を行ったのは2023年1月。そこから5月の発表までは一気に進んだという。半年以上続いた議論は、ブランドの表現から経営の未来へと視点を移したことで、ようやく動き始めた。何をどう見せるかを決める前に、経営として目指す場所を定める。その合意が、HacobuとMOVOそれぞれのブランドを設計する基準になった。

企業の志と、プロダクトの価値を分けて育てる

2035年の姿から事業を捉え直すなかで、HacobuとMOVOの関係も整理された。企業ブランドであるHacobuには、業界を変え、社会課題の解決を目指す「イノベーター」としての役割を持たせる。

一方、プロダクトブランドであるMOVOが担うのは、物流現場に寄り添い、顧客の課題を解決すること。「現場第一」「顧客第一」という、これまで培ってきた価値はMOVOに残した。

「Hacobuは、業界変革や社会課題の解決に向かう企業ブランド。一方のMOVOは、物流現場に寄り添い、お客様の課題を解決するプロダクトブランド。それぞれが担う価値を明確に分けたことで、ブランド全体を整理できるようになりました」(森山さん)

役割を分ける一方で、両者を貫く軸は変えなかった。創業以来のミッションである「運ぶを最適化する」だ。リブランディングでHacobuが先に明確にしたのは、新しく何を加えるかではなく、何を変えないかだった。その軸が定まったことで、事業の成長に合わせて変えるべきものと、守るべきものを切り分けられるようになった。

社内のValuesも、その考え方の中でつくり直した。現在掲げる「7 Values」は、経営陣が完成品を提示したものではない。社員とのワークショップを重ね、「Hacobuらしい価値観とは何か」を一緒に言語化していった。

「大切にしたのは、ブランドの主語を“I”ではなく“We”にすることです。経営側が決めた価値観を一方的に浸透させるのではなく、社員自身が『これがHacobuらしい』と語れるものにしたい。そのため、Valuesは社員とのワークショップを通じて再定義しました」(森山さん)

もっとも、社員とともにつくるプロセスを踏んでも、長く親しんできたブランドへの愛着がなくなるわけではない。以前のHacobuには、親しみやすいキャラクターを中心としたブランドイメージが根づいており、その刷新に戸惑う声もあったという。

さらに当時はリモートワークが中心だった。森山さんは、社内に変革の機運をつくるという点では、「もっとできることがあった」と振り返っている。

「社員と一緒につくるプロセスは大切です。一方で、ブランドには全員が完全に納得する一つの正解があるわけではありません。十分に議論したうえで、最後は経営として意思決定する。その重要性も学びました」(森山さん)

社員との対話を尽くすことと、経営として意思決定することは両立する。とりわけブランドのように唯一の正解がないテーマでは、その最後の判断を誰が引き受けるのかまで含めて、経営の仕事になる。

経営の意志を、すべての接点へ

2023年5月、Hacobuはコーポレート・アイデンティティを刷新した。対象はロゴやWebサイトに限らない。Belief、Vision、Valuesを整理し、キービジュアル、オウンドメディア、広報、広告、採用サイトまで、会社から発信される情報を横断的に見直していった。森山さんが重視したのは、ブランドを個々の制作物ではなく、企業が発する情報全体として設計することだった。

「リブランディングをロゴやWebサイトの刷新で終わらせず、MissionやVisionから広報、広告、採用まで、あらゆる接点でHacobuの大義が一貫して伝わる状態をつくることを重視しました」(森山さん)

新たなBeliefとして掲げたのは、「Data-Driven Logistics®が社会課題を解決する」。Hacobuの強みである「現場力」「データ活用」「コンサルティング力」を軸に、物流の社会課題と企業課題の双方に向き合う姿勢を明確にした。

ビジュアルでも課題は同じだった。トラックや倉庫といった物流現場のイメージに寄せすぎれば、Hacobuが目指す変革性は伝わりにくい。一方で、先進性を強調しすぎれば現場との距離が生まれる。そのバランスを、言葉だけでなくビジュアルの細部にも反映した。

CI刷新の直後、物流を取り巻く社会環境も大きく動いた。2023年6月、政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」を取りまとめた。「2024年問題」が広く語られるようになり、物流は現場や物流部門だけでなく、経営課題としても認識されるようになっていく。

Hacobuはこの機を捉え、「物流を経営アジェンダに」というメッセージを積極的に発信していく。象徴的だったのが、「物流2024年問題」をテーマにした企業広告である。

「まだ、『空気』を運んでいるの?」
「1時間34分。ドライバーが待つ時間。」

特徴的なのは、MOVOの機能を訴求するのではなく、物流が抱える社会課題そのものを広告の主題に据えたことだ。まず物流の現実を可視化し、それを企業や社会が向き合うべきテーマとして提示する。リブランディングで定めた「社会課題を解決する企業」というHacobuの立ち位置が、広告表現にもそのまま貫かれている。

   

「物流を社会アジェンダ化することで、山積する物流課題を解決したい」。Hacobuがそう位置づけた広告シリーズは、「第10回(2024年)日経BP Marketing Awards」で金賞を受賞。さらに「第66回 日本雑誌広告賞」でもシリーズ広告部門の金賞に選ばれた。森山さんがブランド浸透の手応えとして挙げるのは、むしろ顧客の言葉の変化だ。

「データドリブンロジスティクス」や「物流を経営アジェンダ化する」といった言葉を、顧客が使う場面も増えてきたという。企業が発信してきた言葉が、相手の語彙として使われ始める。森山さんが感じているのは、認知率だけでは測れないブランドの浸透である。

その変化は、ビジネスの指標にも表れている。

「私が入社し、リブランディングを進めて以降、Webのセッション数や商談につながるリードは数倍に増えています。ただ、これはブランドだけの成果ではありません。法改正という社会環境の変化や、営業をはじめとする各部門の取り組みが重なった結果です。そのうえで、リブランディングには事業を加速させる力があると実感しています」(森山さん)

物流への社会的関心が急速に高まる前に、Hacobuは企業としての立ち位置と言葉を整えていた。広報、広告、営業、採用が共通の軸を持った状態で、社会環境の変化を迎えられたことは、その後の事業展開にとっても大きかった。

採用活動でも、書籍や交通広告、採用サイトなどを通じて企業の考え方に触れる機会が増え、スタートアップにとって大きな壁となる「知られていない」という状態の改善につながっているという。

もっとも、リブランディングから約3年を経た現在も、ブランドを「完成したもの」とは捉えていない。一般層におけるHacobuの認知と、顧客が抱くブランドイメージ。その双方を定点で調査し続けている。目指すのは、「SaaSの現場改善ツールを持つ会社」という認知にとどまらない。Hacobuは経営者やCLO、物流部門の変革に伴走するパートナーへ、MOVOはドライバーをはじめとする物流現場を支えるブランドへ。それぞれの役割に即した認知を、今後さらに広げていく考えだ。

「目指す認知には、まだ距離があります。だからこそ、定点で調査しながら、どこまで変化しているのかを見続けています」(森山さん)

機能が似る時代に、ブランドは何を担うのか

企業間物流のブランドづくりを難しくするのは、ステークホルダーの多さでもある。メーカー、卸、小売、物流事業者に加え、経営層、CLO、物流部門、現場のセンター長やドライバーまで、Hacobuが向き合う相手は幅広い。それぞれに課題も関心も異なり、単一のメッセージですべてを語ることはできない。多様な相手にブランドを浸透させるうえで、森山さんが重視するのは、一貫したメッセージを届け続けることだ。

「BtoBのブランドづくりは、一度の施策で大きく変わるものではありません。接点が変わっても、企業として伝えるべきメッセージを一貫させ、それを継続して届けていくことが重要だと思っています」(森山さん)

広告、オウンドメディア、顧客事例と接点は変わっても、その根底にあるメッセージは揃える。その重要性は、AIによって機能的な差が見えにくくなるほど増していくと森山さんは考えている。

製品やサービスの機能は比較しやすくなり、類似した機能を持つサービスも増える。情報収集から比較、推薦までをAIが担うようになれば、企業は人への訴求だけでなく、AIによる評価や推薦も意識する必要が出てくる。同時に、機能的価値だけで差をつくることは一段と難しくなる。

「AIに選ばれ、推薦されることは、これからますます重要になると思います。一方で、機能的な価値がコモディティ化していくほど、最後に人の意思決定を動かすのは、その企業が何を信じ、どんな社会を実現しようとしているのかという思いではないでしょうか。だからこそ、企業が持つ熱量まで伝わるコミュニケーションが重要になると考えています」(森山さん)

AIの影響は、広報やマーケティングの仕事そのものにも及ぶ。プレスリリースの作成をはじめ、定型的な業務をAIが担う場面は今後さらに増えるだろう。その変化を、森山さんは必ずしもネガティブには捉えていない。

「AIが定型的な仕事を担ってくれるなら、その分、お客様、メディアやパートナーの方に会い、一次情報を取りに行くことに時間を使える。むしろ、人にしかできない仕事へ集中できるようになると捉えています」(森山さん)

森山さんが、人に残る仕事として重視するのは、一次情報に触れ、人と人との関係を築き、異なる立場をつなぎながら周囲を巻き込んでいくことだ。前職の出版社時代から培ってきた、複数の論点を整理して一つのメッセージへ編み上げる思考も、現在のCMOとしての仕事に生きている。

Hacobu自身も、物流領域でのAI活用をすでに進めている。10年にわたり蓄積してきた物流データや現場の知見を活用し、配車や入出荷、計画策定などをAIで支援する。物流効率化法で特定荷主に求められる中長期計画の策定を支援するAIエージェントも提供している。

ただし、AIの機能を用意するだけで物流現場が変わるわけではない。デジタル化の過程でも、新しい仕組みを受け入れるまでには心理的な壁があった。AIでも、技術を導入する側が「自分の仕事にどんな意味があるのか」を理解できなければ、定着は難しい。

「AIを使うことで仕事がどう変わり、現場がどう良くなるのか。その未来を、自分の仕事に引きつけてイメージしてもらうことも、マーケティングの役割だと思っています」(森山さん)

AIによって、物流の現場も、マーケティングの仕事も大きく変わろうとしている。そのなかでも、Hacobuが創業以来掲げてきた「運ぶを最適化する」というミッションは変わらない。

「マーケティングは、ともすればリードをどう獲得するかという話になりがちです。もちろん、それも重要です。ただ、その前提には、物流の現場をどう良くしたいのか、社会にどんな変化をつくりたいのかという私たちの意志がある。そこは、これからも外さずにいたいと思っています」(森山さん)

2035年の「ありたい姿」から逆算し、変えるものと残すものを見定めたHacobu。2023年5月のCI刷新を経ても、そのブランドづくりは続いている。

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