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2026.10.05

採用で求められる、企業の「B面」とは【連載】音声メディアは企業の「声」をどう届けるのか

採用、社内コミュニケーション、顧客との関係づくりなど、企業が音声をどこで、どう生かせるのかを考える本連載。第1回では、音声の聴かれ方の変化とともに、繰り返し聴かれることや、話し手の人柄まで伝わるといった特性を取り上げた。今回は、音声を採用広報にどう生かすかを考える。採用サイトや動画など、候補者が企業を知る手段は増えた。しかし、企業が伝えている姿と、候補者が知りたい姿が一致するとは限らない。採用サイトだけでは見えにくい、企業の等身大の姿――いわば「B面」をどう伝えるか。実際の企業の取り組みから、音声を採用プロセスのどこに組み込めるのかを見ていく。(文=JMP総合プロデューサー長谷川浩和)

【連載一覧】音声メディアは企業の「声」をどう届けるのか

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お話を聞いたのは…

株式会社Voicy
新規事業開発 マネージャー
石川 泉さん(写真右)

2001年に株式会社エフエム東京へ入社。20年以上にわたり営業部門に在籍し、広告主への提案や番組企画、ラジオとデジタルサービスを組み合わせた広告商品の開発などに携わる。2026年1月に株式会社Voicyへ参画。現在は、広告・ブランディング領域を中心とした新規事業開発を担当。

株式会社Voicy
法人ソリューション事業部 事業責任者     
土井 遼平さん(写真左)

2012年にディップ株式会社へ入社。法人営業やマネジメント、新規事業など、約13年間にわたりHR領域で経験を積む。退職後、約8カ月にわたる海外滞在を経て株式会社Voicyへ参画。現在は、採用広報や社内コミュニケーションなど、HR領域を中心とした音声活用に取り組む。

候補者が知りたい、企業の「B面」

石川さんは、選考前の企業理解に音声を使う価値があると話す。

「採用広報で音声を使うのであれば、単純に再生数を稼ぐことが目的ではありません。採用サイトなどから企業のチャンネルを聴けるようにしておけば、候補者は社長や社員の声を聴いたうえで選考に進めます。ある程度会社を理解した状態で来てもらえるので、『イメージしていた会社と違った』ということも起こりにくくなります」(石川さん)

採用サイトには事業内容や募集要項があり、社員インタビューや動画を用意する企業も珍しくない。それでも候補者は、公式情報とは別の角度から会社を知ろうと、口コミサイトなどにも目を向ける。

HR領域を長く見てきた土井さんは、企業が公式に見せる姿を「A面」、候補者が知りたい等身大の姿を「B面」と表現する。

「候補者や学生は、その会社の本当の姿を知りたいと思っています。一方で、企業側はどうしても良いところを中心に発信する。採用サイトを見比べても違いが分かりにくくなって、候補者はB面を求めて口コミサイトなど別の情報源を探す。そこで得た情報が、会社を判断する材料になることもあります」(土井さん)

「B面」とは、ネガティブな情報のことではない。経営者の意思決定の背景や事業の今後、社員が感じている仕事の面白さや難しさ、そこで働く人たちの考え方など、採用向けに整理された情報だけでは見えにくい企業の日常を指す。企業自身が語らなければ、候補者は別の情報源から会社像を組み立てることになる。音声は、等身大の姿まで自社から伝える手段の一つになる。

情報を増やす前に、「何を声で伝えるか」

候補者への情報を増やせば、企業理解もその分だけ深まるとは限らない。土井さんは、音声単体ではなく、採用活動全体から考えることが大切だと話す。テキスト、動画、音声にはそれぞれ得意な役割があり、採用プロセスの中で使い分けることが重要だという。

「僕たちも『音声だけでやりましょう』とはお話ししていません。最初に認知してもらったり、基本的な情報を知ってもらったりするのであれば、テキストや動画の方が適している場面もあります。採用全体を設計したうえで、伝える内容に合った手段を選ぶことが大切です」(土井さん)

土井さんは、候補者に提供したい情報を11項目に整理し、「企業の方向性」「働く場所と人」「仕事と評価」「選考・条件」の四つの領域に分けて捉えている。そのなかでも「企業の方向性」と「働く人や場所」は候補者の関心が高く、企業ごとの差が表れやすいという。選考フローや条件面など、正確さが求められる情報は、文字で一覧できる方が確認しやすい。

一方、経営者が業界をどう見ているのか、どのような意思決定をしているのか、事業をこれからどうしていきたいのか。一緒に働く社員は何を考えているのか。こうした情報は、項目として並べるだけでは企業ごとの違いが見えにくい。

「企業の方向性でいえば、経営者がどんな意思決定をしているのか、事業をこれからどうしていきたいのか、社風をどう考えているのか。そうした内容は、トップ自身の言葉で語ってもらう意味があります」(土井さん)

例えば「挑戦できる会社」という言葉も、企業によって意味は異なる。実際にどんな挑戦があり、そこで経営者が何を判断し、社員がどう動いたのかまで語れば、同じ「挑戦」という言葉でも、その中身は違ってくる。

採用で音声を始めるなら、番組名や出演者を考えるより先に、候補者に何を知ってほしいのかを整理したい。文字で伝えるもの、映像で見せるもの、本人の声で聴いてもらうものを分け、既存の採用コンテンツで伝え切れていない情報がどこにあるのかを確認する。その情報を声で届ける意味があるかどうかが、導入を判断する一つの基準になる。

応募する前に、会社を「聴く」

この考え方を採用活動に組み込んでいるのが、関電不動産開発である。

同社は現在、Voicyで二つの番組を運営している。一つは「デべで働く、わたしたちの話。」。採用担当者を中心に、関電不動産開発の魅力や就職活動などをテーマとして、採用イベントだけでは話し切れない内容を発信したり、様々な社員をゲストに招き、採用サイトだけでは知り得ない業務内容やプライベートな一面も発信している。

関電不動産開発が配信する『デべで働く、わたしたちの話。』

もう一つが「ビル開発女子の働くとオフィスの話」である。ビル開発に携わる社員が、どのようなオフィスで働きたいのか、これからどんなオフィスビルが求められるのかといったテーマについて、日々の仕事で感じたことや発見を語る。自社が開発するオフィスビルの計画段階から竣工まで、そして運用中の裏側についても発信している。

関電不動産開発が配信する『ビル開発女子の働くとオフィスの話』

二つの番組は、届ける相手と役割が異なる。

「デベで働く、わたしたちの話。」は採用候補者に会社を知ってもらうことを主眼とする。一方、「ビル開発女子の働くとオフィスの話。」は、デベロッパーとしてどんな仕事をしているのか、社員がオフィスや働き方をどう捉えているのかを発信する。前者は採用候補者に、後者はクライアントにも聴いてもらうことを想定している。関電不動産開発では、届ける相手と目的に応じて二つのチャンネルを使い分けている。

同社では、音声を採用プロセスにも組み込んでいる。土井さんによれば、会社説明会や冊子、インターンシップなどからVoicyへ誘導し、候補者がエントリーする前から選考中にも、社員のリアルな声に触れられるようにした。この運用に変えた後、カルチャーフィットした候補者からの応募が増え、新卒採用では多くの学生に入社を決めてもらえているという。     

エントリー数は、採用施策の成果を測る分かりやすい指標の一つである。同社の運用では、応募前から     会社を深く知ってもらい、候補者自身が「自分はこの会社に合うか」を考えられるようにしている。音声を、応募を促すためだけではなく、応募するかどうか、入社するかどうかを判断するための情報として使っているのである。

会社は、人事だけでは語りきれない

採用広報の発信者といえば、社長や人事担当者を思い浮かべることが多い。しかし、候補者が入社後に長い時間を共にするのは、採用担当者だけではない。上司になる人、同じチームで働く人、他部署で関わる人。実際の職場を知るには、そこで働く社員の姿も欠かせない。

関電不動産開発の番組では、複数の社員がパーソナリティを務める。事業部の責任者から新入社員まで、現場で働く様々な社員がゲストで登場し、それぞれの仕事ややりがいについて語っている。社員それぞれが、普段の仕事やそこで感じていることを毎週発信しているという。

サンマーク出版でも、発信を社長や人事だけに限定していない。同社は2023年7月から「VoicyPro」を始めた。社長だけでなく、編集者やPR、営業などの社員が日替わりで登場し、本のことや、会社のこと、コンテンツに対する考え方などを発信している。2025年時点では約50人の社員のうち半数以上が放送を経験し、 2026年の現在では、採用面接を受けに来てくれる方のほとんどがVoicyを聴いてから来てくれるので、目線があった状態でお話しができるのだそう。

サンマーク出版が配信する『SUNMARK VOICE』

部署も職種もキャリアも異なれば、会社の見え方も少しずつ違う。候補者にとっては、その違いも会社を知る材料になる。

「最後に会社を選ぶ段階では、『どんな人が働いているのか』『この人たちと一緒に働いて楽しそうか』ということが判断材料になっています」(土井さん)

社員紹介の記事なら経歴や考え方を整理して伝えられ、動画なら表情や職場の様子まで見せられる。音声では、話す速度や間、言葉の選び方、声の調子が伝わる。第1回でも触れたように、声には話し手の人柄が表れやすい。候補者が知りたい「誰と働くのか」を伝えるには、人事からの説明に加えて、実際に働いている社員自身の声を届ける方法もある。誰に話してもらうかによって、候補者に見える会社の姿は変わる。

「いい会社」より、「合う会社」を伝える

採用広報で音声を使うなら、成果の見方も再生数だけでは足りない。どれだけ多くの人に聴いてもらったかだけではなく、どんな候補者に聴かれ、その後の応募や意思決定にどうつながったのかも、成果を考える材料になる。

石川さんは、採用広報を目的とした音声活用を提案するとき、企業側と最初に「何を成果とするか」をそろえることが重要だと話す。

「大きなリーチを取りたいのであれば、ほかの媒体を使った方がいいケースもあります。採用広報を目的に音声を使うのであれば、単純に再生数を稼ぐものではないということは最初にお話ししています。数よりも、企業や人のことを深く理解してもらいたい場合に使う。その目的を最初に共有しておくことが大切です」(石川さん)

できるだけ多くの人に「いい会社だ」と思ってもらうことと、自社に合う人から「ここで働きたい」と思ってもらうことは同じではない。土井さんは、採用において「価値観のマッチング」が重要だと話す。

「今は価値観が多様になっています。全体に向けて同じ広報をするだけではなく、誰に来てほしいのか、その人に何を知ってほしいのかを考える必要がある。候補者側にも、その会社を選ぶ基準が必要だからです」(土井さん)

「挑戦できる会社」「風通しのよい職場」「若手が活躍する組織」。どれも採用広報では珍しくない言葉だ。同じ言葉でも、自社にとって何を意味するのかまで語れば、企業ごとの違いが見えてくる。経営者や社員が具体的な経験を語るほど、その会社が何を大切にし、どんな人が働いているのかも伝わりやすくなる。

そこに惹かれる人もいれば、「自分とは少し違う」と感じる人もいる。企業と候補者が選考の早い段階から互いを知ることは、ミスマッチを減らすうえでも意味を持つ。

採用で音声を使うなら、再生数だけを見るのではなく、候補者の企業理解や選考での対話にどんな変化を期待するのかまで考えておきたい。

音声は、採用導線のどこに置くか

番組の内容や話し手を決める前に、候補者が企業を知ってから意思決定するまでの流れを整理したい。会社を知り、関心を持ち、採用サイトや社員情報を調べ、応募を検討する。その後、選考を経て入社先を決める。

石川さんは、音声にリーチも求めるのであれば、VoicyだけでなくSpotifyやradiko(ラジコ)など他の配信先、広告などを組み合わせる方法もあると話す。一方、採用広報で企業への理解を深めてもらうことが目的なら、再生数とは異なる考え方が必要になる。

認知の獲得、応募前の企業理解、選考中の相互理解、内定後の意思決定支援。採用プロセスのどこで音声を使うかによって、番組の内容も評価の仕方も変わる。

関電不動産開発のように、応募前や選考中に会社や社員への理解を深めてもらうこともできる。サンマーク出版のように、多様な社員が継続的に語ることで、採用サイトとは違う角度からカルチャーを伝える方法もある。Voicyでは、採用に関わったメンバーが内定者に音声メッセージを届ける「声のオファーレター」といった活用方法も提案している。

既存の採用導線を見直し、候補者への情報が不足している段階や、会社の人柄が伝わりにくい場面に音声を組み込む。先に考えたいのは番組そのものではなく、候補者にどの段階で、何を知ってもらいたいのかである。

そのうえで、話し手やテーマ、配信頻度、評価指標を決めていく。実際、現場社員への情報伝達に課題を抱え、音声による社内発信を取り入れた企業もある。経営者自身の言葉や、普段接点のない拠点・部署の仕事を声で届ける。こうした社内コミュニケーションの一つの形が、「声の社内報」である。

次回は「『声の社内報』は組織をどう変えるのか」。PCを日常的に使わない現場社員を抱える企業や、従来の社内報が十分に読まれていなかった企業は、なぜ音声を選んだのか。「伝えた」と「伝わった」の間を、音声はどう埋めるのか。次回、実際の企業の取り組みから考える。

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