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2026.09.28

動画全盛のいま、なぜ「音声」が企業に注目されるのか【連載】音声メディアは企業の「声」をどう届けるのか

Podcastや音声配信サービスの浸透によって、音声の聴かれ方は変わった。決まった時間に放送を聴くだけでなく、好きな番組を、好きな時間に選んで聴くスタイルが定着しつつある。企業による活用も、広告だけではない。採用広報や社内コミュニケーション、顧客との継続的な関係づくりなどへと用途が広がっている。一方、自社で取り組むとなれば、動画やSNSとどう使い分けるのか、どのような課題に向き、何を成果指標とするのか。導入時に判断すべきことは少なくない。本連載では、株式会社Voicyで法人向け事業に携わる石川泉さんと土井遼平さんに、企業による音声活用の考え方から、設計・運用の要点までを全5回で聞く。第1回では、音声メディアの現在地をたどりながら、企業はその特性をどう捉え、どのような場面で生かせるのかを考える。(文=JMP総合プロデューサー長谷川浩和)

【連載一覧】音声メディアは企業の「声」をどう届けるのか

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お話を聞いたのは…

株式会社Voicy 新規事業開発 マネージャー
石川 泉さん(写真右)

2001年に株式会社エフエム東京へ入社。20年以上にわたり営業部門に在籍し、広告主への提案や番組企画、ラジオとデジタルサービスを組み合わせた広告商品の開発などに携わる。2026年1月に株式会社Voicyへ参画。現在は、広告・ブランディング領域を中心とした新規事業開発を担当。

株式会社Voicy 法人ソリューション事業部 事業責任者     
土井 遼平さん(写真左)

2012年にディップ株式会社へ入社。法人営業やマネジメント、新規事業など、約13年間にわたりHR領域で経験を積む。退職後、約8カ月にわたる海外滞在を経て株式会社Voicyへ参画。現在は、採用広報や社内コミュニケーションなど、HR領域を中心とした音声活用に取り組む。

ラジオ、Podcast、ボイスメディア――広がる「音声」の選択肢

Voicyは音声プラットフォーム「Voicy」を運営する音声テクノロジー企業だ。取材時点の会員登録者数は約280万人。ビジネス、ニュース、教育、子育てなど2000を超えるチャンネルがあり、個人に加えてメディアや企業も番組を持つ。個人パーソナリティには審査制を採用している。

法人領域では、石川さんが広告・ブランディングを、土井さんが採用広報や社内ラジオなどHR分野を中心に手掛けている。

石川さんがTOKYO FMで営業を担った20年余りは、radikoやタイムフリーの登場によって、ラジオの聴取環境が大きく変わった時期と重なる。

「20年以上ラジオの営業に携わってきましたが、その間にradikoやタイムフリーが登場し、聴取環境も広告のあり方も大きく変わりました。環境が変われば、当然、企業への提案も変わります。その時代の環境に照らしながら、音声だからできることは何かを考え続けてきました」(石川さん)

音声コンテンツの形も多様になった。制作チームがフォーマットに沿ってつくるラジオ番組、構成や演出を練り込むPodcast、話し手自身の語りを生かしてタイムリーに発信するボイスメディア。それぞれ、制作の思想も聴かれ方も異なる。

決められた時間にラジオをつけるだけでなく、自分で番組を選び、好きな時間に再生し、気になれば過去回まで遡る。コメントなどを介して話し手と交流することもできる。「放送を聴く」から、「自ら選び、継続して聴く」へ。音声の聴かれ方が変わったことで、企業が生活者や社員に働きかけられる時間帯も広がっている。

動画全盛だからこそ、「耳」が空いている

企業の情報発信において、動画活用はすでに特別な施策ではない。YouTubeやInstagram、TikTokなどを通じて、商品紹介から採用、企業ブランディングまで幅広く定着している。その状況を踏まえたうえで、石川さんは、むしろ動画が増えたからこそ音声に余地が生まれていると見る。

「企業の情報発信では、動画活用が当たり前になりました。ただ、動画が増えれば『動画疲れ』も出てきますし、一日の中で画面を見られる時間には限りがあります。一方で、耳にはまだ空いている時間がある。企業や広告会社が音声に目を向ける理由の一つは、そこだと思います」(石川さん)

通勤や移動、車の運転、料理や洗濯、散歩や運動。画面を見ることが難しい時間でも、音声なら情報に触れられる。実際、Voicyでは20~40代のビジネスパーソンが多く、「ながら聴き」を情報収集に取り入れている。

ディップで約13年間HR領域に携わった土井さんは、退職後にヨーロッパや米国などを巡り、日本とは異なる音声の浸透ぶりに驚いたという。

「海外では、レストランやホテルがSpotifyで番組を持っていたり、試合後に選手がPodcastで発信していたりする。観客が片耳でPodcastを聴きながらスポーツを観ている姿もありました。音声や“ながら聴き”が、特別なものではなく、日常の習慣として根づいている。そのことが強く印象に残りました」(土井さん)

企業から見れば、動画やテキストとは異なる生活時間にも情報を届けられることになる。音声への関心の高まりは、こうした聴取習慣の変化とも重なっている。

音声は、再生数だけでは測れない

企業による音声活用を考える際、再生数やリーチだけでは捉えにくい側面がある。Voicyは、こうした音声の価値を「共感深度」という言葉で捉えている。何人に接触したかだけでなく、継続聴取や再訪といった行動にも目を向ける考え方だ。

音声では、同じ話し手の声に繰り返し触れることができる。短期間のリーチとは異なり、考え方や人柄を、時間をかけて知ってもらえる点に特徴がある。メディアによって得意とする役割は異なる。

石川さんも、企業へ音声を提案する際には、この違いを最初に確認するという。

「単純に大きなリーチを取りたいのであれば、ほかの媒体を選んだ方がいいケースもあります。音声を選ぶ意味が出てくるのは、リーチの大きさだけではなく、企業や人への理解を、時間をかけて深めてもらいたい場合です」(石川さん)

デジタル音声では、再生数以外の行動も把握できる。どれだけ継続して聴かれているか、フォロワーがどう推移しているか、新しく聴き始めた人が再び訪れているか、といったデータである。例えばVoicyProでは、リスナー数や聴取時間帯、属性に加え、継続率やフォロワー推移、新規リスナーの再訪率なども確認できる。

石川さんが注目している指標の一つに、「バックカタログ再生率」がある。番組を知った人が最新回にとどまらず、過去の放送まで遡って聴いているかを見る指標で、番組への関心を捉える一つの材料になる。

再生数だけを追っていては、こうした聴取行動は見えてこない。継続聴取や再訪、過去回の再生まで見ることで、番組への関心を別の角度から捉えられる。企業が音声の成果を考える際には、こうした時間軸も一つの手掛かりになる。

映像がないから、聴き手が考える

音声と動画の違いは、情報量の多寡だけではない。石川さんが着目するのは、映像を持たないことによって生まれる「想像の余地」だ。

「テレビや動画では、発信する側が映像を見せます。一方、音声では、聴き手自身が頭の中でイメージをつくることになります。自分で一度考える過程が入る分、記憶にも残りやすいと思います」(石川さん)

商品の形や使い方を一目で示したいのであれば、映像の方が適している。しかし、音声には完成された「画」がない。言葉を聞きながら、自分なりに場面を思い描き、過去の経験や価値観と重ねる。視覚情報がない分、聴き手自身が解釈する余地が残されている。

経営者の判断の背景、社員が仕事に向き合う姿勢、会社が大切にする価値観。こうした目に見えにくい情報ほど、話し手自身の言葉で語る意味が出てくる。動画をそのまま音声に置き換えるのではない。どんなテーマなら、声で語る意味があるのか。そこから企画を組み立てることで、音声を選ぶ理由も明確になる。

企業の印象は、「誰が話すか」で変わる

音声では、「何を話すか」と同じくらい、「誰が話すか」が印象を左右する。石川さんは、長年のラジオ経験からそのことを実感してきた。

「テレビでは遠い存在に感じる人でも、日常的に声を聴いていると身近に感じるようになります。しかも、身近に感じるのはリスナー側だけではありません。パーソナリティも、お便りや反応を通じてリスナーを近い存在として感じるようになります」(石川さん)

声には、文字に置き換えきれない要素がある。話す速度、間の取り方、抑揚、笑い方。少し言葉を探す時間にも、その人らしさが表れる。Voicyでも、過度に整えすぎず、話し手らしさを残すことを重視している。

「営業のプレゼンでも、よどみなく整っているのに、なぜか心に残らないことがあります。一方で、本当に伝えたいことを自分の言葉で話している人の言葉は、多少言葉が整っていなくても耳に残る。Voicyでも、そうした話し手らしさを損なわないことを大切にしています」(石川さん)

企業の公式な情報に正確性が求められるのは当然である。しかし、整えられた言葉だけでは見えにくいものもある。肩書や企業名だけでは分からない、考え方や人柄が声には表れる。採用や社内コミュニケーションで音声が使われ始めている理由の一つが、ここにある。

先に決めるのは、「番組」ではなく「目的」

企業が音声を使うなら、番組の形式を考える前に目的を定めたい。採用なのか、社内コミュニケーションなのか、顧客との関係づくりなのか。目的によって、音声に担わせる役割は変わる。土井さんは、企業による音声活用を「採用ブランディング」「インナーブランディング」「サービスブランディング」の三つに整理する。

「企業での活用を整理すると、大きくは採用ブランディング、インナーブランディング、サービスブランディングの三つです。最近は特に、採用とインナーコミュニケーションの領域で相談が増えています。目的によって、番組の設計も変わります」(土井さん)

活用の形も、経営者や社員が語る採用広報、通勤や休憩時間に聴ける社内向け放送、顧客向けの企業チャンネルなどさまざまだ。それぞれ目的が異なる以上、話す人も、テーマも、配信頻度も、見るべき数字も変わる。話す人も、テーマも、配信頻度も、見るべき数字も変わる。音声を始めること自体が目的ではない。自社の課題に合わせて、話し手やテーマ、運用方法を設計する必要がある。

次回は「採用」を取り上げる。採用サイトや動画をはじめ、企業が候補者に提供する情報はかつてなく増えている。それでも、企業と候補者の間からミスマッチは消えていない。足りないのは、情報の「量」なのだろうか。次回、その問いを音声メディアの側から考える。

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