採用、社内コミュニケーション、顧客との関係づくり――企業は音声をどこで、どう使えるのか。これまで採用での活用を取り上げ、第3回では、経営や現場の声を社員に届ける社内ラジオを紹介した。今回は、顧客とのコミュニケーションに目を向ける。商品やサービスを知った人が、その場で意思決定するとは限らない。検討が続く間、企業は顧客とどう関わり続けるのか。購入や契約を促す場面だけでなく、その前の時間にも、顧客にとって役立つ情報を届けられる。グロービス経営大学院などの事例から、企業が音声を通じて顧客との関係をどう育てているのかを追う。(文=JMP総合プロデューサー長谷川浩和)
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お話を聞いたのは…

株式会社Voicy 新規事業開発 マネージャー
石川 泉さん(写真右)
2001年に株式会社エフエム東京へ入社。20年以上にわたり営業部門に在籍し、広告主への提案や番組企画、ラジオとデジタルサービスを組み合わせた広告商品の開発などに携わる。2026年1月に株式会社Voicyへ参画。現在は、広告・ブランディング領域を中心とした新規事業開発を担当。
株式会社Voicy 法人ソリューション事業部 事業責任者
土井 遼平さん(写真左)
2012年にディップ株式会社へ入社。法人営業やマネジメント、新規事業など、約13年間にわたりHR領域で経験を積む。退職後、約8カ月にわたる海外滞在を経て株式会社Voicyへ参画。現在は、採用広報や社内コミュニケーションなど、HR領域を中心とした音声活用に取り組む。
商品やサービスを知っても、すぐに購入や契約を決めるとは限らない。
グロービス経営大学院が課題としていたのは、2年間通う必要があることや価格の面などで、時間をかけて学ぶ価値を納得してもらう必要があるからこそ、最終的に説明会や個別のキャリア相談まで来てもらうまでの深い認知をつくることでした。
そこで2019年から、Voicyで「ちょっと差がつくビジネスサプリ」を配信。経営やビジネスについて学べるコンテンツを日々届けている。
グロービス経営大学院が配信する『ちょっと差がつくビジネスサプリ』。取材時点でフォロワーは約11万人
「グロービスさんでは、簡単に即決できるサービスではないからこそ、体験会や個別相談への参加が検討の第一歩となります。しかし、単に名前を知っているだけの認知ではそこまでのアクションに至らず、次の行動を後押しするハードルの高さが課題でした。そこで、経営やビジネスについて学べるコンテンツを毎日配信しています。番組をきっかけにさらに学びたいと考え、体験会などに参加、そこから実際の入学に至る方もいると聞いています。音声を認知からナーチャリングまで活用している代表的な事例だと思います」(土井さん)
毎日の放送の中心は、入学案内ではなく、経営やビジネスについての「学び」だ。まだ入学を具体的に考えていない時期にも、経営やビジネスの学びを通じて、グロービスの専門性に触れてもらえる。
業界への見方や、顧客から繰り返し寄せられる質問、自社に蓄積してきた専門知識も、音声のテーマになる。顧客に向き合った内容が、そのまま一本のテーマになることもある。
石川さんが注目している指標の一つが、「バックカタログ再生率」である。一定期間の総再生数に占める、過去回の再生割合を示す。
例えば、100回の再生のうち60回が過去回なら、バックカタログ再生率は60%となる。海外のPodcastで使われており、「日本でも数年後には一般的になるのではないか」と石川さんは見ている。
「最新回の再生数だけでなく、過去回がどれだけ聴かれているかを見るんです。一つの放送をきっかけに興味を持ち、過去の回へさかのぼって聴いていく。バックカタログを見ると、再生数だけでは分からない、リスナーの関心の深さが見えてきます」(石川さん)

初めて番組を知った人が、半年前、1年前の放送までさかのぼることもある。過去回をたどれば、その企業が何を考え、どんなテーマを発信してきたのかも分かる。放送の蓄積は、後から企業を知った人にとっても、その会社の専門性や考え方に触れる入口になる。
音声活用の可能性は、企業規模だけでは決まらない。土井さんが着目するのは、その企業が持つ思想や専門性だ。
「規模の小さな企業でも、音声で違いを出せると思っています。YouTubeで大きなリーチを取るのは簡単ではありませんが、明確な思想や専門性があれば、それを継続して伝えることはできる。知名度や規模とは違う軸で、その企業を知ってもらうことができると思います」(土井さん)
その例として、静岡県で人材育成・組織開発などを手掛けるNOKIOO(ノキオ)がある。同社では、取締役の小田木さんを中心に、複数名の社員が6年もの長い間音声発信を続けている。定期開催するセミナーやイベントにはVoicyをきっかけに参加する方も多く、さらに初めてお会いするお客様にも「〇〇さんですよね! いつも聴いています」という声が寄せられるなど、これまで音声配信で積み重ねた信頼が、ご縁となっていることを実感する場面も多いそう。
NOKIOOが配信する『明日の景色を変える「仕事サプリ」』
継続して語れる専門領域や、経営者・社員が持つ問題意識、商談で何度も説明しているテーマは、そのまま音声の題材になり得る。社内では当たり前の知識が、顧客には価値のある情報であることも少なくない。
新しい企画を一から考えなくても、社内にはすでに題材がある。蓄積してきた知見や経験を、誰に語ってもらうか。音声活用は、そこから考えられる。
同じ経営者や社員の声を継続して聴いていると、その人の知識だけでなく、物事の見方や言葉の選び方にも触れる。聴き続けるうちに、「この人の話をまた聴きたい」と思うこともある。音声によるファンづくりで大きな存在になるのが「人」だと、土井さんは話す。
「音声は、人にファンがつきやすいメディアだと思っています。企業名やブランドだけでなく、そこで働く人自身が表に出て、自分の言葉で考え方を話す。話し手の個性が強く表れる面はありますが、その人の価値観や仕事への向き合い方まで知ってもらいたい企業には、相性がいいと思います」(土井さん)

実際、ある人材研修会社が毎月開いている勉強会では、参加者の多くがVoicyをきっかけに集まっていたという。参加者は初対面の講師に「先週の放送が印象に残った」と話しかけ、本へのサインを求める人もいた。対面するのは初めてでも、音声ではすでに何度も会っている。誰が話すかによって、顧客に映る企業の姿も変わる。
普段から番組を聴くリスナーに商品を紹介するとき、石川さんが重視するのは、いつもの発信との一貫性である。
その例として挙げたのが、Voicyパーソナリティの越川慎司さんと大正製薬「リポビタンDX」のタイアップである。配信には多くのコメントが寄せられ、購入を報告する反応も見られたという。
「パーソナリティ自身が『この商品なら自信を持ってすすめられる』と思えないのであれば、広告をお受けしないこともあります。普段からその人の言葉を信頼して聴いている方がいるからこそ、広告でも嘘をつかない。そして、いつもの発信につながる文脈の中で商品を語ることが大切だと考えています」(石川さん)
リスナーが日頃から聴いているのは「広告枠」ではなく、話し手自身の言葉である。だからこそ、本人が納得して語れる商品なのか、普段の発信から無理なくつながるのかまで考える必要がある。
音声による顧客との関係づくりは、短期間で成果を求める施策とは時間軸が異なる。
「短期の獲得効率だけで評価すると、音声の価値は捉えにくいと思います。一気に成果が出る施策ではないからです。一方で、グロービスさんやNOKIOOさんのように、長く続けることで関係が積み上がっていく。僕たちは、3年、4年という中長期の時間軸で考えていただくことが多いです」(土井さん)
認知を広げるなら、テキストや画像、動画の方が適する場面もある。企業やサービスへの理解を深め、関係を継続していく段階では、音声も選択肢になる。重要なのは、目的からメディアを選ぶことだ。
継続して番組を聴くうちに、過去回へさかのぼったり、コメントを寄せたり、イベントで話し手に会ったりすることもある。そうした時間の積み重ねが、商品やサービスを必要としたときに企業を思い出す一因になる。
検討期間中も顧客とのコミュニケーションを続け、専門性やそこで働く人について時間をかけて知ってもらいたい企業にとって、音声は有力な選択肢になる。社内に蓄積された知識や人の考えを、商品やサービスが必要になる前から届けておく。すぐに購入や契約へ結びつかなくても、聴き続けてもらった時間が、企業を選ぶ際の判断材料になることもある。
最終回は「台本を作り込まない。企業音声メディアの始め方、続け方」。話し手の選び方や台本のつくり方、配信頻度など、企業が音声配信を始め、続けていくための実務を取り上げる。
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