採用、社内コミュニケーション、顧客との関係づくり。ここまで4回にわたり、企業が音声を活用する場面を見てきた。最終回は、実際に音声配信を始める段階に目を向ける。話し手の選び方や台本のつくり方、収録内容の確認、公開後に聴き手へ届ける導線。継続するためには、出演者や担当者に無理のない運用も欠かせない。収録から公開、その後のコンテンツ展開まで、企業が音声を始める際の実務を聞いた。(文=JMP総合プロデューサー長谷川浩和)
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お話を聞いたのは…

株式会社Voicy 新規事業開発 マネージャー
石川 泉さん(写真右)
2001年に株式会社エフエム東京へ入社。20年以上にわたり営業部門に在籍し、広告主への提案や番組企画、ラジオとデジタルサービスを組み合わせた広告商品の開発などに携わる。2026年1月に株式会社Voicyへ参画。現在は、広告・ブランディング領域を中心とした新規事業開発を担当。
株式会社Voicy 法人ソリューション事業部 事業責任者
土井 遼平さん(写真左)
2012年にディップ株式会社へ入社。法人営業やマネジメント、新規事業など、約13年間にわたりHR領域で経験を積む。退職後、約8カ月にわたる海外滞在を経て株式会社Voicyへ参画。現在は、採用広報や社内コミュニケーションなど、HR領域を中心とした音声活用に取り組む。
第1回では、番組より先に目的を定めることを取り上げた。目的が定まれば、次は誰に、どのように話してもらうかを考える。
経営者自身の考えをじっくり届けるなら、一人で語ってもらう方法がある。聞き手との対話を通じた方が、言葉が出てくる人もいるだろう。音楽や編集を加え、ブランドの世界観まで含めて番組をつくる方法もある。同じテーマでも、話し手によって適した形は変わる。
「音声でも、一人語りなのか、対談なのか、編集を加えるのかで伝わり方は変わります。価値観や人となりを伝えたいのか、番組として世界観をつくりたいのか。目的によって、合う形は違います」(土井さん)
企業の音声番組でも、出演者自身が進行まで担う必要はない。Voicyでは、パーソナリティが聞き手となり、経営者や社員から話を引き出す方法も用意している。番組名やロゴを考える前に、まず話し手を見る。一人で考えを組み立てられる人もいれば、聞き手との対話によって言葉が引き出される人もいる。一人語りにするのか、聞き手を置くのか。形式は、話し手の特性を踏まえて決めたい。
企業が音声番組を始めるとなれば、収録環境も気になる。Voicyでは専用アプリを使ってスマートフォンから収録でき、音量調整やノイズ処理などもシステム側で行われる。本格的なスタジオや機材をそろえることが、配信の前提というわけではない。
企業で継続するうえでは、収録環境以上に、出演者と担当者の時間をどう確保するかが現実的な課題になる。経営者や事業責任者が出演するなら、収録時間を日々の業務の中でどう確保するかも考えておきたい。進行や準備を誰が担うのかによっても、本人の負担は変わる。
配信頻度は企業によって異なる。毎日の配信もあれば、週1回の番組もある。土井さんは、配信頻度を考える際には、リスナーの日常に番組がなじむかという視点も大切だと話す。
配信するたびに収録日を設ける必要もない。石川さんによれば、週1本の配信なら、月に一度、2時間ほど時間を取り、4本をまとめて収録する運用も可能だという。

その日の話題をその日のうちに届ける番組もあれば、まとまった時間に複数本を録る番組もある。配信頻度と収録頻度を分けて考えれば、出演者や担当者の業務にも組み込みやすくなる。
Webサイトの記事やオウンドメディア、広報資料など、企業にはすでに多くのテキストがある。それをそのまま読めば効率的に見えるが、文章として完成された原稿ほど、声にしたときには不自然になることがある。土井さんによれば、既存テキストの読み上げは、企業が音声を始める際に陥りやすい例の一つだ。
「記事やnoteに書かれている内容を、そのまま読もうとする企業さんは多いです。ただ、文章を読むと、どうしても棒読みになりやすい。僕たちは、例えば今日話すことを4項目くらい整理しておいて、そこから先は自分の言葉で話してもらう形をおすすめしています」(土井さん)
目で読む文章と、人に向かって話す言葉では、リズムも情報の運び方も違う。一字一句を決めれば発言内容は管理しやすい。その反面、その場で考えながら言葉を選ぶ自然さは失われやすい。
事実関係や必ず触れるテーマ、話す順序までは事前に整理し、その先は本人に委ねる。考え方や仕事への向き合い方まで伝えるのであれば、用意された文章を読むより、本人がその場で選んだ言葉の方が、その人らしさは伝わりやすい。
台本を細かく決めない運用では、発言内容を確認する仕組みも必要になる。経営者や社員に自分の言葉で話してもらう一方、公式な発信である以上、公開できる情報の範囲や表現には一定の基準を設けておきたい。
土井さんによれば、企業側がこうした点を慎重に検討するケースは少なくない。実際の運用では、あらかじめ発言上のルールを定め、収録後に内容を確認する企業もある。
「特に大手企業では、発言内容をかなり慎重に確認されます。あらかじめ発言上の基準を決め、AIで文字起こしした内容を確認する。必要であれば、その部分を録り直すこともできます」(土井さん)
事前に共有するのは、公開できる情報の範囲や表現上のルールまで。実際の言葉は話し手に委ね、収録後に内容を確認する。こうした運用であれば、企業として必要な管理を行いながら、一字一句を台本で固定せずに済む。
VoicyProでは、収録内容をAIで文字起こしできる。テキストで内容を確認し、必要な箇所だけを録り直すほか、文字起こしを記事制作などに活用することも可能だ。確認する範囲と手順が定まっていれば、一字一句を台本で管理する必要も小さくなる。
番組は、公開すれば自然に聴かれるわけではない。音声配信サービスにはすでに多くの番組が並んでおり、内容に力を入れても、その存在を知ってもらえなければ聴取にはつながりにくい。石川さんが重視するのは、番組をつくることだけでなく、どう聴き手へ届けるかという「流通」まで含めて設計することだ。
「自社でPodcastをつくって配信サービスに置いても、それだけではなかなか聴いてもらえません。コンテンツが多い中で、どう知ってもらうかまで考える必要があります」(石川さん)
音声プラットフォームには、番組をユーザーに知ってもらうための告知機能や露出の仕組みがある。外部のPodcastや自社メディアと組み合わせる方法も考えられる。配信先に加えて、どこで番組を知ってもらうのか。音声でも、コンテンツの制作と「流通」は別の仕事である。
企業がすでに持つメディアも、その導線になり得る。自社サイトや採用サイト、メールマガジン、SNS、社内ツールなど、顧客や社員との既存の接点から番組へつなぐ。新たな音声番組を独立させず、これまでの情報発信の中に組み込む方法もある。
時間や費用をかけてオウンドコンテンツを制作しても、その場所だけでは十分に届かないケースがある。コンテンツの質とは別に、そこへ人がたどり着く経路を用意する。どこで配信し、どこで知ってもらうのか。番組を立ち上げる際には、その導線まで描いておきたい。
記事やSNS、動画、社内報をすでに運用している企業にとって、音声を始めれば、制作するコンテンツが一つ増える。土井さんは、情報発信の順序そのものを変える方法を挙げる。
「テキストを先につくって、それを音声で読むのではなく、まず声で一次情報を出す。VoicyProではAIで文字起こしができるので、その内容からテキストに展開している企業さんもあります。『テキストから音声』ではなく、『音声からテキスト』という考え方です」(土井さん)

経営者や事業責任者にテーマについて話してもらい、その内容を音声として配信する。文字起こしから記事をつくり、一部をSNSや社内向けのテキストにも展開できる。
経営者や技術者に一から原稿を書いてもらうより、対話を通じて言葉を引き出した方が、本人の知識や経験を拾いやすい場合もある。声を一次情報の入口に置けば、一度の収録を複数の発信に活用できる。
企業の中に蓄積された知識や経験は、必ずしも最初から文章になっているわけではない。まず本人に話してもらい、そこから必要な形へ編集していく。
自社にある知識や考えを、誰の声で、誰に届けるのか。音声メディアを始める際の出発点は、そこにある。
今回の取材は、およそ120分。事前に多くの質問を用意して臨みましたが、実際に伺えたのは半分ほどでした。一つの答えから次の問いが生まれ、用意した質問に戻るより、その話をもう少し先まで聞きたくなる。取材者として、とても贅沢な120分でした。
石川さん、土井さんには、長時間にわたり率直に、そして惜しみなくお話しいただきました。改めて感謝申し上げます。また、お二人とのご縁をつないでくださったTOKYO FMグループのジグノシステムジャパン 神山洋平さんにも、心より御礼申し上げます。
今回の取材を通じて、企業にとって音声がどこで力を発揮するのかを、私自身も以前より具体的に考えられるようになりました。再生数だけでなくバックカタログ再生率を見ることや、目的に応じてテキスト・動画・音声を選ぶという考え方は、特に印象に残りました。全5回を読んで、「自分たちなら音声をどう使えるだろう」と考え始めた方もいるかもしれません。
かくいう私も、その一人です。JMPでも、音声メディアの立ち上げを検討しています。実現した際には、完成した姿だけでなく、そこに至るまでの試行錯誤もJapanStepでお伝えしたいと考えています。この連載はいったんここで一区切りですが、私自身はこれから、実際に音声を使う側として学んでいきたいと思います。石川さん、土井さん、ぜひ引き続きよろしくお願いいたします。(文=JMP総合プロデューサー 長谷川浩和)
