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2026.07.03

ゼロイチの原点は、現場にある【連載】再生請負人 平良学が教える 中小企業のゼロイチ術(第1回)

皆さま、はじめまして。フォーバル GDXリサーチ研究所の平良学です。中小企業が新しい一歩を踏み出すとき、何から始めればよいのか。私はこれまで、営業、赤字拠点の再建、コンサルティング事業の立ち上げ、フォーバル GDXリサーチ研究所の運営を通じて、数多くの現場と向き合ってきました。その経験から言えるのは、ゼロイチの答えは机上ではなく、現場にあるということです。本連載では、中小企業が変化を恐れず、事業を生み出し、育てていくための実践知をお伝えしていきます。初回となる今回は、私が中小企業の現場から何を学び、どのようにゼロイチと再生に向き合ってきたのかをお話しします。では、始めていきましょう。(解説=フォーバル GDXリサーチ研究所 平良学/文=JMPプロデューサー長谷川浩和)

教えてくれるのは…

フォーバル GDXリサーチ研究所 所長
平良 学さん

1992年、株式会社フォーバル入社。九州支店の責任者として赤字拠点の立て直しに取り組み、コンサルティング事業の立ち上げや事業部の統括、アライアンス事業などを担い、2020年に執行役員に就任。2022年より、GDX(Green × Digital Transformation)を軸に、中小企業のDX・ESG経営、自治体連携による地域企業支援、調査・研究・提言活動に取り組んでいる。

原点は、創業者との出会いだった

私は現在、フォーバル GDXリサーチ研究所で所長を務めています。フォーバルは、中小企業の情報通信分野の支援を原点に、現在はDX・GXや経営支援、自治体・金融機関との連携などにも領域を広げてきた会社です。

その中でフォーバル GDXリサーチ研究所は、GX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)を掛け合わせた「GDX」を軸に、中小企業の経営実態を調査し、「BLUE REPORT」というレポートにて社会に発信する役割を担っています。中小企業には変革が求められている一方で、政策や支援策、必要な情報が現場まで十分に届いていないことも少なくありません。現場の声をすくい上げ、国・自治体、金融機関、支援機関などとつなぎ直していく。その橋渡しを担うのが、私たちフォーバル GDXリサーチ研究所の役割です。では、なぜ私がそこまで中小企業にこだわるのか。まずは、自分自身の原点からお話ししたいと思います。

私がフォーバルに入社したのは、1992年のことです。いま振り返ると、かなり大雑把(おおざっぱ)な就職活動だったかもしれません。國學院大學に通っていた私は、あるとき「この大学から起業して、大きな会社をつくった人はいないのか」と思い、調べる中で、フォーバルの前身である新日本工販を創業した大久保秀夫の存在を知りました。

当時、大久保は「NTTという巨人に立ち向かう」という、大きな旗を掲げていました。もちろん、私自身は通信のことを詳しく理解していたわけではありません。ただ、「これから情報通信の波が来る」「日本はこう変わっていく」という話を聞いたとき、その熱量に強く引き込まれました。

通常のOB訪問であれば、同じ大学出身の先輩社員に会うのが自然です。しかし私は、大久保本人に会いたいと伝えました。周囲からは「忙しいから難しい」と言われましたが、結果的に会ってもらうことができました。そこで受けた衝撃が、私の社会人としての出発点です。

何をやる会社なのかを細かく理解して入社したというより、「この人のもとで働いてみたい」と思った。それが正直なところです。いま思えば、最初のゼロイチは、ここにあったのかもしれません。まだ見えない未来に対して、「面白そうだ」と一歩を踏み出す。中小企業が新しい挑戦に向かうときにも、この感覚は欠かせません。

事業を始めるとき、最初からすべての答えが見えていることはほとんどありません。むしろ、先が分からないからこそ、自分が何に惹かれ、何を面白いと思い、誰と進みたいのかが問われます。私にとって、その原点が大久保との出会いでした。そしてここから、私が中小企業の現場に深く入っていく日々が始まりました。

経営者との会話で気付いた「商売の本質」

入社後、私は東京の新宿営業部に配属されました。最初の10年ほどは、首都圏の中小企業に向けて、情報通信のインフラを提案する営業に取り組みました。当時は、国際電話や長距離電話の料金が非常に高かった時代です。通信費を削減できるアダプターを提供し、通信インフラ側から収益を得る。いま振り返っても、なかなか面白いビジネスモデルだったと思います。

営業としては、早い段階で結果を出すことができました。ただ、私が大切にしていたのは、商品を売ることだけではありませんでした。飛び込み営業で中小企業を訪ねると、多くの場合、会うのは経営者です。そこで私は、ふと考えました。この人たちは、自分で事業をつくり、自分で商売を成り立たせている。ならば、そのビジネスモデルを聞かせてもらうことが、これ以上ない学びになるのではないか。そう考えるようになりました。

先輩たちは、商品の機能やカタログスペックを説明していました。もちろん、それも大事です。しかし私は、社長に「最後に一つだけ教えてください。どういうビジネスモデルで事業を続けているのですか」と聞くようになりました。すると、多くの経営者は喜んで話してくれました。若い営業担当者が目を輝かせて、自分の創業の話や商売の仕組みに耳を傾ける。それがうれしかったのだと思います。

その話を聞くうちに、私なりに「若い人にはこう見えるかもしれません」「採用ではこんな打ち出し方もあるのではないでしょうか」と意見を伝えるようになりました。すると、「また来てくれ」と言っていただけるようになる。商品を売りに行っていたはずが、いつの間にか経営者から商売の本質を教わっていました。

ここで私が学んだのは、現場には必ず答えの手がかりがあるということです。経営者が何に悩み、何に喜び、どこに可能性を感じているのか。それを聞かずに、外から正解を押しつけても意味がありません。ゼロイチは、机の上でアイデアをひねり出すことから始まるのではありません。まず相手の話を聞き、現場のリアルを知ることから始まります。私の中小企業観は、この営業の現場で育てられました。

赤字拠点で学んだ、本音を聞く力

首都圏で成果を出し、マネジメントも経験するようになると、正直に言えば、少し天狗になっていたところもありました。そんなとき、当時の上司から「九州へ行け」と言われました。しかも、九州の拠点は数字が厳しく、このままでは閉鎖もあり得るという状況でした。

東京でトップセールスだった自分が、なぜ地方の赤字拠点へ行かなければならないのか。最初はそう思いました。結婚したばかりで、子どももまだ小さい。簡単な決断ではありませんでした。ただ、家族の後押しもあり、私は九州へ向かいました。

現地に入って最初に見たのは、うまくいっていない組織の典型のような姿でした。メンバーの口から出てくるのは、不満や愚痴ばかりです。東京から来た責任者は、東京のやり方を押しつけてくる。しかし、地方には地方の事情がある。そうした不信感が、組織の中にたまっていました。

そこで私が最初にやったのは、メンバーと飲み歩き、本音を聞くことでした。格好よく聞こえないかもしれませんが、本音を聞かなければ、再建は始まりません。なぜ売れないのか。何に困っているのか。何に納得していないのか。数字を見る前に、まず人の声を聞く必要がありました。

再生というと、すぐに戦略や数字の話を思い浮かべるかもしれません。もちろん、それらは欠かせません。しかし、現場で働く人たちが何を感じているのかを知らなければ、どんな打ち手も空回りします。組織が動かない理由は、能力の問題だけではありません。納得できていない。信頼できていない。自分たちの事情を理解してもらえていない。そうした感情が、変化を止めていることも多いのです。

九州で責任者になると、東京にいたときとは違い、フォーバルの看板だけでは通用しないことを痛感しました。地域の中で事業を成立させるには、地元の中小企業の皆さんに助けてもらわなければならない。そこで私は、自分自身も一つの中小企業の経営者に近い立場にいるのだと実感しました。中小企業を支援するという言葉の意味を、頭ではなく体で理解した時期でもありました。

現場の知恵を、再現できる力へ

その後、フォーバルはモノを提供するだけでなく、コトを提供する会社へと変わっていきました。道具を渡すだけでは、中小企業の経営は変わらない。情報通信の機器やサービスを導入しても、それをどう経営に生かすかまで考えなければ、成果にはつながりにくいのです。

2011年頃、創業者の大久保から、コンサルティング事業を立ち上げるように言われました。理由は明確でした。フォーバルは中小企業に育てられてきた。その恩を、今度は支援という形で返していく必要がある。首都圏でも地方でも中小企業と向き合い、組織を立て直し、事業を動かしてきた経験を、今度はコンサルティングとして体系化していく、ということでした。

とはいえ、私は営業やマネジメントの経験はありましたが、最初からコンサルタントだったわけではありません。自分が現場でやってきたことを言語化し、再現できる形にして、全国に広げていく。その過程そのものが、私にとって新たなゼロイチでした。

現場で得た知恵も、そのままでは一人の経験で終わってしまいます。しかし、それを言語化し、仕組みにし、ほかの企業でも生かせる形にできれば、多くの中小企業の力になります。私が取り組んできたのは、そのための言語化でした。営業の現場で経営者から学んだこと、九州の再建でメンバーから聞いた本音、地域の中小企業に支えられた経験。それらを一つひとつ整理し、支援の型へと変えていきました。

そして2022年、フォーバル GDXリサーチ研究所の初代所長に就任しました。GDXとは、グリーントランスフォーメーションとデジタルトランスフォーメーションを掛け合わせた考え方です。中小企業が変化の時代を生き抜くためには、国や自治体、金融機関、大企業、地域の支援者との橋渡しが必要です。そうした中立的な立場を担う組織として、研究所が設立されました。

振り返れば、私のキャリアは、営業、拠点再建、コンサル事業の立ち上げ、研究所の運営と、常にゼロイチと再生の連続でした。そして、そのすべての土台にあるのは、「中小企業には、まだまだ可能性がある」という実感です。

次回は、なぜいま中小企業に「ゼロイチ力」が必要なのかを考えていきます。ゼロイチとは、必ずしも新規事業を立ち上げることだけではありません。では、中小企業が変化の時代に一歩を踏み出すためには、どのような視点が必要なのでしょうか。次回もぜひお楽しみに。

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