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2026.07.06

「マチの幸せ」を問い続ける。ローソンが育てる「人」中心のブランド変革【連載】Branding Shift ~変わる時代に、ブランドの本質を問う

変化の時代に、ブランドは企業の意思をどのように人の行動へと結びつけていくのか。本連載では、ブランディングを表現や販促にとどめず、経営思想や社会との関係性を映し出す営みとして捉え直す。今回は、2025年に創業50周年を迎えたローソンを取材した。コロナ禍を契機に、同社は「ローソン単体」ではなく「ローソングループ」としてブランドを見つめ直し、「マチのほっとステーション」の理念を一人ひとりの行動にまで浸透させてきた。グループブランディングプロジェクトに携わってきた倉持 章さんの言葉から、ローソンのブランドを支える「人」の力を探る。(文=JapanStep編集部)

お話を伺ったのは …

株株式会社ローソン マーケティング戦略本部 本部長補佐
倉持 章さん

外食チェーンで店舗運営を経験した後、情報システム、経営企画部門でシステム開発、マーケティング、ブランド調査に携わる。その後、外資系コンサルティング会社で流通、通信、金融など幅広い業界の戦略・業務改革プロジェクトを担当。2006年からローソンの業務改革に参画し、ポイントカードデータを活用した発注精度の向上や業務改善に取り組む。2020年秋からグループブランディングプロジェクトを担当し、現在はコミュニケーション本部 部長も兼務し、ブランド推進を担っている。

「マチのほっとステーション」に息づく、ローソンの原点

2025年に創業50周年を迎えたローソンは、2026年5月末時点で国内14,629店、海外7,782店を展開する。コンビニエンスストアを起点に、日々の暮らしを支える生活に欠かせない社会インフラとしての役割も担ってきた。ローソンストア100、成城石井、ローソン銀行、ローソンエンタテインメントなど、グループの事業領域も広がっている。買い物にとどまらず、金融やエンタテインメントへと接点が広がる中で、ローソンのブランドは、もはや店舗の看板だけでは語りきれない。

ローソンが長年にわたって掲げ続けているのが、「マチのほっとステーション」というコーポレートスローガンだ。この言葉には、ローソンが地域にとってどのような存在でありたいのかが込められている。

「私がローソンに入社する以前から大切にされてきた言葉であり、今なお、当社の本質を表すものです。近年の『パーパス』の観点から見ても、これは当社のグループ理念そのものを体現する言葉として位置づけ直しました。ここは決して変わることのない、当社の根幹です」(倉持さん)

その根底にあるのが、「マチの幸せのためにできることって何だろう」という問いだ。その問いは、日々の便利さだけでなく、有事の行動にも表れている。阪神・淡路大震災や東日本大震災の際にも、店舗を開け、地域の人々に明かりと物資を届けようとしてきた。

「平時はもちろんのこと、災害などの有事にこそ『真っ先に応援へ駆けつける』という姿勢を大切にしてきました。かつて東日本大震災の時、『被災地へ向けてガソリンを運びたい』と自発的に手を挙げてくださる方がいたように、加盟店や社員の間にこの思いへの強い共感があったからこそ、現在のローソンがあるのだと感じています」(倉持さん)

ローソンのブランドを支えてきたのは、仕組みや機能だけではない。加盟店のオーナーやクルーのみなさん、そして社員。それぞれの現場で動く「人」である。地域に寄り添い、マチのために動く。その日々の積み重ねが、ローソンというブランドを形づくってきた。

危機の中で、ローソンはなぜブランドに向き合ったのか

2020年以降のコロナ禍は、自社の役割を問い直す契機となった。外出制限により人々の生活様式が変わる中、それでも「お店を開けよう」という思いは揺らがなかった。

「お客様と直接対面するビジネスである私たちは、社会インフラとして『お店を開け続けること』を使命と捉えていました。ローソン、そしてローソングループの強みは、過去の震災対応で培われた経験と一体感にあります。お客様が少しでも安心できる環境をしっかりと作ろうという意識が、組織全体に自然と共有されていました」(倉持さん)

ただ、店を開け続けるだけでこの危機を乗り越えられるわけではない。社員も加盟店も、同じ方向を向ける土台をつくらなければならなかった。同社 代表取締役社長 竹増貞信さんのもと、「大変革実行委員会」が立ち上がり、未来を見据えた数々のプロジェクトが始動する。その流れの中で始まったのが、「グループブランディングプロジェクト」だった。

なぜこのタイミングで「ブランディング」だったのか。背景には、コロナ禍以前からコンビニ業界に向けられていた社会的なまなざしの変化がある。コンビニで働くことへの見方が揺らぎ、店舗運営の持続可能性も問われるようになっていたのだ。

「『コンビニで働くことが本当に誇らしい、もっと仲間とともに頑張ろう』と思える世界にするためには、働く人々が前向きに関われる環境や意識をつくり直す必要がありました。そのための切り口こそがブランディングである、と私たちは捉えたのです」(倉持さん)

売上や店舗運営への対応が急がれる局面で、ローソンはあえて「ブランド」にも向き合った。人がブランドをつくる会社である以上、働く人たちが自らの仕事に誇りを抱ける環境が欠かせない。

グループの違いを越えて、「チャレンジ」という核を探す

プロジェクトの出発点は、ローソングループが社会や生活者に何を約束してきたのかを、改めて見つめ直すことだった。ただ、グループ全体でブランドを考えることは簡単ではない。グループ各社にはそれぞれ固有のミッションや行動指針があり、事業内容も異なる。必要だったのは各社の違いをならすことではなく、それぞれの個性を残したままグループとして重なる部分を見つけることだった。

「グループ全体で思いを一つにしようとした際、当然ながら各社で個別のミッションや行動指針は異なっていました。それは多様性として尊重すべきであり、無理に統一する必要はありません。ただ、グループとして俯瞰したときに『共通して重なる核(コア)』を見つけ出すこと。それこそが、グループブランディングプロジェクトに課された最初の役割でした」(倉持さん)

その答えを探るため、プロジェクトチームは社内外の声を幅広く集めた。グループ各社のトップ層へのインタビューに加え、消費者調査はあえて1万人規模で行った。さらに、コロナ禍のさなかにも、ローソン社員に向けたアンケートを実施したところ、わずか1日で1,000件を超える回答が寄せられたという。

「多くの声を読み解く過程で、浮かび上がってきたキーワードが『チャレンジ』でした。みんなと暮らすマチを幸せにしたいというDNAを表現した言葉として、『みんなの役に立ちたいチャレンジャー』が決まりました」(倉持さん)

「マチのほっとステーション」という理念を守りながら、時代に応じて変わり続けるための答えとして生まれたのが、「みんなの役に立ちたいチャレンジャー」という言葉だ。この言葉は、社員一人ひとりが自分の仕事を見つめ直すための拠り所となっていった。

理念は、体験を通じて「自分ごと」になる

「みんなの役に立ちたいチャレンジャー」というコンセプトが言語化されても、それをただ社内に伝えるだけでは、ブランドは浸透しない。多くの社員やグループ会社を抱える組織で、理念をどう「自分ごと」にしていくのか。ここに、インナーブランディングの難しさがある。

「言葉だけでなく、実際に体験・体感しなければ『共感』は生まれません。共感があるからこそ理念を『自分ごと化』でき、その結果として自社やグループへの愛着が湧く。そこからエンゲージメントが高まっていくというステップです。だからこそ、まず共感できるかどうかが出発点になります」(倉持さん)

そこで同社が重視したのが、理念を頭で理解するだけでなく、体で感じる機会をつくることだった。その象徴的な例が、横浜マラソンにおける給水ボランティアである。休日にもかかわらず、毎回100人規模の社員が参加し、ランナーに水を手渡す。

「ランナーが走ってくる中で、社員が『どうぞ!』と水を手渡すと、ランナーの方から『ありがとう!』『ローソンのからあげクン、いつも食べているよ!』といった言葉が返ってきます。応援しているはずの私たちが、逆にランナーの皆さんからエネルギーをもらう。そうしたやり取りを体験することで、社員は、自分たちの仕事が誰かの力になっていると実感し、理念を自分ごととして受け止めるきっかけをつかむのです」(倉持さん)

さらに、社内の部署間やグループ会社間にある「縦割り」を越え、互いを知るための機会も数多く設けられた。オンラインでの座談会に始まり、好きなプロ野球チームを応援する交流会、グループ会社の映画館を活用したグループイベントChallengers’ Forum ~COLORS~」では、各社で挑戦を重ねてきた社員が登壇し、何に悩み、どう乗り越え、どのような成果につながったのかを語り合う。社内表彰とは少し異なる、グループの挑戦を共有し、互いを知るための場として、取り組みは形を変えながら広がっている。

一方的に伝えるのではなく、体験を通じて共感を生む。「学ぶ、信じる、演じる」というプロセスを通じて、ブランドの考え方は、こうした経験を通じて、一人ひとりの行動へと根づいていく。

「ハピろー!」が、理念を事業の言葉に変える

社内で育てた共感は、生活者への提供価値や事業活動につながってこそ、ブランドの力になる。ローソンの取り組みで印象的なのは、ブランディングをマーケティングの一部に閉じ込めず、経営や事業と一体で捉えている点だ。

「ブランドと事業戦略、そして事業経営は一体であるべきだと考えています。世間一般では『商品(プロダクト)のブランド』をイメージしがちですが、私たちが取り組んでいるのは『コーポレート(企業)ブランディング』です。まずはその認知の切り替えを徹底しました」(倉持さん)

その考え方を生活者との接点で形にした取り組みの一つが、2022年春に始動した「ハッピー・ローソン・プロジェクト」、通称「ハピろー!」である。これは、「みんなの役に立ちたいチャレンジャー」という内側の思いを、生活者に届く言葉や企画へと変えていく取り組みでもある。

「ハピろー!」を起点に、生活者の想像を少し超える企画も生まれた。『盛りすぎチャレンジ』は、その象徴的な取り組みの一つだ。さらに、出店戦略においても、人口減少によりスーパーが撤退した和歌山県龍神村への出店など、『地域共生コンビニ』としての挑戦も生まれている。そこには、短期的な採算だけでは測りきれない、「マチの幸せのためにできること」を考える姿勢がある。

「『ハピろー!』をきっかけに、社内で「チャレンジ」という言葉を耳にする機会が増えるようになりました。「みんなの役に立ちたいチャレンジャー」という言葉を継続して発信することで、少しずつ社内外に定着していく。その軸を保ちながら、毎年取り組みを更新しています」(倉持さん)

ブランドを事業活動そのものとして捉える姿勢は、こうした一つひとつの判断に表れている。

AI時代でも、ブランドをつくるのは人の問い

2020年からの取り組みは、社内外に変化を生み始めている。社内アンケートの回答率は大きく向上し、社員の間にも、自らの行動を「チャレンジ」として捉え直す空気が広がりつつある。そして、「Japan Branding Awards 2025(JBA2025)」における「SILVER」受賞は、これまでの歩みを外部の視点から確かめる節目となった。

「受賞できたことは本当に嬉しかったです。何より、ローソン単体ではなく、ローソングループとして評価いただけたことに大きな意味があると感じています。一方で、さらに上の評価があることも理解しています。そこは、これからの伸びしろだと捉えています」(倉持さん)

次の5年を見据えると、事業環境はさらに変わっていく。AI技術の進展は、企業活動の前提にも影響を及ぼし始めている。では、AI時代において、ブランド担当者は何を考えるべきなのか。

「AI時代という新たな環境下において、ブランドのあり方と、それが提供する価値を再定義することが必要だと考えています。AIは『答えを出すこと』は非常に得意です。しかし、本当に重要なのは答えを導き出す前段階、すなわち『解決すべき課題は何か』という『問いを立てる力』です。そして、その問いを生み出せるのは、どこまでいっても人間の思考の中にしかありません」(倉持さん)

ブランドが人の行動から生まれるものだとすれば、AI時代においても、その価値は簡単には失われない。むしろ、何を問い、何を選び、どう動くのか。そうした判断の積み重ねが、ブランドの輪郭を決めていく。「マチの幸せのためにできること」を問い続ける人がいる。その積み重ねが、ローソンというブランドを、これからも生活者との関係の中で更新していくのだろう。

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