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2026.07.08

名を変え、組織が動き出す。カナデビアのブランド変革【連載】Branding Shift ~変わる時代に、ブランドの本質を問う

変化の時代に、ブランドは企業の存在意義をどう問い直し、人の行動へと結びついていくのか。本連載では、ブランド変革に取り組む企業へのインタビューを通じて、経営思想や事業の意思、社会との関係性を映し出すブランディングの現在地を探る。今回は、2024年10月に「日立造船」から社名を変更したカナデビアを取材した。造船事業の分離後、社名と事業実態のギャップに向き合ってきた同社は、「技術の力で、人類と自然の調和に挑む」というコンセプトのもと、ブランドを“人づくり”へとつなげている。4人の言葉から、その変革の内側を紐解く。(文=JapanStep編集部)

お話を伺ったのは …

(写真左から)
カナデビア株式会社
ピープル&カルチャー本部 総務部 ブランドマネジメントグループ 西浦 弘史郎さん
同社 総務部 ブランドマネジメントグループ長 杉本 晋作さん
同社 総務部 ブランドマネジメントグループ 松下 茉由さん
同社 総務部 ブランドマネジメントグループ 川村 真央さん

「日立でも、造船でもない」——事業実態とのギャップに向き合う

カナデビアの起源は、1881年、北アイルランドから来日したE.H.ハンターが設立した大阪鉄工所にさかのぼる。140年以上の歴史の中で、同社は重工業の一角を担う企業へと歩みを進めてきた。1943年には日立製作所の傘下に入り、「日立造船」へと社名を変更。その後、資本関係がなくなってからも、「日立造船」という名は残り続けた。

しかし、2002年に祖業である造船事業を分離して以降、主力事業は、ごみ焼却発電施設などの「環境事業」、水門や各種産業用機械設備を手がける「機械・インフラ事業」、風力発電や水素発生装置などの「脱炭素化事業」へと移っていった。事業内容と「日立造船」という社名の間には、少しずつ距離が生まれていた。

プロジェクトに携わってきた杉本さんは、当時の状況をこう振り返る。

「日立製作所のグループでもないし、造船もやっていない。社内外から少し変わった形で見られている状態が20年ほど続いていました。『日立造船って何の会社か』と聞かれたときに、明確に語りきれないもどかしさもありました。笑いを取るために『日立でも造船でもないんですわ!』と言って済ませてしまうというのもあながち冗談ではありませんでした。会社としてのアイデンティティをきちんと持つ必要があるという課題認識がありましたね」(杉本さん)

このギャップは、社員にとっても小さな違和感ではなかった。新卒で同社に入社した川村さんは、就職活動時から感じていた率直な思いを明かす。

「友人に話すときにも、名前とやっていることが違うのは話のネタにはなるけれど、実際の事業を理解してもらえないというのは少し寂しいなと。私たちの日常に関わる重要な事業を手がけているのに、それが知られていないのはもったいないと感じていました」(川村さん)

環境、脱炭素化、資源循環など、社会課題に関わる事業へ領域が広がるほど、重厚長大なイメージを持つ旧社名との距離は大きくなっていた。ブランドを見直す出発点には、「自分たちは何者なのか」を言葉にしきれない課題があった。

社名変更は、変革の目的ではなかった

こうした背景から、同社は2021年にブランディングプロジェクトを本格的に始動させた。しかし、このプロジェクトは最初から「社名変更ありき」で始まったものではなかったという。

「私たちのブランディングの目的は、企業理念体系である『Kanadevia Value(旧Hitz Value)』を、従業員一人ひとりがそれぞれの現場で体現できるようにすることです。つまり、ブランドを通じた『人づくり』です。その過程で商号やブランドを変える必要性が出てくるかもしれないが、社名変更ありきでスタートしたわけではありませんでした」(杉本さん)

プロジェクトの第一歩として行われたのは、現状分析だった。第三者の力も借りて社内外からヒアリングを行った結果、当時のブランドに対する課題が見えてきた。浮かび上がった課題は大きく3つに集約される。

一つ目は、どのように社会課題に対峙していくのかという考え方やメッセージの弱さだ。環境分野の事業を行っていることからSDGsへの貢献を謳ってはいたものの、自社の内側まで掘り下げたうえで、「社会に対してどう役立っていきたいのか」を示す明確なメッセージが不足していた。

二つ目は、挑戦イメージの希薄化である。創業者であるエドワード・ハズレット・ハンターは、北アイルランドから日本に渡り、苦労と挑戦を重ねながら造船所を立ち上げた。そのDNAを受け継いで、Kanadevia Valueでも行動規範に「果敢に挑戦する」を謳っているはずが、外部からは「真面目で誠実だが、どちらかというと保守的」と見られており、挑戦する企業としての姿勢が、社外には十分に伝わりきっていないことが見えてきた。

そして三つ目が、グループとしての輪郭の曖昧さだ。造船不況時に遠心力を働かせて分社化を進めた歴史から、グループ各社の社名やブランドには、「日立造船」「ニチゾウ・日造」「Hitz」などが混在していた。その結果、連結売上高6,000億円規模、従業員数約1万2千人を超える企業グループとしての広がりが、社外には十分に伝わりきっていなかった。

こうした課題が見えたことで、社名変更は単なる看板の掛け替えではなく、会社を挑戦する文化へと向かわせ、グループの力を結集するための「手段」として捉えられていった。ブランドを見直すことは、自社の存在価値をもう一度言葉にする作業でもあった。

「Hitz」を越えて、未来への意思を込める

課題が明確になった後、プロジェクトチームはブランドコンセプトを「技術の力で、人類と自然の調和に挑む」と定めた。経営層や若手社員とのワークショップを重ね、過去から受け継ぐべきものと、未来に向けて変えるべきものを議論した末に生まれた言葉だった。

次に向き合ったのが、新たな社名をどう定めるかという課題だった。当初、経営陣の中では、2002年の造船事業分離以降、長年愛称として親しまれてきた既存ブランド「Hitz(ヒッツ)」を社名にする案が有力視されていたという。

「役員の中にも『社名変更するならHitz株式会社でいいのではないか』という声が多かったのは事実です。しかし、Hitzという社名に私たちが新たに定めた『技術の力で、人類と自然の調和に挑む』というブランドコンセプトや思いを込められるのかとなったとき、Hitzではどうしてもその思いを受け止めきれないという結論に至りました。Hitzは、当時の『Hitachi Zosen』に由来する言葉だったからです。そこで、ゼロベースで考えなければならないと決断したのです」(杉本さん)

事業が多角化し、グローバルに展開している同社にとって、ゼロから社名を検討する作業は、簡単ではなかった。社内外への情報漏洩を防ぐため、限られたメンバーで進められたこの作業では、国内外での商標権やドメインの確保が、大きな課題となった。

「国や地域、商品役務区分ごとに商標を押さえていかなければならず、十数の区分すべてで使用できる名前を見つけるのは至難の業でした。役員に順番をつけてもらった案を知的財産部の協力のもと、特許事務所と調査しては『難しいです。また考えてください』と戻ってくる。その繰り返しで、ほぼ1年を費やしました」(杉本さん)

商標の壁に阻まれ、検討が思うように進まない時期もあった。しかし、「この問題を先送りせず、私たちの代で決着をつけよう」という役員の強い意志が背中を押し、検討は止まらなかった。約1年にわたる試行錯誤を経て生まれたのが、日本語の「奏でる」とラテン語で道を意味する「Via」を組み合わせた「カナデビア」だった。従来の社名が持つ制約を越え、オーケストラがハーモニーを奏でるように、人類と自然の調和を目指す。そんな未来への意思を込めた、新しい名前だった。

戸惑いから始まった、新ブランドの育て方

2023年9月27日、新商号「カナデビア」への変更が東証の適時開示を通じて発表された。同時に社内にも一斉にアナウンスされたが、その反響は、ポジティブなものばかりではなかった。社内には戸惑いの声もあった。

「今まで日立造船という重厚長大で歴史ある名前に誇りを感じて長く勤めてきた方々にとって、突然カタカナの社名になったことへの違和感は強かったと思います。OBの方からは本部長のところに『伝統ある社名を何だと思っとるんや!』と直接お叱りの電話もありました」(杉本さん)

その戸惑いは、歴史を背負うベテラン層だけでなく、若手社員も例外ではなかった。当時はブランド部門ではなく、人材開発部門にいた川村さんは、当時の率直な思いを明かす。 

「シンボルマークもまだできていない状態で、『カナデビアになります』という情報だけが突然降りてきたんです。伝統的な名前から、まったく違う雰囲気の社名になった印象を受けてしまい、正直最初は今まで紡いできた歴史や伝統が失われてしまうのではないかという不安や寂しさもありました」(川村さん)

しかし、その戸惑いに向き合うため、経営陣とプロジェクトチームは地道な対話を続けた。当時の社長も、3カ月をかけて全国の事業所を回り、社員と直接対話を重ねて社名変更に込めた思いを伝えていったのだ。

さらに、社内浸透を加速させるべく、インナーブランディングにおいても体験型のイベントを積極的に仕掛けた。変革のタイミングで中途入社した西浦さんは、「何が起きているんだ」と外から驚きを持って見ていた一人だ。

「商号変更が決議された2024年の6月の定時株主総会の直後に社名変更100日前のプレローンチイベントを、商号変更日当日の10月1日にローンチイベント実施しました。本社館内に大きな会場に舞台を設け、演出にも力を入れて、それまでの日立造船ではあまりなかった規模でイベントを開催したのです。それを見た時に、これからの会社が向かう熱い思いや意気込みが伝わり、社内の受け止め方が少しずつ変わっていくきっかけになりました。社員にブランドを『体験』してもらうことがいかに大切かを知りました」(西浦さん)

ブランドを“品質”として守る

新しい社名を発表し、ロゴやステートメントを定めれば終わり、というわけではない。重要なのは、日々の運用の中でブランドを守り、その価値を積み上げていくことだった。2024年年初に入社した松下さんは、ブランドガイドラインやWebサイト、制作物の管理に携わり、その運用に向き合ってきた。

「私の入社と同時期にブランドガイドラインの完全版ができたのですが、その後、グループ各社からシンボルマークの使い方や社名の併記方法などに関する問い合わせが相次ぎ、半年で約500件にのぼりました。部署まで直接相談に来られる方もいらっしゃいました。ガイドラインを私自身が深く理解しておかないとお伝えできないため、必死に読み込んだことが懐かしいです」(松下さん)

グリーンとブルーのグラデーション“ハーモニアスグリーン”で「人類と自然の調和」を美しく表現した新しいシンボルマーク。しかし、現場の社員にとっては、それを日々の制作物や名刺、看板などにどう適用すればよいのか、手探りの状態だった。

「現場からはさまざまな相談が寄せられますが、ブランドを守るためには、しっかりとしたルールや軸があることが不可欠だと体感しました。みんなで『カナデビアブランドを高めていきましょうよ』と根気よくコミュニケーションをとる日々でした」(松下さん)

グループ各社や全国の事業所から寄せられる問い合わせに対応する日々は、新しいブランドが現場に根づこうとしている過程でもあった。杉本さんは、製造業におけるブランド管理の重要性を次のように指摘する。

「私たちはものづくりの会社として、日ごろから品質を第一に考えています。ブランドも一つの『品質』なのです。新たなブランドを築いた後に、今度はその品質を維持していかなければならないフェーズが来ています。いかにガイドラインを遵守していただき、クオリティを保つかが重要です」(杉本さん)

ブランドを守るとは、ロゴを正しく使うことにとどまらない。社内外に一貫した印象を積み重ねることでもある。大きく変えるからこそ、守るための基準が要る。

ブランドは、社員が自信を持つ軸になる

社内への浸透と並行して、社外への発信も進められている。社外への発信を担当する川村さんは、認知、理解、浸透、共感という4つのフェーズを意識しながら、コミュニケーションを設計している。

「まずは社名が変わったことを知ってもらうこと。次にどんな事業をやっているのかを理解してもらうこと。特に若い世代には、事業内容が専門的であっても、シンプルに『なんとなく理解できる』『なんとなく好きかも』と思ってもらえるような表現を意識しています。テレビCMやYouTube、野球場などでの広告を通じて発信を続けています」(川村さん)


こうした発信は、採用面にも変化をもたらしている。2026年卒の新卒応募数は前年比で約1.4倍となり、直近5年で最多となったという。また、社内のブランド強度調査でも、社員の社名変更への理解や理念への共感が深まったことが確認された。一方で、顧客視点やイノベーション力といった今後の課題も見えてきているという。

当初は新社名に戸惑いを感じていた川村さんも、その後の異動でブランドマネジメントグループの一員となってブランディングに携わってきた今では「社員一人ひとりが『自分の会社が好き』と誇りを持って言えるようになることが大きな力になる」と語る。社外に向けた認知だけでなく、社員自身がブランドを受け止め、自分の言葉で語れるようになること。その変化も、今回のブランド変革が生んだ成果の一つだ。

こうした一連の取り組みは、インターブランドジャパンが主催する「Japan Branding Awards 2025(JBA2025)」において「SILVER」を受賞する形でも評価された。カナデビアにとって今回の受賞は、社名変更そのものではなく、企業の存在意義を明確にし、社内外に共感を広げてきたプロセスが評価された点に意味がある。

引用元:カナデビアホームページ

「素直に嬉しかったです。ブランディングは、多くの企業が悩みながら取り組んでいるものだと思います。その中で、表面的な見え方だけでなく、これまで取り組んできたプロセスや中身まで専門家の方々に見ていただき、評価していただけたことは大きな励みになりました」(杉本さん)

では、ブランドは社員の日々の仕事に、どのような意味をもたらすのか。西浦さんは、ブランドを「判断の軸」として捉えている。

「ブランドは、社員が日々の判断に自信を持つための軸になるものだと思っています。さまざまな部署が何を担っているのか見えにくい中でも、みんなが同じブランドの軸を持つことで動きが一つになる。自分が担っている仕事の意味を理解できることが、ブランドの力です」(西浦さん)

そうした変化は、社員一人ひとりの経験の中でブランドが育っていくことでもある。杉本さんは、ブランドの価値についてこう語る。

「ブランドは無形の価値ですが、その価値がどこに宿るかといえば、やはり従業員一人ひとりの経験の中にあります。日々の仕事の中でカナデビアというブランドが根づき、それを体現できるようになっていくことが重要だと考えています。私自身、ブランディングに携わる前は、事業本部で営業職を中心に従事してきました。これまで現場で積み重ねてきた事業の経験も、すべてがブランディングにつながっているのです」(杉本さん)

社名変更は、ゴールではない。自らの存在意義を見つめ直し、社員一人ひとりがその意味を自分の言葉で語っていくための出発点だった。カナデビアの歩みは、ブランドが単なる記号ではなく、組織の意思を束ね、社員の誇りを支える力になり得ることを物語っている。

2024年10月1日、社名変更当日に社員に配られた記念品には「『Kanadevia』の新たな船出の日」と記されている

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