皆さん、こんにちは。タツナミシュウイチです。本連載も、今回で最終回です。ここまで、私自身の原点から、マインクラフトが学びになる理由、海外の教材、日本での実践までお話ししてきました。私が一貫して考えてきたのは、子どもの「知りたい」「やってみたい」を、どう学びにつなげるかということです。
今回は、その学びを支える大人についてお話しします。私自身、二人の子どもを持つ親であり、子どもが生まれたことは、教育について深く考えるようになった大きなきっかけでした。
新しい学び方を取り入れるかどうかを、保護者や教育に関わる私たちが考える場面も少なくありません。私はそのとき、目の前のことだけでなく、10年後、20年後に子どもたちがどう生きているのかまで考えるようにしています。今回は、保護者として、教育に携わる一人として、子どもたちに、どんな学びや経験を手渡せるのかを考えます。(解説=タツナミシュウイチ/聞き手・文=JMP総合プロデューサー 長谷川浩和)
【連載一覧】タツナミシュウイチが読み解く マインクラフト教育の新潮流
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教えてくれたのは…

Japan Crafters Union 代表/東京大学大学院 客員研究員/常葉大学 客員教授/JAXA応援団アンバサダー
タツナミシュウイチさん
2018年1月、統合版マインクラフトのマーケットプレイスでアジア初、日本初となるコンテンツ作品をリリース。その後、ゲーム教育を軸に制作や研究開発に取り組む。2021年9月、日本人で7人目となるMicrosoft Innovative Educator FELLOWの称号を授与された。『情熱大陸』(毎日放送)、『マツコの知らない世界』(TBS)、『有吉ぃぃeeeee!』(テレビ東京)など数々の地上波番組に、ゲームや教育に関する有識者として出演。教育関連書籍や子ども向け書籍の執筆・監修も多数手がける。現在も、デジタル空間をプラットフォームとした教育の研究・実践、教材開発などに取り組んでいる。
保護者の方にマインクラフト教育についてお話しするとき、最初にお伝えするのは、子どもによって興味を持つものも、学びに入りやすい方法も違うということです。
教育に活用できる教材であっても、すべての子に同じ方法が合うとは限りません。ものをつくることが好きだったり、自分で調べたり試したりすることに夢中になれる子なら、一度触れてみることで、その子が何に興味を持ち、どんなことを得意としているのかが見えてくることもあります。
ですから、私は「全員にマインクラフトをやらせましょう」とは言いません。本人が興味を持ったら、一度試してみる。その様子を見ながら、その子に合う学び方を一緒に探していけばいいと思っています。
私自身、子どもの頃は科学が好きで、百科事典を読み、親に頼んで実験道具を買ってもらい、自分で実験していました。誰かに言われたからではなく、自分が知りたかったからです。いま教材をつくるときにも、子どもが自分から知りたくなる入口をどうつくるかを考えます。
子どもが何に強く惹かれるのかは、実際にその子の様子を見てみないと分からないものです。最初から選択肢を狭めず、その子が何に夢中になるのかを見ていたい。そして、やってみたいと思ったときに、実際に触れられる機会を増やしたいと思っています。
私自身、マイクラやゲームが大好きふたり子供の子育てでも、現実の世界で本物に触れる機会を重要視しています。本物の機械や本物のロボット、本物の岩石や本物の動物たち。それらを物心つく頃からすぐそばで楽しみながら見てきた私の子供達は現在、9歳にして人工衛星エンジニアを目指す長男と、7歳にして地質を研究する宇宙飛行士となり月面調査を目指す次男に成長しました。
YouTubeチャンネル「タツナミチャンネル」【おうち英語の成果】1歳から英語を続けた子がネイティブの先生と英語だけでマイクラ!~前編~【マインクラフト/Minecraft】(引用:YouTubeチャンネル「タツナミチャンネル」)
子どもがマインクラフトに夢中になっているとき、私が授業やワークショップで意識しているのは、完成した作品やゲームの上手さだけでなく、そこに至るまでの行動にも目を向けることです。
建築が得意な子が、ほかの子にやり方を教える。チームで相談して役割を決める。思い通りにいかなければ計画を変える。完成までたどり着かなかったとしても、設計図を描き、仲間と議論し、試行錯誤した時間があります。
私は、そうした「マインクラフトで遊ぶことの周りにある学び」を大事にしています。その途中で何を考え、どう人と関わっていたのかを見ると、その子が何を得意とし、どんな役割で力を発揮するのかが見えてくることがあります。
家庭でも、画面に向かっている時間だけで判断するのではなく、その中で何をつくり、何を調べ、誰と関わっているのかまで見てみる。そこから、その子の興味や得意なことに気づく場合があります。
もちろん、ゲームを使えば、それだけで学びになるというものでもありません。授業で使うのであれば、何を学ぶ時間なのかは最初に伝える。そのうえで、どう考え、どうつくるかは子どもたち自身に任せる。ただし、学びの目的からは離れすぎない。そのバランスを意識しています。
マインクラフトを教育に使うことに対して、「本当に学びになるのか」と疑問を持つ方がいることも分かっています。新しいものに対して慎重になるのは、とても自然なことです。だから私は、まず実際の教材や授業を見てもらうことから始めたいと思っています。そのとき私が意識するのは、いまの判断の先にいる10年後、20年後の子どもたちです。
導入については、それぞれの学校や家庭に考え方があります。ただ、その判断をするときには、子どもたちにどんな経験を残せるのかまで考えていただきたいとお伝えしています。
これは、マインクラフトに限った話ではありません。教育を取り巻く技術は、これからも変わり続けます。私たちがまだ十分に知らないものに出会う場面も増えていくでしょう。だからこそ、まずどんなものなのかを知り、自分たちに合うかどうかを考える。そのプロセスが大切だと思っています。

つくば市立学園の森義務教育学校の中学2年生を対象としたキャリア学習会の様子(引用:タツナミシュウイチ公式Webサイト)
同時に、教育として扱う以上、期待だけではなく、実践を検証していくことも必要です。だから私は、大学などと連携しながら、授業やワークショップの前後を比較し、子どもたちにどのような変化が見られたのかをデータで確認する取り組みも進めています。
子どもたちが楽しんでいる姿だけでなく、授業の前後でどのような変化が見られたのかまで確かめる。そして、その結果を次の教材や授業に生かすところまでを、一つの実践として考えています。
実際の取り組みを知り、必要であれば試してみる。そのうえで、それぞれの教育現場や家庭に合う使い方を考えてもらえればと思っています。
私がマインクラフトを教育に使う理由の一つは、子どもたちが「やってみたい」と思える力があるからです。学校で扱うテーマを理解しやすくし、あとから思い出せる経験にする。その入口として、子どもの「やってみたい」を学びにつなげられないかと考えています。
私は、学習内容をそのままゲームの中へ移すだけでは、十分ではないと思っています。子ども自身が何かをつくりたい、課題を解決したいと思ったときに、「そのためには、もう少し知る必要がある」と感じられるようにする。「つくりたい」と思ったから調べる。分からないから誰かに聞く。うまくいかないから試し直す。そうした行動の一つひとつが、結果として学びにつながっていきます。

2026年3月、中部電力パワーグリッド株式会社主催のゲームで
電気が届く仕組みを理解するためのワークショップに講師として出演した際の一枚(引用:タツナミシュウイチ公式Webサイト)
一方で、楽しいだけで学びになるわけでもありません。私は教材や授業をつくるとき、マインクラフトらしい自由さや面白さを残しながら、何を学んでほしいのかがぼやけないように意識しています。授業だからと自由さをなくしてしまえば、マインクラフトを使う意味が薄れてしまいます。
ただ、遊ぶことだけに集中すれば、学んでほしいテーマから離れてしまうこともあります。マインクラフトの自由さを残しながら、学びの軸をどう保つか。教材や授業をつくるときに、私が特に意識している点です。
「ゲーム教育」に少しでも興味を持ってくださったら、「実際にはどんな学びなのだろう」と、ぜひ授業や教材そのものを見てもらえたらうれしいです。ゲームをしているように見える時間の中で、子どもたちが何を考え、何を調べ、どんな工夫をしているのか。そこまで見ていただくと、ゲームの中でどんな学びが生まれているのかも伝わりやすいと思います。
マインクラフトを使うこと自体を目的にするのではなく、子どもたちにとって学びやすい環境をつくる。どんなテーマに、どんな使い方が合うのか。これからも実践を重ね、一つずつ確かめていきたいと思っています。
私は、先生になることを目指して今の仕事を始めたわけではありません。それでも、いまは子どもたちから「先生」と呼ばれることがあります。そう呼んでもらうようになってから、教材や授業をつくる責任を、以前より強く意識するようになりました。
私自身にも、学校の先生に限らず、「あの人から教わったことは覚えている」と思える人がいます。私も、子どもたちにとってそんな存在になりたいと思っています。
だからこそ、一つひとつの教材やプロジェクトに、きちんと向き合っています。子どもたちが大人になってから、「あの授業、面白かったよな」と思い出してもらえる仕事をつくり続けたい。
そして、その「面白かった」という記憶と一緒に、学んだことも残っていてほしいと思っています。面白かったから自分で調べ、もっと知りたくなる。誰かと一緒に考え、思うようにいかなければもう一度試してみる。そういう経験と結びついた学びは、何年か後にもふと思い出せるものだと思っています。
いま教材をつくる立場になっても、目指していることは変わりません。子どもが「もっと知りたい」と思える時間をつくる。それが、私がこれからも続けたい仕事です。

2025年8月、新潟県長岡市主催のワークショップ「教育版ゲームで長岡空襲の史実と復興の軌跡を学ぼう」での一枚
(引用:タツナミシュウイチ公式Webサイト)
これからは、子どもたちの学びについて一緒に考えられる方と、もっと多くの取り組みを生み出していきたいと思っています。自治体、学校、企業、家庭には、それぞれにできることがあります。地域のことを知る自治体がいて、教育の現場を知る先生がいる。企業には技術や人材があり、家庭では保護者が日々の子どもの変化を見ています。それぞれ見えているものが違うからこそ、一緒にできることがあると思っています。
子どもの学びを、学校や家庭だけで考える必要はないと思っています。それぞれにできることを重ねていけば、子どもたちに渡せる経験や選択肢は増やせます。
自治体の方、先生、企業の方、そして保護者の皆さん。そうしたさまざまな立場の方と、子どもたちの学びを考える仲間になれたらと思っています。できることはそれぞれ違います。でも、「子どもたちに幸せになってほしい」という思いは、立場が違っても同じだと思っています。その思いが同じなら、立場が違っても一緒にできることはあると思っています。
その中で、マインクラフトが役に立つ場面があれば、私は力になりたいと思っています。マインクラフトは入口の一つです。私が見ているのは、マインクラフトをきっかけに、子どもの興味がどこまで広がっていくかです。
子どもが何かに夢中になっていたら、まずはその様子を見て、何に惹かれているのかを聞いてみる。その会話から、子どもが自分で調べたり、試したりすることもあります。
教育の方法も、子どもたちを取り巻く技術も、これから変わり続けます。私自身、子どもたちや新しい技術から学ぶこともたくさんあります。だからこそ、保護者や先生、企業や自治体の皆さんと、それぞれの立場から、子どもたちにどんな学びを届けられるのかを考えていきたいと思っています。
子どもたちが自分に合った学びに出会える場を、これから皆さんと一つずつ増やしていきたいと思っています。
今回の取材は、学びが多く、何よりとても楽しい時間でした。クリエイター、研究者、教育者として幅広く活動するタツナミさんのお話を伺う中で、私自身、マインクラフトの教育活用に対する考え方が大きく変わりました。
「ゲーム」という言葉だけで捉えると見落としてしまうものがあります。子どもの興味を起点に、調べる、考える、つくる、試すという行動へつなげていく。マインクラフトには、学びへの入口を自然につくれる強さがあると感じました。
JMPでは、取材を通じて企業や自治体が抱える社会課題・事業課題に数多く触れています。今回の取材を通じて、そうした社会課題や企業課題を、次世代の学びへと変えていく一つの方法として、マインクラフトを生かせるのではないか。そんな仮説を持つようになりました。
JMPとしても、マインクラフトの教育活用をこれからも追っていきます。そして、取材して終わるのではなく、タツナミさんとともに、社会や企業が抱える課題を新しい学びへと変えていく。そんな共創にも挑戦したいと思っています。日本がステップする学びを、実際にかたちにしていきたいです。(文=JMP総合プロデューサー 長谷川浩和)
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