画面の中でどれほど流暢に生成AIが対話を重ねても、工場や倉庫、インフラの最前線で求められる「実世界の作業」の肩代わりにはならない。製造業をはじめとする日本の現場では、熟練者の身体知や複雑な図面・仕様書に眠る判断ロジックが競争力の源泉となってきた。この膨大な暗黙知をAIへと正しく接続し、現実の空間を認識して自律的に制御する「フィジカルAI」へと昇華させられるか否かは、日本の産業競争力の行方を左右する切実な命題である。
そこに企業の垣根を越えた、国家規模の取り組みが動き出した。2026年7月、ストックマーク株式会社はNoetra株式会社らが進める「国産マルチモーダル基盤モデル」開発への参画を発表。経済産業省や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)支援のもと、研究者の出向を通じて学習ノウハウを投入し、実世界を動かす知能基盤を築く挑戦が進められている。(文=JapanStep編集部)
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(引用元:PR TIMES)
本取り組みは、経済産業省およびNEDOが推進する「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」に、Noetraおよび国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)が採択されたことを受け、フィジカルAIの基盤となる国産マルチモーダル基盤モデルの実用化を目指すものだ。
今回の連携で際立つのは、単なる共同研究の枠組みを超え、ストックマークが自社の「VLM Researcher」(視覚言語モデル(VLM)の研究員)をNoetraへ出向させている点だ。開発現場へ直接知見を注ぎ込むことで、プロジェクトの推進スピードを最大化させる体制を整えている。
この出向を通じて開発現場へ投入されるのが、ストックマークがこれまで培ってきた「複雑な情報の読解・構造化技術」と「モデル学習のノウハウ」だ。同社は2024年5月に国内最大規模(当時)となる1,000億パラメータの日本語LLMをフルスクラッチで開発した実績を持つ。さらに2025年3月には世界水準の性能を誇るVLM「Stockmark-2」の開発、2026年7月には米NVIDIAの最新モデルに追加学習を施した独自VLMを公開するなど、複雑なドキュメント構造化において確固たる地歩を築いてきた。
こうした歩みを通じて培われた、図面や仕様書といった現場の「非構造化データ」をAIが扱える形へと変換する力こそが、実世界を正しく認識して制御するフィジカルAI基盤の構築において不可欠な土台となる。
ストックマークの「国産マルチモーダル基盤モデル」参画が示唆するのは、AI開発の主戦場が「画面内の対話処理」から「現実世界の制御」へと明確にシフトし始めたという事実である。
大規模言語モデルの開発では、膨大な計算資源を持つ米国の巨大IT企業が先行してきた。一方、ロボットや工作機械が稼働する製造現場や物流の最前線など、物理世界との精緻なすり合わせが求められる領域では、開発競争を支配する力学が異なる。
日本には長年にわたり現場で磨き上げられてきた高品質な設備データや作業手順、緻密なドキュメントが豊富に蓄積されている。これらの資産をAIに接続できれば、グローバルな開発競争の中でも独自の優位性を確立できる可能性がある。
また自前主義を脱し、他のスタートアップ企業へ研究員を送り込み、基盤モデルを共同開発するオープンな共創体制を採用した点も意義深い。個々の企業の利害を超えて日本の産業基盤を底上げする試みは、限られた国内の研究リソースを最適に活かすための有効なアプローチといえるだろう。
現場の暗黙知をAIへ接続し、人間が高付加価値な創造業務に専念できる環境を整えることは、日本社会の未来を支える鍵となる。産官の知見を束ねるこのアプローチは、日本のものづくりがAI時代において主導権を握るための確かな一歩となるはずだ。
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