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2026.08.28

ARGはなぜ今、再び注目されるのか?海外と日本で変わる“遊び方”と“売り方”【連載】ARGの基礎知識(第2回)

現実世界に物語への入口をつくり、参加者自身がその当事者となるARG(Alternate Reality Game/代替現実ゲーム)。本連載では、その仕組みと魅力を捉えながら、ビジネスへの応用を考える。第1回では、「ラビットホール」や“自分自身のまま参加する”という特徴から、物語が“自分ごと”になる理由を紹介した。第2回では、企業プロモーションとともに発展した海外のARGと、日本で「ARGそのものを買う」という楽しみ方が生まれた背景をたどる。(文=JMP総合プロデューサー長谷川浩和)

「ARGの基礎知識」連載一覧

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お話を聞いたのは…

環境ミステリーレーベル MARGINE
合同会社 未来アクセラレート 代表 吉野 渉さん

地域とARGの連携を掲げ、ARGの企画・制作に取り組む。『Project:;COLD』との出会いをきっかけにARGに魅了され、自らもARG制作に乗り出す。現在はARGレーベル「MARGINE」を通じて、地域とARGをつなぐ取り組みを進めている。JapanStepにてコラム「ARGが紡ぐ、新しいPRのカタチ」を連載中。

リー猫さんプロフィール

ARGウォッチャー・謎解き制作者
リー猫さん

MARGINE全作品の謎解きを手がける。自ら作るだけでなく、noteやXで国内ARG作品のレビューや定期的な動向分析を発信し続けている。「ARGコンテスト2026」(虚構界隈主催)特別審査員。

映画PRから作品世界を広げる仕掛けへ

ARGは、その初期から映画やゲームなどのプロモーションと深く結びついてきた。第1回で紹介した『The Beast』も、映画『A.I.』のプロモーションとして生まれた代表例である。その後、海外では作品世界を現実へ広げる手法として、さまざまなARGが展開されてきた。

海外のARGについて、吉野さんは言語の壁もあって実際に体験できている作品は限られるとしたうえで、次のように話す。

「事例を見る限り、企業や作品のPRに活用されてきたものが多い印象です。規模が大きくなれば相応の予算も必要になるため、継続して展開する難しさもある。以前に比べ、大型のARGは少なくなっているのではないかと感じています」(吉野さん)

リー猫さんが近年注目しているのが、既存のビデオゲームとARGを組み合わせる事例だ。

「最近の海外では、ビデオゲームの隠し要素や追加コンテンツとしてARGを使う事例をよく見ます。ベースとなるゲームがあり、その世界観を広げたり、隠されたコンテンツへたどり着いたりするためにARGを解いていく。プロモーションだけでなく、既存のゲームやIPをさらに楽しむための仕掛けとして使われています。

海外では、同じゲームが好きな人たちが集まり、一つのARGを協力して解いていく形が多い印象です。誰かが情報を見つけて共有し、別の人がその意味を読み解く。一人で完結するというより、コミュニティで協力しながら進める遊び方が多いと思います」(リー猫さん)

複数のメディアに情報が散らばるARGでは、規模が大きくなるほど、一人ですべてを追うことは難しくなる。参加者同士が情報を持ち寄り、協力して物語を進めるスタイルは、こうしたARGの構造とも相性がよい。

“ゲームではない”ARGをどう売るのか

日本でも2000年代後半から、『RYOMA the Secret Story』やトヨタのVitzを題材とした「盗まれたテディベアを取り戻せ!」など、企業やコンテンツとARGを組み合わせる試みが生まれた。しかし、個々の作品がつくられる一方で、ARGそのものを継続的に楽しむ市場が育ったとは言い難かった。

一般的なゲームであれば、内容や価格を示し、「遊ぶもの」として販売できる。ARGでは、作品であることをどこまで明かすかが、売り方そのものに関わってくる。第1回で紹介したラビットホールのように、日常の中に物語への入口を置くほど、体験を事前に説明することは難しくなる。

ARGでは、「This Is Not A Game(これはゲームではない)」という考え方も長く重視されてきた。作品であることを前面に出さず、現実の裏側で本当に何かが起きているかのように感じさせる。そのリアリティが没入感を支える一方、商品化とは相反する面もある。

入口を大きく宣伝すれば、日常の中で物語に出会う感覚は薄れる。内容を詳しく説明すれば、仕掛けを先に明かすことにもなる。反対に何も説明しなければ、参加者を集めることも、料金を支払ってもらうことも難しい。日本のARGにとって、集客と収益化は長く課題の一つだった。

2020年に始まった『Project:;COLD』は、それまでARGを知らなかった吉野さんとリー猫さんを、この世界へ引き込んだ作品でもある。そして近年、日本では「ARGそのものを買う」という選択肢も生まれている。

「ARGです」と明かして売る

リー猫さんが、日本のARGの流れを語るうえで挙げるのが第四境界である。「これはARGです」と明示し、体験そのものを商品として販売している。

「物を購入したところから物語が始まる作品は以前にもありましたが、それを『ARGです』と明確に伝えて販売するケースは多くなかったと思います。ARGには『This Is Not A Game』という文化がありましたが、第四境界は『これは私たちが作ったARGです』と明言して販売した。参加者もARGだと理解したうえで手に取り、それでも物語を楽しめる。この状況が生まれたことは大きな変化だと思います」(リー猫さん)

作品であることを知っていても、届いた物を手にし、Webサイトを調べ、人物や出来事を追ううちに物語へ入り込んでいく。ARGだと知っていることは、必ずしも没入を妨げない。

従来の企業プロモーション型では、ARGは映画やゲーム、商品そのものへの関心を高める手段として使われることが多かった。これに対し、パッケージ型ではARGの体験そのものが購入対象になる。

パッケージ型は、リアルタイムの進行に合わせる必要がなく、一人でも好きなタイミングで始められる。もちろん、日本にはリアルタイム型やイベント型も存在するが、「ARGだと分かったうえで購入し、自分のペースで楽しむ」という選択肢が加わったことで、ARGそのものを商品として届ける形も生まれた。

売っているのは“物語への入口”

第四境界の商品を見て、吉野さんが注目したのは、購入者の手元に届く“物”だった。

「第四境界は何を販売しているのかと考えたとき、『ラビットホール』を販売しているのではないかと思いました。物語への入口になるキーアイテムをつくり、それ自体を商品として届けている。手元に届いた物そのものが物語の世界とつながっている点が、特徴だと感じています」(吉野さん)

吉野さんが例に挙げるのが、第四境界の『人のワンルーム』である。

「『人のワンルーム』では、鍵を模したアイテムが実際に届きます。単なる小道具ではなく、その物自体に物語への入口としての意味を持たせている。現実に存在する物とフィクションをつなぐという意味で、ARGの商品設計として参考になると思います」(吉野さん)

パッケージ型ARGでは、謎解きキットやストーリーだけでなく、現実から物語へ踏み込む“入口”そのものが商品になる。

人のワンルーム

MARGINEの販売実績やXのアナリティクスを見ると、女性が多く、中でも20代が目立つという。ただ、若い層がARGに惹かれる理由について、吉野さんは「まだ明確な答えは持っていない」と話す。

「なぜ今、若い世代にARGが支持されているのか、私自身もまだ明確な答えは持っていません。ただ、MARGINEでは20代の方にも、決して安くはない作品を購入していただいています。対価を払ってでも体験したいと思ってもらえていることには、手応えを感じています」(吉野さん) 

MARGINEのポストアナリティクス画面

偶然ラビットホールを見つけるだけでなく、自ら選び、購入し、好きな時間に物語へ入る。日本のARGには、「ARGそのものに対価を払う」という選択肢が加わった。かつてとは、遊び方だけでなく、届け方や売り方も変わっている。

ただ、商品を手にしただけで、参加者が自ら調べ、読み、行動してくれるわけではない。第3回では、『人の財布』などの事例から、参加者が思わず行動したくなるARGの体験設計を取り上げる。

▼吉野さんによるARGコラムも連載中!
【連載】ARGが紡ぐ、新しいPRのカタチ

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参考文献

『ARGガイド2024 ~過去の名作から『Project:;COLD』まで~』(エレメンツ工房、2024年)