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2026.09.04

人はなぜ自ら調べ、動きたくなるのか?ARGに学ぶ“当事者”を生む体験設計【連載】ARGの基礎知識(第3回)

現実世界に物語への入口をつくり、参加者自身がその当事者となるARG(Alternate Reality Game/代替現実ゲーム)。本連載では、その仕組みと魅力を捉えながら、ビジネスへの応用を考える。第2回では、海外と日本で変わってきたARGの“遊び方”と“売り方”を紹介した。第3回では、参加者が自ら動く理由に焦点を当てる。なぜ人は、指示されなくても検索し、情報を読み、ときには現実の場所へ足を運ぶのか。『人の財布』などの事例から、その行動を引き出すARGの体験設計を紹介する。(文=JMP総合プロデューサー長谷川浩和)

「ARGの基礎知識」連載一覧

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お話を聞いたのは…

環境ミステリーレーベル MARGINE
合同会社 未来アクセラレート 代表 吉野 渉さん

地域とARGの連携を掲げ、ARGの企画・制作に取り組む。『Project:;COLD』との出会いをきっかけにARGに魅了され、自らもARG制作に乗り出す。現在はARGレーベル「MARGINE」を通じて、地域とARGをつなぐ取り組みを進めている。JapanStepにてコラム「ARGが紡ぐ、新しいPRのカタチ」を連載中。

リー猫さんプロフィール

ARGウォッチャー・謎解き制作者
リー猫さん

MARGINE全作品の謎解きを手がける。自ら作るだけでなく、noteやXで国内ARG作品のレビューや定期的な動向分析を発信し続けている。「ARGコンテスト2026」(虚構界隈主催)特別審査員。

「調べて」と言わずに、人を動かす

ARGでは、参加者が自ら次の行動を選びながら、物語を進めていく。その例としてリー猫さんが挙げたのが、第四境界の『人の財布』だ。購入者のもとに届くのは、誰かが実際に使っていたように見える財布だ。中に残されたものを手掛かりに、持ち主について調べていくところから体験が始まる。

「『人の財布』は、第四境界の作品で私が初めて体験したもので、今でも特に印象に残っています。財布の中にあるものを一つずつ調べていくほど、本当にその人物が存在し、そこで何かが起きていたのではないかと思えてくる。しかも、自分で動かなければ先へ進まないのに、“やらされている”感覚がありません。物語を追う中で、自然と次の行動を取りたくなる。その設計に強く惹かれました」(リー猫さん)

財布の中身を見れば持ち主が気になり、少し調べると新しい情報が見つかる。そこから別の疑問が生まれ、また検索する――。作品側から順番にタスクを渡されるのではなく、「この先を知りたい」という気持ちが次の行動を生んでいく。

検索する、Webサイトを読む、残された情報を照らし合わせる。どれも日常的な行為だが、ARGの中では意味が変わる。ゲームを進めるために検索するのではない。確かめたいことがあるから調べ、その結果として物語が先へ進んでいく。

「ここを調べてください」と指示を重ねれば、体験は次第にタスクに近づいてしまう。ARGでは、参加者の中に疑問や好奇心が生まれ、その答えを追った先に次の展開が待っている。設計するのは行動そのものではなく、行動したくなる理由だ。

『人の財布』を調べる-その体験の内側

謎の前に、“動く理由”をつくる

謎や手掛かりを増やせば、参加者が自ら動くわけではない。吉野さんが制作時に意識しているのは、「その謎が、なぜそこにあるのか」まで物語の中で成立させることだという。

「一般的な謎解きでは、よくできた問題をひらめきで解くこと自体が楽しさになると思います。一方、ARGでは、その謎が物語の中に存在する理由が必要です。なぜここで調べるのか、なぜこの情報に触れるのか。そのつながりが不自然だと、プレイヤーはそこで物語から意識が離れてしまう。私たちも、実際にありそうな鍵を使ったり、古地図と現在の地図を照らし合わせたりと、その世界で本当に起こり得る方法を選ぶようにしています」(吉野さん)

「なぜ自分がこれを解くのか」が腑に落ちなければ、どれほど巧妙な謎でも物語から浮いてしまう。謎自体は難しくなくても、「この人物について知りたい」「この場所を確かめたい」という理由があれば、調べる行為は自然に生まれる。登場人物について知るならSNSを探し、過去を確かめるなら記録を読み、場所を探すなら地図を開く。それぞれの行動が物語の中でつながっていれば、プレイヤーは自分の判断で先へ進んでいる感覚を持ちやすい。

使えるメディアや場所の選択肢が多いARGだからこそ、「何を使うか」以上に、「なぜそれを使うのか」の必然性が求められる。参加者に取ってほしい行動から逆算するのではなく、その人物なら何を残し、そこまで知った自分なら次に何を確かめたくなるのかを考える。そうした物語の流れがあれば、参加者は自分の判断で自然と次の行動へ進んでいく。

ARGにおける「謎解き」とは何か

時間も場所も、物語に変わる

ARGでは、参加者が「何をするか」だけでなく、「いつ、どこで体験するか」も物語の一部になる。

リー猫さんは現在のARGを、大きく「リアルタイム型」「パッケージ型」「常設型」「リアルイベント型」の四つに分けて捉えている。

「リアルタイム型は、現実と同じ時間軸で物語が進み、その時間の経過とともに出来事が起きる形式です。パッケージ型は、一つの物語体験として始まりと終わりがまとまっていて、プレイヤーが好きなタイミングで始められる。常設型はWeb上などに作品が公開され、いつでも参加できる形式です。リアルイベント型では、実際に会場へ足を運び、その場所で物語を体験します。形式によって、プレイヤーが物語と接する時間や場所が変わってきます」(リー猫さん)

ARGの4つの型-物語と接する「時間」と「場所」が変わる

例えば『Project:;COLD』のようなリアルタイム型では、「明日はどうなるのだろう」と続きを待つ時間まで体験の一部になる。対して、パッケージ型や常設型は自分の生活に合わせて物語を始められ、リアルイベント型では「その場所へ足を運ぶ」こと自体が体験へと組み込まれる。吉野さんは現在、この「場所」を生かした周遊型ARGにも取り組んでいる。

「私たちが考えているのは、特定の日に参加するのではなく、好きなタイミングで地域を訪れて楽しめる周遊型ARGです。自治体などの周遊型謎解きには、景品やコンプリートを一つの動機にして街を巡ってもらうものもあります。私たちはそこに、物語の続きを知りたいから街を歩くという動機を加えたい。その結果として、土地の歴史や特徴を知り、地域への関心が深まる。そういう形を目指しています」(吉野さん)

同じ「街を歩く」という行動でも、指定された目的地を回るのと、物語の続きを求めて自ら足を運ぶのとでは、動機が異なる。「あの場所へ行って確かめたい」と思えた瞬間、街を歩くこと自体が物語の続きになり、普段なら通り過ぎる風景の見え方も変わっていく。

体験した人が、次の参加者を呼ぶ

ARGをめぐる「参加」は、作品を体験して終わりとは限らない。体験した人がその面白さを発信し、それを見た別の人が次の参加者になることもある。

リー猫さんが、その接点として注目しているのがプレイ動画やライブ配信だ。

「ARGはネタバレとの相性が難しいコンテンツです。仕掛けを知ってしまえば、自分で体験する意味が変わってしまう作品もあります。それでも、配信を認め、収益化も可能にしている作品は多い。人気のインフルエンサーやVTuberがプレイすると、それを見た人が『自分もやってみたい』『次の作品はネタバレを見る前に参加したい』と思う。配信が、新しい参加者との接点になっている面はあると思います」(リー猫さん)

誰かが夢中になって調べ、考え、驚く姿そのものが、まだARGを体験したことのない人に、その面白さを伝えていく。その先には、作品を中心としたファンのつながりも生まれる。リー猫さんによると、現時点では、「ARGプレイヤー」という括りで横断的につながるより、作品やキャラクターを起点にコミュニティが生まれるケースが目立つという。

「ARGそのもののファンが一つの場所に集まるというより、特定の作品や、そこから生まれたキャラクターを中心に人が集まる形があります。ARGを起点に生まれたキャラクターがTikTokやYouTubeで活動し、そこから新しいファンが増えていく例もあります。ARGを体験した人だけに限らず、そこから生まれたコンテンツを通じて新しい人との関係も広がっていく。そうした広がり方は、今後さらに出てくると思います」(リー猫さん)

自分で調べ、考え、ときには実際に街を歩く。そうして物語に関わった時間が積み重なることで、体験を終えた後にも作品や登場人物への関心が続いていく。そして、その経験を誰かに伝えれば、今度はその人にとってのラビットホールになる可能性もある。

ARGで人を動かすのは、難解な謎や派手な仕掛けだけではない。「もっと知りたい」「確かめたい」「そこへ行ってみたい」。参加者の中に生まれた小さな動機を、無理なく次の行動へつなげていく。その積み重ねが、ARGならではの体験をつくっていく。

「もっと知りたい」を起点に行動を生む考え方は、企業のコミュニケーションにも応用できる。商品の特徴や会社の理念・歴史を知ってもらう、採用候補者に企業文化へ触れてもらう、地域への関心を実際の来訪につなげる。ARGの発想を生かすなら、企業が何を伝えたいかだけでなく、受け手がなぜそれを知りたくなるのかまで考える必要がある。

第4回では、PR、採用、地域活性化などの具体例から、企業がARGをどのように活用できるのかを取り上げる。

▼吉野さんによるARGコラムも連載中!
【連載】ARGが紡ぐ、新しいPRのカタチ

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参考文献

『ARGガイド2024 ~過去の名作から『Project:;COLD』まで~』(エレメンツ工房、2024年)