国内で1兆円を超える市場規模を持ちながら、深刻な人手不足と応答率の低下という構造的課題に直面するコールセンター業界(※)。24時間365日の迅速な対応と日本特有のきめ細やかな応対品質の両立が求められる一方で、リックテレコム「コールセンター白書2025」によると、オペレーターの採用難は約8割の企業に及ぶという。人に依存した従来の運営体制は限界を迎えつつある。
こうした現場の逼迫と顧客ニーズの乖離を解消すべく、コールセンターをAIで完全自律駆動させる新たなアプローチが動き出している。2026年7月、株式会社Helpfeelは、企業の「AI-Ready化(AIが業務を理解し、自律的に動ける状態に整えること)」を支援するコンサルティング事業の開始を発表した。東北電力株式会社における先行事例では、ナレッジのデータ構造化によって入電量約20%減を達成。現場の暗黙知を「AIが活用できる資産」へと転換する取り組みが、顧客対応の現場を根本からアップデートしようとしている。(文=JapanStep編集部)
(※)矢野経済研究所「コールセンターサービス市場/コンタクトセンターソリューション市場の調査を実施(2025年)」を参照

(引用元:PR TIMES)
Helpfeelが開始したコンサルティング事業は、AIが用件特定から回答、手続き完了までを自律的に遂行する「オートパイロットコールセンター」の実現を支援するものだ。
本事業では、AIが一足飛びにすべての業務を代替するのではなく、AIの習熟度に応じた6段階(Level 0~5)のロードマップに沿って段階的に自動化率を引き上げていく。最終段階となるLevel 5では、裁量判断や例外対応を含む全業務を自律型AIが担当し、人はAIの監督やマネジメントを行う運用体制を目指す。
(引用元:PR TIMES)
その先行事例として、東北電力におけるAIオペレーター構築プロジェクトの支援が進んでいる。東北電力では、2025年3月に自己解決AI「Helpfeel」を導入した結果、10カ月で月間16万PVに達し、顧客の自己解決が定着。問い合わせの入電量を約20%削減することに成功した。現在はロードマップの「Level 1(人とAIが利用するナレッジ基盤の構築)」を達成し、「Level 2(人を支援するAIの活用)」へと進んでいる。
取り組みの中核をなすのが、業務データの「AI-Ready化」だ。マニュアルやFAQにとどまらず、ベテランオペレーターの暗黙知や複雑な業務フローをAIが正しく理解・判断できるよう、意味付けを行って構造化する。その上で、900サイト以上(2026年4月時点)に及ぶ「Helpfeel」の導入実績で培った知見を活かし、組織体制の設計からシステム連携までを一気通貫で支援する。さらにはコールセンター領域にとどまらず、営業支援やバックオフィスなど企業活動全体のナレッジ構築への展開も見据えている。
HelpfeelによるAI-Ready化支援の登場によって、日本企業における生成AI活用のフェーズが、単なる「ツールの導入」から「現場におけるナレッジの構造化」へ移行しつつあるという事実が浮上してきた。
PwC Japanグループ「生成AIに関する実態調査2025春 5カ国比較」によると、国内企業の生成AI導入率は海外と同水準にあるものの、その効果実感は欧米の4分の1にとどまっているという。このギャップを生む大きな要因は、AIが参照すべき現場の知識や業務フローがデータとして整備されていない点にあった。どれほど高度なAIモデルを採用しても、判断の拠り所となる情報が整理されていなければ、精度の高い顧客対応は成立しない。現場の暗黙知を「AIが利用できるデータ資産」へ転換するプロセスこそが、AIの真価を引き出す鍵となりうる。
また、この事業が提示する価値は、人とAIが担う領域を、順を追って高度化させていく設計にある。自動車の自動運転と同様に、段階的なプロセスを経て定型対応や複雑なシステム連携をAIが自律遂行することで、現場のスタッフは例外対応や顧客体験の向上、AIのマネジメントといった、より付加価値の高いコア業務へ集中できる環境が整っていくはずだ。
労働力不足に直面する顧客対応の現場においては、単にツールの導入で人手を補うのではなく、組織に眠る知恵を活かしながら業務プロセスそのものを再設計していくアプローチが不可欠となる。Helpfeelと東北電力が提示したAI-Ready化のモデルは、企業がデジタル変革を加速させ、持続的な競争力を築くための一手となっていくだろう。
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